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アフガニスタンのへき地に「ポツンと一軒店」 なぜかドライバーが立ち寄ってしまう

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
Hafiz Qadim waits for passing travelers to stop at his shop, which sells gas, water and snacks, along Highway 1 on the border of Kandahar and Zabul provinces in Afghanistan, Dec. 9, 2021. Along this lonely stretch of what was once the most dangerous road in Afghanistan, a bomb crater forces cars, trucks and buses to slow down enough for their drivers and passengers to notice through their windows what's for sale at Qadim's shop. (David Guttenfelder/The New York Times)
自分が営む店で客を待つハフィズ・カディム=2021年12月9日、アフガニスタン南部のカンダハル州とザブール州の境界付近、David Guttenfelder/©2022 The New York Times

この店の本当の名前ではない。でも、実態からすると、「さあ、『爆弾穴の店』でストップ&ゴー!」ということになるだろうか。

周りには、なんにもない。アフガニスタンのへき地を貫く幹線道路1号線の脇に、ポツンと1軒。通りがかりの車の運転手や乗客に、燃料やスナック類などを売っている。

すぐ脇の1号線は舗装がはがれ、下の砂地がむき出しになっている。ここ20年ほどの戦争で開いた爆弾の穴だが、いつのことかは定かではない。

店を営むのはハフィズ・カディム(32)。給油もすれば、スナック類も手渡す。いささかリスクの高いこの商店に、正式な名前は付けていない。

Snacks and drinks for sale at Hafiz Qadim's shop along Highway 1 on the border of Kandahar and Zabul provinces in Afghanistan, Dec. 9, 2021. Along this lonely stretch of what was once the most dangerous road in Afghanistan, a bomb crater forces cars, trucks and buses to slow down enough for their drivers and passengers to notice through their windows what's for sale at Qadim's shop. (David Guttenfelder/The New York Times)
カディムの店に置いてあるスナック類や飲み物=2021年12月9日、カンダハル州とザブール州の境界付近、David Guttenfelder/©2022 The New York Times

ここは、アフガニスタン南部のカンダハル州とザブール州の境。あたりには、砂丘が続き、岩が群立し、ときにはブドウ畑もまじる。遠景の山々は、まるで恐竜の背中のようにギザギザな稜線(りょうせん)を空に刻んでいる。

そんな中で、この店は基本物資を蓄えた孤高な灯台のように見える。なにしろ、何マイル(1マイル=約1.6キロ)にもわたって、他に店はない。

「開店したのは、カブールが陥落してから」とカディムは店を指さしながら説明する。鋼鉄製の引き戸は、まだ新しい。泥れんがは、いまだに日にあてて干しているかのようだ。

首都カブールをタリバンが制圧し、この国の支配を確立したのは2021年8月だった。

店を切り盛りするのは、カディムただ一人だ。しかし、爆弾が掘ったこの穴は、ものいわぬ事実上のパートナーでもある。

ともかく大きい。乗用車やトラック、バスは速度を落とさねばならない。すると、窓ガラスが汚れていても、運転手と乗客には店の商品が目にとまる、というしかけだ。

そのまま通りすぎる車もある。でも、多くはここで休憩していく。

燃料を入れる。色とりどりの栄養ドリンクで疲れをとる。シャンプーのボトルや靴ひものいらない黒いローファーを買い求める。ビスケットの詰め合わせや缶詰、チップス、炭酸飲料も売れていく。

Hafiz Qadim sells gas to a motorist who stopped beside a bomb crater next to his shop, which sells gas, water and snacks, along Highway 1 on the border of Kandahar and Zabul provinces in Afghanistan, Dec. 9, 2021. Along this lonely stretch of what was once the most dangerous road in Afghanistan, the crater forces cars, trucks and buses to slow down enough for their drivers and passengers to notice through their windows what's for sale at Qadim's shop. (David Guttenfelder/The New York Times)
爆弾の穴の脇に止まった車にガソリンを売るカディム=2021年12月9日、カンダハル州とザブール州の境界付近、David Guttenfelder/©2022 The New York Times

