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増える人口、足りない農地 持続的な食糧供給に必要な抜本改革

ニューヨークタイムズ 世界の話題
世界最大級の食肉加工場で、塩漬けの肉を広げ、乾燥させる作業員=2017年12月19日、ロイター、ブラジルのサンタナ・デ・パルナイーバ
世界最大級の食肉加工場で、塩漬けの肉を広げ、乾燥させる作業員=2017年12月19日、ロイター、ブラジルのサンタナ・デ・パルナイーバ

気候変動対策で、世界が意味ある前進を成し遂げようとするなら、自動車や工場の排ガスを削減するだけでは不十分。牧場から小麦畑まで、抜本的に効率化しないと意味がなくなる。

米環境問題シンクタンク「世界資源研究所(WRI)」(ワシントンD.C.)が、そんな研究報告書を2018年12月5日に発表した。大きな気象災害を引き起こさずに、今より数十億人も多くの人口を養うには、向こう20~30年の間に世界の農業システムを抜本的に改革することが迫られている、と報告書は警告している。

これは実に手ごわい挑戦だ。農業はすでに世界の植生地域(植物に覆われた地域)の約40%を占め、人間活動に伴う温室効果ガスの約4分の1の排出源となっている。だが、世界の人口は、現在の約72億人から50年までには100億人近くに増えると予測されている。しかも今日、人びとの収入が増え、何百万という人がより多く肉を食べるようになった。このままのペースで進めば、食料生産に伴う環境への負荷は飛躍的に増加するのは必至だ。

報告書の執筆者たちは、現在の傾向をもとに、次のように算出した。世界の食料生産は、50年には10年当時よりカロリーベースで56%の増産が必要になる。もし農業者や牧畜業者が、森林その他の生態系を壊して農牧地にし、56%の食料増産に応えようとするなら(そうした開墾はこれまでも繰り返されてきたことではあるが)、最終的にはインド(訳注=面積約329万平方キロメートル)の2倍の広さの農牧地が新たに必要になる。

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ブラジル西部のアマゾン熱帯雨林。大豆栽培のために開墾された農地が広がっている=2008年2月25日、ロイター

そうなると、産業革命からの気温上昇をセ氏2度未満に抑えることで合意した国際目標は、たとえ化石燃料の排出物が激減したにしても、ほとんど実現不可能に近い。

森林が農地に開墾されると、樹木に蓄積されていた大量の炭素(C)が大気中に放出される。

「食料は、あらゆる持続可能性に関する課題を生み出す母(根源)だ」。WRI科学・調査担当副所長ジャネット・ランガナサンの言葉だ。彼女は「この食料システムを大きく変えない限り、私たちはセ氏2度未満に抑えることはできない」と語った。

肉を少なく、より良い農業

報告書は、フランスの農業研究者の協力を得て、6年分のモデリング作業で観察、分析してまとめた。その結果、世界に食料を持続的に供給していくことはとてつもなく難しい作業になる、と警告している。

こうした警告は初めてではない。これまで食料問題を調べてきた研究者たちは、持続可能な農業システムの鍵は、消費者が食べる肉の量といわゆる食品ロスを極力減らすことにある、と警鐘を鳴らしてきた。

しかし、今回の報告書は、この種の自制策にはどうしても限界がある、と指摘する。そのうえで執筆者たちは、欧米諸国のように牛肉や羊肉をたくさん食べる国ではその消費量を50年までに約40%減らす、あるいは週に平均1・5人前分に減らすよう提案している。牛肉や羊肉の生産は、とりわけ大量の天然資源を消費する。といって、世界の主流を菜食主義に転換するべきだなどと考えるのは論外だ。

「私たちは、不確定要素に依拠することは避けたい」とティモシー・サーチンガーは言った。米プリンストン大学とWRIの講師で、報告書の主執筆者でもある彼は「私たちは、牛肉から鶏肉へと意義ある転換を想像している。それだけでも大きな効果を生む」と説明した。鶏肉生産に伴う気候への負荷は、牛肉生産の約8分の1で済むのだ。

