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「ホリネズミは農民だ」 彼らが地下トンネルの中でやっていること、研究者が深掘り

ニューヨークタイムズ 世界の話題
In a video still image provided by Veronica Selden shows, a pocket gopher at work. Researchers suggest that root cropping by the small rodents could be the first case of nonhuman mammalian farming. (Veronica Selden via The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY GOPHERS FARMERS BY OLIVER WHANG FOR JULY 11, 2022. ALL OTHER USE PROHIBITED. --
「作業中」のホリネズミ(ビデオ静止画)=Veronica Selden via The New York Times/©The New York Times

農民のことを考えれば、だれでも思い浮かべることが少しはあるだろう。

オーバーオールや麦わら帽子、日焼けした前腕。大きな干し草の束やトラクター、種子もあろう。みな、農民というイメージととてもよく結びついている。

では、毛皮やほおひげ、大きな前歯となるとどうだろう。そうとはいえまい。

しかし、2022年7月の学術誌に掲載された論文では、米南東部にすむホリネズミ(Southeastern pocket gopher)がもしかしたら(本当にもしかしたら)「原始的な農民」と見なされうるのかもしれない、と専門家が問題を提起している。

穴を掘る習性がある小型の齧歯(げっし)目の動物で、多くの地域社会ではペストのように忌み嫌われている。しかし、実際には長いトンネルを掘り、植物の成長を促し、その根を少しずつかじって自分の暮らしを容易にしている働き者なのだ。

だから、このホリネズミは「人間以外で農業を営む初の哺乳類」にあたるだろう、とこの論文は位置付けている。

「植物の成長に最適な環境を作り出し、維持しているので、農民と呼ぶのにふさわしい」とベロニカ・セルデンは語る。フロリダ大学で22年5月に学士号を取り、今回の研究の中心となってきた。

「農業は、この動物が代々受け継いできた能力の一つにすぎない」とフランシス・E・プッツは補足する。フロリダ大学の生物学者で、この論文の共同執筆者でもある。

動物界では、さまざまな種が農業に似たことに携わっている。巣の中でキノコを栽培して食べるアリ。雑草を刈り、水をやり、作物を植え付けて守る甲虫類もいる。

ただし、彼らは農民なのかという永遠の問いかけに答えるのは難しい。

「農業を営むという定義は、ある個人が土地をきちんと所有していて、何を栽培するか決めることができる状態といいたい」。フロリダ農業労働者団体の幹部はこう話す。

「ちなみに、農民と農業労働者の間にわれわれは一線を引いている。農民は、自分がすることは自分で判断できる」

そんな自由意思は、ホリネズミにはあてはまるまい。だから、その意味で農民にはならない。

農民とはだれなのか。「その資格ということでいえば、かなりあいまいな定めになる」とケイト・ダウンズは肩をすくめる。ニューヨーク州内の農民の相談に乗るNew York FarmNetの奉仕活動部門の責任者だ。「絶対これとすぐにあてはめられる物差しがあるわけではない。あなたが『自分は農民だ』といいさえすれば、私たちの活動の対象になる」

ホリネズミは、自分を農民として識別することはない。だから、その意味で農民にはならないだろう。

同じ質問を農業団体のフロリダ・ファーム・ビューローにぶつけてみた。すると、関連の法令ガイドを読むように薦められた。

「『農業』とは、人間にとって有益な植物と動物を育成する科学と人為的営みである」と最初のページにあった。

「人間にとって」となるとホリネズミは除外される。農民ではないということになる。

では、ホリネズミはなぜ農民なのか。プッツとセルデンは二段論法を展開する。

まず、ホリネズミは単独行動をとり、ほとんどを地下ですごす。そして、トンネルを掘ることで、植物とその根の成長を促す。掘ることによって植物の地下部分に空気を循環させ、土壌の酸素濃度を高める。

それによって、根への栄養分の補給が増える。それだけでなく、トンネル内にまき散らされた排泄(はいせつ)物が肥料にもなる。

次に、ホリネズミの体力に焦点をあてる。この地下活動は、かなりの消耗を伴うはずだ。3フィート(91センチ余)掘り下げるには、単に同じ距離を歩くより数千倍ものエネルギーを使うだろう。プッツとセルデンはその源がどこにあるのか、当初は首をかしげていた。

そこで、使われているトンネルのいくつかを個別に観察してみた。すると、植物の成長を促していた穴掘りが、別の作用を働かせていたことが分かった。根の部分が、トンネル内の湿度の高い空間に入り込むように育っていた。

ホリネズミは、この根を常に食べていた。日々必要なカロリーの20%以上を得られるだけでなく、穴掘りによる消耗を和らげていると見られる。

根がとくに密に入り込んでいるトンネル部分もあり、ホリネズミが必要とする残りの体力を維持する食料として役立っているようだった。

「ホリネズミがこんなにとてつもなく長いトンネルを掘る理由の一つは、トンネルのどこかに食料を大量に産出させるところがあるからではないか」とプッツは推測する。

同種のホリネズミを専門に研究しているジョージア州野生生物連盟のJ・T・ピンネは、このトンネル掘りについて「営農の定義を緩めれば、そう見ることもできるだろう」と話す。「でも、草食動物全体の中で緩めた定義の該当性を見直す必要が生じてくる」

ピンネも、ホリネズミが土壌を改良し、自分の生息環境をよくするためにたくみに立ち回っていることは認める。でも、その行動様式を「営農」というには、最終的には「意図が十分に備わっていない」と否定的だ。

「自分の経験からすれば、ホリネズミを十分に進化した生物と見なすことはできない」とピンネはいう。ホリネズミには生物蛍光があることを発見し(訳注=21年に発表し)た権威だ。

今回の論文の著者たちは、「農民」の定義そのものがどこか人為的なのではないかと反論する。論点をずらし、対立点を段階的に緩和させようという論法だ。

「トンネルの中で根を栽培する手法そのものが、農民と呼ぶのに十分に値すると思う」とセルデンは改めて語る。

もっと重要なことは、ホリネズミが自分たちの生態系にいかに適合しているかという興味深い事実に気づくことだと著者たちは指摘する。

「ネットで『ホリネズミ』を検索しても、出てくるのはほとんど駆除の方法ばかり」とプッツはため息をつく。

「自然を大切にする第一歩は、自然について少しでも多く知ることから始めるべきなのに」(抄訳)

(Oliver Whang)©2022 The New York Times

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