カディムの店と商売にうってつけのこの特大の穴は、不思議な組み合わせではある。しかし、それは二つの事実を映し出している。この国にあった長い戦争と、それが終わったということだ。

今は、とにかく平和だ。タリバンと敵対する地元の「イスラム国」や始まったばかりの抵抗運動もあり、見せかけだけなのかもしれない。

でも、かつては危険がいっぱいだった1号線に、カディムのような店ができ、畑が接するばかりに広がってきた。それが許される平穏さが生まれた。

それにしても、こうして新たな暮らしの糧を得る機会がめぐってくるまでに、どれほどの代償が必要だったのだろうか。

その答えを、カディムは今も肌で感じている。自身が、あるいは他の多くの人々が、払った代価はあまりに重い。

毎朝早く、この店に来るとき。毎晩、道路を横切って家に帰るとき。「あの日」を思い出させる現場を見て通る。

Customers drive away after shopping at Hafiz Qadim's store, which sells gas, water and snacks, along Highway 1 on the border of Kandahar and Zabul provinces in Afghanistan, Dec. 9, 2021. Along this lonely stretch of what was once the most dangerous road in Afghanistan, a bomb crater forces cars, trucks and buses to slow down enough for their drivers and passengers to notice through their windows what's for sale at Qadim's shop. (David Guttenfelder/The New York Times)
カディムの店の前にある1号線の大きな穴=2021年12月9日、カンダハル州とザブール州の境界付近、David Guttenfelder/©2022 The New York Times

半マイルほど南の丘の上に、今は無人となったかつての警察部隊の前哨基地がある(午後になると、略奪されたこの要塞〈ようさい〉跡に日が差し込む)。そこで起きた銃撃戦に巻き込まれ、家族3人を失った。

カディムがまだ10代だった13年前。西側に支援された政府の治安部隊とタリバンは、1号線の支配をめぐって激しく争っていた。そんな銃撃戦の一つが、この前哨基地の近くで始まり、父母と姉妹の1人を失った。

「このあたりの1号線沿いに暮らしていた200人ほどが、戦争で尊い命を落とした」とカディムは苦々しく語る。

Wahdat sifts through the ruins of an abandoned military outpost for materials to build a chicken coop at his family's nearby farm, along Highway 1, near Sheikhabad, Afghanistan, Dec. 8, 2021. Along this lonely stretch of what was once the most dangerous road in Afghanistan, a bomb crater forces cars, trucks and buses to slow down enough for their drivers and passengers to notice through their windows what's for sale at Hafiz Qadim's shop. (David Guttenfelder/The New York Times)
1号線沿いにある軍の前哨基地の跡地でニワトリ小屋を作る材料を探す近所の少年ワフダト=2021年12月8日、シェイクアバド近郊、David Guttenfelder/©2022 The New York Times。シェイクアバドがあるワルダク州ではアフガン戦争以来、激しい戦闘が頻発した

家族3人を失ってすぐ、住み慣れた家を出た。この長い戦争で農村地域を追われ、少しでも安全な都会に逃れた国内避難民は、何百万人にも上る。カディムも、その一人になった。なにしろ住んでいたザブール州は、国内の最激戦地の一つに数えられたことがあるほどだった。

主に東部のカブールで生計を立てた。南部のカンダハルや西部のヘラートにも行った。戦火が国内各地で激しくなったり、下火になったりする中で、こうした都市は「安全な砦(とりで)」と見なされていた。

結局は、トラックの運転手になった。7年間、家畜や果物、木材を運んだ。数え切れないほど何回も、今は脇で店を開いている1号線を走った。カンダハルとカブールの二大都市を結ぶその300マイルは、一時は全国で最も危険な道路とされていた。