食事の見直しと食品ロスの削減に加え、研究者たちが重点的に取り組んだのは、農業者や牧畜業者が現在利用している農牧地で、炭素排出量を削減しながら従来以上の大量生産を可能にする食料戦略だ。十数項目にわたる広範囲な内容で、世界の農業に一大変革を求めるとともに技術革新を急ぐよう訴えている。

たとえば、と報告書は記す。ブラジルの一部だが、最高レベルに管理された放牧地は、管理が行き届かない放牧地に比べて単位面積当たりの牛肉生産量が4倍も多い。理由の一つに、家畜の健康管理や牧草への施肥の違いがあげられる。ブラジルだけでなく、生産性をもっと改善すれば、熱帯雨林を広範囲に放牧地に開墾するのを少しでも抑え、なおかつ食肉の需要増にも貢献できる、というのだ。

同時に、報告書の執筆者たちは、現在ある農牧地でも環境負荷を削減できる技術についても言及している。たとえば、亜酸化窒素は温室効果があるとされるが、最新の化学物質を使えば、窒素肥料から生成される亜酸化窒素の放出を防ぐのに役立つ。また、地球温暖化の大きな要因になっているメタンガスに関しても、科学者たちは、有力な発生源である牛のゲップを少なくする飼料添加物を開発している。

報告書は、50年にはカロリーベースで56%の増産が必要になるとしている。しかし、予測されていることだが、気温の上昇で穀物生産量が減少していけば、農地をこれ以上広げないで56%も生産量を上げるのはさらに難しい、とも記している。それでもサーチンガーは、新しい、収穫性の高い穀物への品種改良、あるいは土壌の浸食を防ぐ手立てを講じれば、農業者の気候変動対策に役立つ、と語った。

世界に残された森林の保護

今ある農地や牧草地で食料の生産量を上げるには、ブラジルやアフリカのサブサハラなど各地に現存する森林の保護と組み合わせた戦略が必要だ。研究者たちはそう強調している。農業者は森林を開墾した方がずっと利益が上がると分かっている。それでは悲惨な気象変動を招くだけだ。

「これまでは、農業政策と森林保護政策がすれ違ったまま並行したケースがよくあった」とBreakthrough Institute(ブレークスルー研究所、米カリフォルニアのシンクタンク)の保護部長、ライナス・ブロンクビストは言った。ブロンクビストは今回の報告書には関わっていないが、「大きな課題は二つ(農業政策と森林保護)をリンクさせることだ。そうすれば農地を広げないでずっと集約的な農業ができる」と語った。

もう一つ、これは議論を呼びそうな提案だが、報告書を執筆した研究者たちは、自動車用バイオ燃料の原料として生産されているトウモロコシなど、いわゆるバイオエネルギー作物を規制するよう呼び掛けている。こうした作物は食料用の作物生産と競合するからだ。

資金面での課題もある。たとえば、化石燃料を使用しない肥料を作る。食品ロスを減らすために食物の鮮度をより長期間保持できるような有機スプレーや、収穫率がより優れた穀物を生産するためのゲノム編集技術を開発する。報告書は、そうしたアイデアを研究するための費用を大幅に増やすよう求めている。同時に、持続的な農業に向けた民間の技術開発を促すような法整備も呼び掛けている。

今回の報告書に協力した世界銀行の農業経済学者、トバイアス・ベーデカーによると、過去3年間、51の国が費やした食料生産の助成費用は毎年約5700億ドル(約64兆4100億円)にのぼる。

こうした助成金を見直し、もっと持続可能な農業を支援するようになれば、とベーデカーは言った。「私たちは本当に大きな変革を成し遂げられるだろう」と。(抄訳)

(Brad Plumer)©2018 The New York Times ニューヨーク・タイムズ

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