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火山への備え、リスク分散と知識がカギ 鎌田浩毅・京大教授

LifeStyle 更新日: 公開日:

東日本大震災をきっかけに、日本は大地動乱の時代が始まってしまいました。9世紀の平安時代以来のことです。地面が5メートル動いたせいで、日本列島自体が不安定になっているのです。

あれから約20の火山が動き出しました。たぶんあと30年ぐらいは変動が収まらないのではないでしょうか。世界的にもマグニチュード9の地震が起きた後は数年以内に必ず火山が噴火しています。

また、2030以降、2040年ぐらいまでには、南海トラフ巨大地震が起きると予想されています。被災する地域の人口が圧倒的に多いため、被害は東日本大震災の10倍にもなりえます。これは確実に来ます。過去の実績がよく調べられているからです。

南海トラフ地震が起きた時には、富士山が噴火したり、山体が崩壊したりする可能性もあります。1707年の富士山の宝永噴火は、南海トラフで発生した宝永地震の49日後に起きています。

このとき富士山は火山灰を江戸に降らせています。もし東京に5センチ火山灰が積もったら、水道、電気、ガスが止まり、電車も車も動かず、ライフラインが止まります。花粉症なんて比ではない大規模な健康被害も起きるでしょう。

地震が火山噴火を誘発した例はたくさんあります。マグマだまりが地震で揺すられることがきっかけになります。マグマには5パーセント程度の水が含まれています。水が入ったマグマが、ギリギリ安定しているところに、地震で揺すられて噴火に至るのです。あるいは、マグマだまりの周りの岩石に亀裂が入って噴火するというモデルも考えられます。

富士山はこの300年間、マグマをためこんでいます。平安時代は50~100年に1回程度、噴火していました。200年間静かだった後に噴火した前回でもひどかったので、次はそれくらいの大きな被害になる可能性があります。噴火と噴火の間が長いと、エネルギーをため込んでいて怖い。これが経験則です。

九州などで繰り返されてきた巨大噴火も非常に怖い。鬼界(きかい)カルデラの噴火で一帯の縄文人は全滅しましたが、阿蘇カルデラでははもっとすごかった。4回大噴火していますが、最後のものでは火山灰が北海道でも10センチ積もっている。ここ京都なら50センチは積もるかもしれない。九州で巨大噴火が起きると、偏西風で火山灰が運ばれ、日本列島では暮らせなくなります。こうした巨大噴火は、7000年に1回ぐらいの頻度でおきています。

しかし、私たち日本民族は無数の地震と噴火に遭遇しているのに、死に絶えていません。変化に強いのが私たちなのです。

これからも生き残るために何が必要か。一つは知識を持つことです。知っているかどうかで災害の被害は格段に違います。ちょっとしたことでも災害の死者は何十%も減ります。たとえば、地震が来ると聞いて10秒頭を守るだけでも違う。もしエレベーターに乗っていたら最寄りの階で降りる。地下にいて地震に遭ったら30分以内に3階まで上がる。こういう知識を持っているかどうかで生死が分かれることがあるのです。

巨大噴火のような、7000年に1度の災害ならどうでしょう。全員の命を守れないなら、日本民族として絶滅しないことが大事だと思います。だれかが生き残れるような社会をつくることです。それには、リスクの分散が欠かせません。

東京にこれ以上一極集中しない。水と食べ物をあちこちに確保しておく。情報も分散しておく。それを今からやっておけば、だれかが生き残れます。そしてだれかが生き残れば、いずれまた復興できます。頻繁に襲ってくる地震への対策はハードも必要でお金がかかりますが、噴火への対策は知識とリスク分散がほとんどなので、それほどお金はかかりません。

九州で巨大噴火が起きたら、いったん日本から退去するしかないでしょう。私が講義で学生に話しているのは、英語をよく勉強しなさい、ということです。あと、専門分野だけでなく教養の勉強も大事。実は専門よりも教養の方が非常時には強いのです。専門は5年で食えなくなることもありますが、教養さえあれば海外でもコミュニケーションがしっかりとれて、何らかの仕事ができるでしょう。最近、人文系の学問を軽視する動きがありますが、もってのほかだと思います。




かまた・ひろき 

専門は火山学、地球科学。「火山はすごい」「火山と地震の国に暮らす」「マグマの地球科学」など著書多数。1955年生まれ。ホームページhttp://www.gaia.h.kyoto-u.ac.jp/~kamata/


(聞き手・江渕崇)