商品は 2000 万点以上 事業成長サイクルを支える膨大なデータの分析
“間接資材”は、工具、作業服、空調、照明など多岐にわたる。企業は通常、これらを調達する時は専門商品を扱うそれぞれの小売業者と相見積もり、価格交渉、納期確認をしなければならず、購買担当者は多くの時間と手間を使っているのが現状という。
MonotaRO は自ら在庫を持ち、価格や納期を明示したオンライン販売の手法で、担当者が購買にかける「時間」と「手間」を大幅に縮小して担当者の利便性を高め、飛躍した。取り扱う商品を増やし、顧客が増えることで、さらに利便性が高まる事業成長サイクルを描いている。そのため既存顧客の膨大なデータを多方面から分析し、それぞれのニーズに沿った商品を案内することを重視している。
現在、製造業、建設業、工事業、自動車業を中心に登録ユーザーは 857 万を超える(2023 年 6 月末現在)。2022 年の売り上げは単体で 2166 億 3800 万円と、成長は右肩上がりだ。
急成長の背景を読み解くと、見えてきたのは Google Cloud の 2 つのサービスを駆使したデータの活用だった。
MonotaRO はまず、Google Cloud のデータウェアハウス製品である「BigQuery(ビッグクエリ)」を 2014 年に導入。社内のデータを集約し、SQL (データ抽出するための言語)を使ってデータの集計や分析を行えるようにするため、データ基盤を整えた。続いて、その基盤を生かしてデータの管理や活用のため、2020 年に BI(ビジネス インテリジェンス)ツールの「Looker」を取り入れて商品の実績管理や販売戦略に生かしている。
販売実績を即確認 商談もスムーズに “ダッシュボードの効果”
吉田亮太さんは 2019 年に入社後、商品部門で新商品の採用や仕入条件の交渉などを担当することになった。扱う商品は MonotaRO が扱う 2000 万点以上のうち約 700 万点。採用する商品を決めるには過去の実績を日常的に見ることが必要になるが、データを入力して表計算ソフトで集計するにはあまりにも数が膨大すぎる。欲しいデータを出そうと思えば出すことはできるが、難易度が高く、時間がかかることが課題だった。
そこでダッシュボードを活用。瞬時に示される販売実績を定期的に確認しながら好調なカテゴリーを把握し、理由を探り、採用する商品の決定や値付けに反映させている。
その手法はサプライヤーとの商談でも生かされている。これまでは、受けた質問に対して即答できずに持ち帰り、後日調べるということがあったが、ダッシュボードがあればその場でデータを可視化できるので、話がスピーディーに進み商談がより深掘りした内容を協議できる場となった。
例えば、ホースの売り上げが前年より大幅に伸びているという情報を共有した時、サプライヤー側の動向との違いや要因を確認するために、その「ホース」が樹脂製のものかゴム製のものかなど、実際のデータの確認が必要となる。その際は、Looker のダッシュボードならばデータの階層をひとつ掘り下げればすぐにわかる。さらには具体的に売れているのはどの商品なのか、購入者はどういう業種なのかも示すことができる。そうすることで、なぜ伸びているのかの要因について協議ができ、それが再現性のあるものなのか、横展開ができるのかなど、次のアクションに向けて話をすることができる。
「不確かな過去の経験値で話をするのではなく、実際のデータを出して話を深掘りできる。実際のデータを根拠にしているので、発言の正確性がかなり高まった」と吉田さんは実感している。
欲しいデータを瞬時に手に入れることができ、社内の他部署との連携でも最新データを前提とした共有ができているため、次の施策の話がしやすくなったという。また Looker の導入で参照するデータが統一できたことで部門間での数字のズレがなくなり、判断を誤る懸念が払しょくできたのも大きな変化だという。
社内にデータ分析を浸透させるための工夫
MonotaRO がデータウェアハウスに BigQuery を導入したのは、データ活用を全社的に進めるために、それまでマーケティングの部署で使われていた販促基盤をさらに高度化させたいと考えたからだった。最適なツールを探す中で、 BigQuery にたどり着いたという。操作性がよかったことや、当時からすでに使っていた Google アナリティクスなど他のツールとの連携がスムーズだったことなどから導入を決定した。
BigQuery には社内のすべてのデータを集約。データ基盤を社内に浸透させるため、チャットツールで問い合わせ専用のチャネルを作ったり、説明会を開いたり、データを業務に生かしやすいようなツールを作るなどして、多くの社員がデータ活用できるよう推し進めた。
