Review01 川口敦子 評価:★★▲(満点は★4つ、▲は半分)
リベラルの偽善 痛烈に
アメリカのお笑いコンビ“キー&ピール”のジョーダン・ピールは、黒人の父、白人の母をもつ自身の居場所、二つの文化のはざまにある眼を味方につけ、痛烈な笑いで人種問題を突いてきた。初の監督作『ゲット・アウト』でもアメリカの暗部に切り込んでいる。
開巻まもなく、白人の恋人の実家を訪ねる予定の主人公が「両親に僕が黒人だと伝えた?」と念を押す。そんなやりとりは、黒人と白人の結婚をめぐる家族の混乱を描いた1967年の米映画『招かれざる客』を想起させる。が、差別に抗してまっすぐに主張し得た反体制の時代と映画は、今、振り返るとナイーブとも映る。ピールの映画がみつめる現代の人種問題はより複雑なねじれをはらんで、だから差別への問いかけも屈折したものになる。
保守反動化が進み白人優位主義が跋扈(ばっこ)する21世紀のアメリカで生きる黒人の恐怖をピールはホラー映画として語る。そこではリベラルの皮をかぶって生きる白人の嘘、偽善の怖さも暴かれていく。どこか怪しい白人コミュニティーへの違和感を積み上げるピールの手際は周到だ。ただ異様さがヒトラーまがいの暴挙と結ばれる後半にかけ、こけおどしの効果音とショック演出が鼻につき、せっかくの主題や主張が上滑りしてしまう。
恐怖を笑うコメディーともなり切れず物足りなさが残る。とはいえ“建前の公正さ”をかざす社会の裏面にある根深い問題を娯楽作として多くの観客に届ける志は貴重だと思う。
Review02 クラウディア・プイグ 評価:★★★★(満点は★4つ)
人種問題=ホラーの現実
社会的な主張は通常、ホラー映画で語られることはないが、今作は米国社会を痛烈に批判した史上最も思慮に富んだホラー映画だ。人種問題の不当さへの鋭い観察を娯楽に昇華させ、身を乗り出す緊張感と鋭いユーモア感覚で迫る。奴隷制を描いたベスト映画との呼び声もある。
ピール監督いわく、米国の人種差別問題はホラー。米国の日常を生きる黒人に何が起きるのか、巧みに取り込み、彼らの不安や恐怖を詰め込んだ。微妙なジョークやあからさまな恐怖で人種ステレオタイプをさらけ出し、風刺と共に徐々に恐怖を増し、予想もつかない形で進む。米国で公開されるや批評家は絶賛。白人至上主義者と抗議デモとの衝突や、若い黒人が白人警官に殺される事件が相次ぐ中、この上なくタイムリーな作品となった。