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競争の条件を同じに ベトナム

World Now 更新日: 公開日:
photo:Kamiya Takeshi

ヴォ・チー・タン ベトナム中央経済管理研究所副所長

競争の条件を同じにすることが大切

photo:Kamiya Takeshi

ベトナムは平均7%の経済成長を続けてきましたが、2011年からは平均6%台半ばにとどまっています。特にここ数年は5%台です。財政赤字はGDPと比べて5%あるし、公的負債もGDPの65%に達しています。そこで政府は11年から政策を転換しました。安定的な成長をめざして、財政の改善や国営企業の改革などに取り組んでいます。

改善の兆しは見え始めています。昨年は6%成長でしたし、今年は6.2%の目標を達成できると思います。経済成長のためにも財政問題を解決するためにも、ビジネス環境の改善が大事です。外国企業と国内企業、国営企業と民間企業の競争の条件を同じする、つまり同じルールでゲームをできるようにして、投資家からの信頼をさらに得ることが大切になります。

そのためにベトナムは環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に加わりましたし、東南アジア諸国連合(ASEAN)の経済統合や、個別の国との自由貿易協定(FTA)も進めて、経済統合を深化させようとしています。

ASEANの経済統合では、関税収入の減少が指摘されています。税収全体に占める関税の割合は1990年代、20%近くありました。いまは10%ほどになっていますが、税収全体に占める割合はまだ大きい。関税収入が減るインパクトを、二つの点で相殺しなければいけません。

一つは、関税の税率は下げても、課税のベースを広げることです。もう一つの要素は、これがもっとも大事なのですが、経済統合によってもたらされる高い経済成長を生かすことです。経済統合によって企業の活動が活発になれば、そこから税収が得られます。これを実現していくことで、政治リーダーたちは、さらに経済統合を後押ししていくことができるのです。

ただ、関税収入の減少に見合う新しい税収は、どこかで見つけないといけません。ベトナム政府にとって大きいのは原油収入ですが、原油価格の低迷であまり期待できません。そうするとカギは国内活動からの税収です。ただベトナムでは、個人の所得税や法人税への依存は、まだ高くありません。徴税のシステムが未整備だからです。消費税など間接税への依存のシフトが起こっているのは、そのためです。

ベトナムに進出した外国企業への課税も、移転価格を厳しくみることで強化しています。数年前の調査で、外国企業の17%が赤字という結果が出ました。ただ、外国企業は「利益が出ていない」というのに、多くは同時に投資を続けていました。当然、どうしてだろう、という疑問がわきます。政府はそこで初めて、利益がどこにいっているのか関心を持ち、移転価格について真剣に考え始めました。いまは政府内に移転価格のタスクフォースをつくって外国企業を監視しています。もし不正に利益を移していれば、もっと税を払うように求めるのです。

しかし、ここで一つのトレード・オフ(二律背反)が生じます。つまり、ベトナム政府は外国企業をたくさん呼び込もうとしているのに、移転価格について外国企業に厳しく対応すればするほど、外国企業にとってビジネス環境が魅力的でなくなるのです。一方、移転価格について厳しく当たらなければ、今度は税収の確保の面で問題が起こります。こういったことはベトナムだけで見られることではありませんが、このハンドリングはとても難しいのです。

(聞き手:神谷毅)


金容植(40)KCTベトナム法人長(韓国の銅製品会社)

手厚い省政府の支援

photo:Kamiya Takeshi

ハノイから南へ約50キロにある工業団地に2007年、工場をつくりました。モーターや配電盤に使うエナメル線を生産しています。当時はベトナム政府のルールに基づいて合弁でしたが、いまは100%出資の会社となっています。製品のうち7割をベトナム国内向けに売り、残り3割を輸出しています。社員は800人です。

私は、ここに来て3年になりました。ベトナム語も少し話せますよ。(でも、さっき、「こうぎょうだんち」「はいでんばん」と日本語で言いましたよね?)はい、むかし日本企業と取引をしていたからです。まだ少し単語を覚えているんですよ。

ベトナム政府は韓国と日本の企業には最長で7年間、法人税を免除してくれます。なぜ、この二つの国かというと、ベトナムに入ってくる外国投資のうち、韓国と日本がほぼ同じ額で1位と2位を競うほど、大事な国だからです。それに、中国とはあまり関係が良くありませんし。また中国の人件費はすごく上がっているので、現地の韓国企業の多くがベトナムに移ってきています。

うちは機械生産が中心なので社員数は多くないのですが、機械を操る熟練工が必要ですし、操業開始から時間もたったので彼らの職位を上げなければいけません。ですので、周りの工場より少し人件費は高く、月300ドルほどです。ほかの労働集約的な工場なら、200ドルほどだと思います。ベトナム経済は発展を続けているので、賃金は年15%ほど上がっていますが、まだまだ耐えられるレベルです。これが500ドルになると、きついかもしれません。

税のからみでいえば、うちは製造業といっても素材産業で、本国と部品のやりとりが多い組み立て企業ではないので、移転価格はあまり関係ありません。その代わりに本国とお金のやりとりをするのが、技術支援料です。本社と技術支援の名目で契約を結び、毎月、一定額を本社に送っています。持続的に技術支援を受けないと、本社と同じ品質の製品をつくることはできませんから。

この送金を使って、本社に利益を送っているという面もあります。もちろん、違法ではありませんよ。ベトナム政府の外貨の管理が厳しいので、こうした形を取っている面があります。もし、これが組み立て生産を行っている企業などだったら、部品のやりとりがたくさんあるので、そうした流れのなかで、もっと簡単に利益を「つくる」ことができると思います。

うちの投資額は累積で2000万ドル(約25億円)です。この工業団地に一番早く入ってきた企業でもあり、省政府の支援はとても手厚いです。税の面では、省政府が助けてくれる部分が、かなりあります。このため省のトップや共産党の委員会としっかり協議をすれば、支援を引き出すことができます。これは伝え聞いた話ですが、省の役人も昇進には実績が求められるので、外国企業への支援にはとても熱心なのです。



(構成:神谷毅)