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橋下徹が語る「ポピュリズムが広がる世界」(3)

World Now
前大阪市長・橋下徹=いずれも仙波理撮影

国末 トランプが今後つまずくとすると、どういうところだと思いますか。

橋下 これまでに言ってきたことをできなかったときですね。課題を突きつけて、大統領選に勝った。今度は組織を動かして課題を解決しなきゃいけない。それができなかったとき、有権者から総スカンを食らうでしょう。

メキシコとの国境に壁をつくる。これはやるんでしょう。これも現実路線になって、壁だけじゃなくて一部はフェンスでもいいんだと言ってます。当たり前ですよ。彼が言いたかったのは国境管理の厳格化ですから。メキシコとアメリカの国境管理があまりにもずさんだから、国境管理をしっかりやりますよ、と。これはすぐできるでしょう。

それから犯罪歴のある密入国者、不法移民を200万~300万人返す。これは日本でもやってますよね。世界各国で、密入国者、不法滞在者、しかも犯罪歴のある人間に、そのまま市民権を与える国なんて僕は知りませんよ。今までアメリカは不法移民に寛容すぎたんです。これに加えて、犯罪歴のない不法移民に市民権を与える法律を、議会の共和党を抑え込んでつくったら、こんな大統領は過去にいないというくらいすごいと思います。オバマ大統領でも法律の制定はできなかった。大統領令でやりましたが司法に無効とされた。そして密入国者、不法移民に法律上真正面から市民権を与えるという国は世界にも類がない。実現できれば素晴らしいことです。

国末 トランプの他の政策をどうみますか。

橋下 貿易政策も、じつは理にかなっています。
TPP(環太平洋経済連携協定)から離脱する方針を掲げているので「自由貿易反対論者」であるかのように言われていますが、これは違う。彼は「多国間協定」から「2国間協定」に変えようとしているだけです。これもアメリカの利益を考えている。多国間協定だと、中小国が手を組んでアメリカに譲歩を迫ってきます。2国間協定にした方がアメリカにとって条件の良い協定を結ぶことができる。トランプはそう確信しているんでしょうね。決して自由貿易の否定じゃない。

この貿易の話に「安全保障上、同盟国はフェアな負担をしていない」という話を絡めてきました。いくら日本が「カネの負担」をしていると言っても、「血の負担」はしていません。日本に負い目を感じさせて、貿易協定で有利な立場を得ようとしている。トランプは交渉人そのものですね。

これまで防衛費の増額を嫌っていたNATO加盟国が、トランプ当選という結果だけで、素早く防衛費の増額を決めました。日本がトランプから求められる防衛費負担の増額は2000億~3000億円くらいじゃないですか? そのくらいはさっさと「払う」と投げ返して、その代わり、日米地位協定の改定や、沖縄米軍基地の再配置の交渉に乗り出せばいいと思いますよ。日本が主体的に国の防衛を考える最大のチャンスです。

日本の政治力が試されます。貿易協定も、EUからの離脱を決めた英国や、トランプのアメリカとそれぞれ2国間協定を結んでいけばいい。坊ちゃんお嬢ちゃんの、頭でっかち、きれいごとの政治では、彼らには太刀打ちできません。

さらにシリア問題ですよ。ポリティカル・コレクトネスを重視する人間は、アサド政権も人権侵害をしているから倒さなきゃいけない、イスラム国(IS)も倒さなきゃいけない。両方とも倒さなきゃいけないと言ってる。オバマはそんなきれいごとを言うから、結局何もできない状態になってるわけです。トランプは、どれだけ本気か分かりませんけど、今までの発言を見ると、まず優先順位はISの壊滅だと。そのためにはアサドを暫定的にでも認めて、ロシアと手を組まなきゃいけない、と。優先順位をしっかりつけて目的を達成させる。すごい判断をするなと思いますね。

西側諸国で「アサドを認める」なんて言ったら、メディアから総攻撃を受けますよ。あんな人権侵害の独裁者を認めるのか、って。でも、ISを壊滅させるためにはしょうがない部分があるんです。これで本気でISを壊滅させたら、もうトランプは他の仕事をやらなくていいんじゃないですかね。

国末 アメリカとロシアが手を組むとすると、たとえばウクライナはものすごく困ります。そういう世界でいいんでしょうか。

橋下 僕もそこはお聞きしたいんです。朝日新聞が言うような「世界平和」は理想ですよ。でも、世界平和のために大国と大国が協調するときには、小国の平和と矛盾する場合が出てくるわけです。世界190カ国の利害が全部一致するような平和が、実際にあると信じてるんですかね。

国末 国際法で「主権を侵さない」というのは原則だったわけです。それをロシアは破ってしまった。どう考えてもウクライナが良い者で、ロシアが悪者という構図ですよね。

橋下 僕も力ずくの併合とか、そういうのは良くないと思いますよ。でも、もともとウクライナで政変が起きたわけじゃないですか。親ロシアの政権が倒されて、親EUの政権になって、プーチンがあわてて強引にクリミアを併合した。僕もクリミアの併合のしかたは認めないけど、じゃあその前にウクライナの親ロシア政権が倒された過程はどうなんだと。あれは非民主主義的な過程で倒していったわけですよね。

国末 そのへんの議論はいろいろあるでしょう。

橋下 そうです、議論があるんですよ。現在のウクライナが善で、ロシアが悪というのは西側の価値観で決めつけているだけなんです。実際の世界情勢を見ると、国益と国益がぶつかりあうのが現実じゃないですか。僕はやっぱり、大国が紛争を起こさない世界はいいと思うんですよ。そうなると、西側諸国が「クリミア併合を認めない」と言って、ロシアがそれに対して反発を続ける。それでいいんですかね。それとも、クリミア併合についてはいったん棚に上げて、ロシアと中国とアメリカで大きな紛争が起こらないような協調的な国際社会をつくっていくのがいいのか。

クリミア併合については国際法に反するし僕も賛成はできないけど、今、世界政府というものがない以上、ロシアが国際法違反を自ら認めてクリミアを解放しない限り、事態は打開しない。そこでトランプは優先順位をつけて、まずロシアとの協調をとると判断したわけでしょ。オバマはロシアと敵対したままシリア問題を解決できなかった。その方がいいのか。これは選択ですよね。

いま国末さんが言われたように、クリミアの併合を絶対に認めないという考え方も一つあるけれども、トランプの考え方が全部間違いで、世界のことを何も考えてないっていうのはどうですかね。僕はやっぱり、両方の考え方があって、あとは選択の問題だと思ってます。

どっちが正しいかは正直分からないですよ。大国のアメリカ、ロシア、中国が手を組んでコントロールする世界は、日本にとっては窮屈でしょう。ウクライナの立場がまさに日本の立場ですから。中国やロシアの価値観が太平洋に押し寄せてくる。それは僕は日本国民として非常に嫌だけれども、ただ、トランプの考え方が完全に間違ってるとは思わないんです。最後はアメリカ国民の選択です。

政治って、常に究極の選択を迫られる。誰からも文句を言われない判断の方がまれです。その判断から逃げていては重要な課題を解決できない。課題を解決するために、反対はあるけれども究極の判断をしていく。オバマよりも、トランプの方がしっかりと判断をしていると思います。

インタビューする編集長の国末憲人(左)

トランプの下品な言葉尻だけにヒステリーになると、このようなトランプの問題提起に気づかなくなってしまいます。今回のメディアや知識人たちがそうだった。ところが多くのアメリカ国民は、アメリカの課題をしっかりと考え、トランプの問題提起を真正面から受け止めたんでしょう。