手厚い福祉が評価され、デンマークは2013年の国連報告書で「幸福度」世界一になった。支えるのが高い税だ。消費税は25%、平均的な給料なら半分近くが所得税として集められる。これは、世界トップの水準。日本では、それぞれ8%、20%台だ。
デンマークは移民に寛容な国といわれてきた。1960~70年代にかけて、労働力を補うためパキスタンやトルコなどから出稼ぎ労働者を受け入れた。定住する人も多く、いまや人口560万の約1割を移民が占める。デンマークの人たちが避ける厳しい仕事を担う欠かせない存在ともなっている。
ただ、風向きが変わりつつある。今年6月の総選挙で、移民を増やさないことを掲げた右翼のデンマーク国民党が第2党になった。移民は、あまり税を納めないのに、高いサービスだけは受けているのではないか。そんな「ただ乗り」批判が強まっている。国民党は中道左派以上に手厚い福祉政策を掲げており、そのためにも移民は受け入れられない、としている。
デンマーク商工会議所で租税政策担当のトップを務めるヤコブ・ハウン(43)は、税務当局や国会、民間団体で働いた経験を持つ。彼が示した13年のシンクタンクの試算によると、納めた税額から、医療や教育など政府から受け取るサービスの額を差し引いた場合、先進国の出身でない移民は1人あたり年1万7000クローネ(約30万円)、納税額が足りない。一方、先進国からの移民、つまり高い技術や知識を持った人たちだと納税額の方が1万9000クローネ多い。ハウンは「教育を海外で受けた後に移ってきたからです」と話した。
難民を助けるNGO代表のミケラ・ベンディクセン(47)は、同じ理屈を使って逆の見方を示した。「例えば25歳で来た難民なら教育は終えており、働き出せばすぐに納税者になります。難民や移民は長期的にみれば社会への投資です」
財務省局長のマッズ・キーラー(51)は国民が高い税負担を受け入れる理由について、「国から福祉サービスが得られることを人々が信じているから」と説明した。移民については、「デンマークモデルを続けるカギは、移民とデンマーク人が交わり、一つになること。人々が一つの社会に属していると感じ続けられることが大事なのです」。
(神谷毅)
(文中敬称略)
■国際連帯税の挑戦
海外旅行をしたら、あなたも知らないうちに国境を越える税金を払っているかもしれない──。
現在、フランスや韓国など13カ国で実施されている航空券連帯税のことだ。フランスなら、国際線のビジネスクラスで約45ユーロ(約6000円)、エコノミーで約4.5ユーロが代金に上乗せされる。税収はUNITAIDという国際機関などに入り、途上国での感染症対策やアフリカの支援に使われている。日本でこの制度の導入を推進するNGO「グローバル連帯税フォーラム」の試算では、韓国とフランスを訪れた日本人観光客だけでも年間約10億円の連帯税を払っているという。
日本の外務省によると、航空券連帯税の2013年の税収はフランスで約1億8000万ユーロ(約240億円)、韓国では約200億ウォン(約21億円)という。日本でも、国会議員の議連が立ち上がり、外務省が10年度の税制改正から毎年要望しているが、航空業界の反発などもあり実現には至っていない。
航空券連帯税は、地球規模の課題に対応するための資金を、国境を越える営みに課税して確保する試みで、「国際連帯税」とも呼ばれる。
きっかけとなったのは、世界の貧困や飢餓の撲滅などを目指す国連のミレニアム開発目標だ。先進国によるODA(政府の途上国援助)だけでは実現のための資金が不足することが明らかになり、「革新的資金調達」の方法として議論が始まった。グローバル化の恩恵を受ける経済活動に課税して、貧困や温暖化などグローバル化の陰の部分の対策に必要な財源に充てるという考えだ。
■投機を抑制する連帯税
通貨、株式、債券などあらゆる金融取引に課税する「金融取引税」(FTT)も国際連帯税の一つ。リスクの高い投機的な取引が一因とされる金融危機が度重なり、地球規模の損害を生んできたとの考えから、投機を抑制するのが狙いだ。