IR・広報グループの平尾紀美江さんは「チャットでは気軽に聞ける雰囲気があり、ささいな問い合わせにも何らかの回答をしてもらえる。それがデータ活用する社員の増加につながっている理由のひとつだと感じる」と話す。
コアシステムエンジニアリング部門でデータ基盤を担当する吉本直人さんは「ツールを使うことで、課題に対してどんな成果が得られたのか。実例を聞くことで『よさそうだな』と思って触ってみようという人が増えるし、自分たちのデータ基盤の改善につながるヒントにもなる」と言う。
専門スキルがなくてもデータ分析ができる 「便利さ」を伝達
2023 年 7 月の BigQuery の利用状況は、ユニークユーザーで 1000 を超えた。
MonotaRO の社員は 700 人余り。
「社員はもちろん、派遣やアルバイトも含めて非常に多くの人たちが何らかの形でデータに触れているということ」と吉本さん。
BigQuery の導入を推進することで多くの社員がデータを活用するようになったが、データ活用に関するナレッジや分析指標の定義が個別やグループ内での管理に留まり、SQL の書き方の違いにより数字のズレが発生するなど課題もあったという。そこで Looker を導入することで、データ定義の統一化をはかった。また SQL スキルがなくてもデータ抽出ができるという利便性の高さを生かし、データに関して社員が共通理解を持ったうえで横断的に活用するための仕組みづくりを実行した。
データ活用を推進するにはツールの導入だけでは不十分。機能を生かすためには使える人が多くいてこそ。 Looker の導入に当たって、MonotaRO ではデータ部門だけではなく、業務部門で幅広く業務の知識を持っている人やデータ分析に長けている社員とともにプロジェクトチームを発足。業務と直結する社員のニーズを汲み取り、整備を進めた。全社一斉に推進するのではなく、まずはプロジェクトメンバーを中心にサポートをすることで効果を感じてもらい、プロジェクトメンバーが自分の部署に戻ってツールの利便性を伝えることで各部門の関心が高まったという。
実際に使って効果があった事例についてはワークショップ形式で発表してもらう機会も設けている。
説明会の開催や気軽に聞きやすい雰囲気の醸成、効果についての社員からのフィードバック―― MonotaRO がいわゆる「データの民主化」に成功した背景には、データ部門側と業務部門側が連携して取り込んだ、こうした秘策があった。
今後目指すのは「個別の業務により即したデータ管理」
全社的にデータ活用の文化が根付いた MonotaRO。これからは、個別の業務により即したデータ管理を目指している。
今、Looker で抽出できるようにデータ管理しているのは全社的に使える汎用性(はんようせい)の高いデータのみだ。これでも十分、個々の業務に生かせてはいるものの、もっと業務に即したデータが管理できればさらに有効な活用ができる。
また、システムから定期的にデータを取得し BigQuery に蓄積したものを、データ活用しやすいように分析指標の定義をもとに整備した「データウェアハウス」のさらなる整備も進めていく予定という。
より進化したデータ管理を見据える吉本さんは「業務においてやみくもに策を練り、人によってうまくいったりいかなかったり、という感覚的なことではなく、やはり数字を見ることが大切。ダッシュボードで今の状態を知り、1 週間後、2 週間後はどうなったかを追い、それに基づいて施策を決め、行動に移す――。そうしてみんなが同じ認識のもとで仕事のサイクルが回っている形が理想です」。
ダッシュボードの活用について、現場に身を置く吉田さんは 2 つの利点について、あらためてこう挙げる。
ひとつは「見るべきデータの共通化」。同じ業務をしていても、ある人は売り上げのみを見て、ある人はお客様の数まで見るなど、人によって見る指標が違うこともある。「担当者によってデータ活用に差が生まれないようにするためにも、ダッシュボードでデータの共通化をすることには意味がある」
ふたつ目は「時間や工数の削減」。データを出すための時間や工数が大幅に縮小できるため、自分の頭で考えたり、商品部門でいうと実際に商品を見に行ったり触ったりという「本業」に費やす時間を少しでも増やすことができる。「これも大きなメリットです」
最初からすべての人を巻き込もうと思う必要はない。
小さくてもいい。
データ活用による成功体験を少しずつ重ね、それを見た人たちが「なんだかよさそう」と感じ、自然と仲間が増えていく。
高いハードルを一気に超えようとはせず、着実に進める――データ活用で快進撃を続ける MonotaRO から学ぶべきことは多い。