FTTは、米国の経済学者でノーベル賞を受賞した故ジェームズ・トービンが1970年代、投機抑制のために、短期的な為替取引への課税を提唱したことから「トービン税」とも呼ばれる。EU(欧州連合)は当初、全加盟国での導入を目指したが、反対も根強く、フランスやドイツなど11カ国が先行することで合意。2016年1月の開始を目指して調整中だ。
この制度が始まれば日本も無関係ではない。参加国の金融商品を日本企業や投資家が取引しても課税される。ただ、日本では「金融の自由化に逆行する」(財務省幹部)との考えから、議論は低調だ。最大の経済大国の米国は積極的ではないとされ、世界的金融街を抱える英国も強硬に反対している。徴税権は国の主権の根幹という考えは根強く、国際的な課税の枠組みを確立するのは容易ではない。
(杉崎慎弥)
(文中敬称略)
■免税店はアジアに勢い
海外を旅行すると、必ずと言っていいほど目にするのが免税店だ。だが、ブランド品などが安くなることは分かっても、その仕組みや起源などは、意外と知られていないのではないだろうか。
空港の出国審査後のエリアや、国際線の機内などでの買い物で使われる仕組みが「DUTY FREE」だ。航空券を見せて、買った品を使わないまま国外に持ち出すことを示すことで、消費税などに加えて、輸入品にかかる関税も引かれる。国際空港にあることが多く、「空港型免税店」とも呼ばれる。
なぜ関税が免除されるのか。それは免税店の所在地が、日本の関税法だと「保税蔵置場」と呼ばれる場所にあるからだ。つまり、輸入前で関税がかかっていない商品の保管場所で売っているという理屈だ。
空港型免税店は、1947年にアイルランド西部のシャノン空港で誕生したとされる。空港のホームページによると、大西洋を行き来する乗客を対象に、数平方メートルの売り場を開設。関税抜きの価格が評判となり、その後、世界各地に広がったという。
空港型免税店の大手「DFSグループ」(本社・香港)は60年代に免税ビジネスを始めた。最初はお酒や車を米軍や軍関係者に売るのが中心だったという。その後、航空網が発達して海外旅行者が増えたことなどから、空港型免税店の需要が拡大。欧州を中心に市場は成長してきた。
2012年、市場の変化を象徴することが起きた。スウェーデンの調査会社「ジェネレーション・リサーチ」(GR社)などによると、それまでトップだった欧州の売り上げをアジア太平洋が上回り、初めて世界一となった。中国などの新興国の経済成長が理由と見られる。
アジア太平洋での売り上げはここ10年で3倍以上に成長。昨年のシェアは38.6%に達し、他地域との差を広げつつある。市場全体も伸び続ける見通しで、GR社は、14年の634億ドルが20年には850億ドルになると予測している。
一方、日本国内でいま注目を集めているのが「TAX FREE」だ。外国人観光客や日本に住んでいない人が対象。空港型と違い関税はかかるものの、一定額以上(消耗品は上限あり)の商品を買った場合、消費税が免除される。消費税や類似の税は、国内で消費される商品やサービスにかかる。このため、財務省によると、海外に使わないまま持ち出す商品には「課税すべきでない」というのが世界標準だという。消費税などがある多くの国や地域では同様の制度があるとみられている。
1年半後に消費税が10%にあがることが予定されている日本で、免税は外国人観光客の呼び水になると期待される。観光庁によると、今年4月の消費税免税店は約1万9000店で、この半年間で倍増した。
免税の対象は14年10月から食品などの消耗品にも広がった。これで約100億円の減収になるという財務省の試算(13年度)もあった。ただ、観光庁によると、今年7~9月の訪日外国人の一人当たりの支出は前年の同じ時期と比べ2割近く増えた。観光戦略課は、免税店の数が増えて売り上げが伸びれば法人税の収入が増え、雇用拡大の効果もあるとみている。 (杉崎慎弥)
(文中敬称略)