1号線は、今は銃撃戦に巻き込まれるよりも、交通事故にあう危険の方が大きくなった。沿線に普通の日常が戻るにつれ、カディム以外の人たちも新たな仕事を始めている。

「爆弾穴の店」から北へ数マイル。ヌル・アフマド(18)らブドウ農家の人たちが、1号線に接するところまで作物を植え付けていた。少し前までは、どんな農業にも危険すぎる場所だった。

交通量の多い道路の間際にまで植えるのは、理想的とはいえないだろう。でも、この国では耕作に適した土地があまりに少ない。

しかも、この数十年で最悪とされる干ばつに見舞われ、耕地の多くはカラカラに乾き、井戸も干上がっている。それだけに、植え付け可能な土地があれば、これっぽっちも無駄にはできない。

「失業中だったんで、ここに来た」。スコップで土を掘る手を休めることなく、アフマドはこう話した。

Farmers take a tea break while hoeing a field along Highway 1 in the Zabul province of Afghanistan, Dec. 9, 2021. Along this lonely stretch of what was once the most dangerous road in Afghanistan, a bomb crater forces cars, trucks and buses to slow down enough for their drivers and passengers to notice through their windows what's for sale at Hafiz Qadim's shop. (David Guttenfelder/The New York Times)
1号線の脇まで畑を耕し、お茶を飲んで休憩する農民たち=2021年12月9日、ザブール州、David Guttenfelder/©2022 The New York Times

ここからさらに1号線を車で半日ほど行くと、中部ワルダク州に着く。雪を抱く山頂とジャガイモ畑に囲まれて、ワフダト(12)と弟たちがこの道路の脇にある前哨基地の廃虚を物色していた。一家5人は、農作物の不作にあえいでいた(国連の世界食糧計画によると、この国の人口の半分以上が食糧不足に陥っている)。

「腹ペコなんだ」とワフダトはいった。

手は汚れ、握っているスコップの柄は、自分の背丈を超えそうだった。この日のお目当ては、わずかに残った基地のバリケードの金網。はがして、ニワトリ小屋を作るつもりだ。家では、8羽を飼っている。

この基地がいつできたのか、誰が使って、いつ放棄されたのか、ワフダトには分からない。でも、近づいてはいけない、といわれたことがあるのは覚えている。それが、今はこうして可能になった。

戦争と破壊の爪痕は、1号線沿いのあちこちに数え切れないほどある。砲撃で傾いたビル。壊れた橋。ひねりつぶされたような車の残骸。それに、無人の前哨基地の跡地。基地をめぐる銃撃戦は何時間にも及び、報復の空爆もあった。

しかし、なんといっても、図抜けて多い名残は爆弾による穴だ。

深いのもあれば、浅いのも。そのまま走りすぎることができるのもあれば、対向車線にはみ出さねばならないことも。中には、穴を避けて脇の溝に入って通るしかない難所もある。車軸が折れ、パンクもする。

ときには、ちゃっかり小僧たちの収入源にもなる。穴を土で埋める。そんな「よい子」に、ドライバーは小銭を渡してねぎらう。翌日には、子供たちは穴から土をかき出し、また同じ小銭稼ぎの作業を始める。

「爆弾穴の店」は、目の前の穴が頼りだ。世界の他の店なら、便利な駐車場や空気注入式の目印看板が必要になるところだ。

1号線のどちらの方向にも、土地は十分にある。だから、「店を出そうと思えば、どこにでも出せる」とカディムは周囲を見やる。「でも、この一画がやっぱりいいんだよね」と穴を指さした。

大音量で音楽を流して(タリバンは音楽を厳重に取り締まっている)、バイクが止まった。つい先日のガソリン数リットル分のつけを運転手は払いにきた。

爆弾がこの穴をいつ掘ったのか、カディムは思い出せない。いや、一度だけではなく、何度もあったのかもしれない。ここには、排水溝が通っている。その脇で、爆発は何回か起きた。

排水溝と路肩にしかける待ち伏せ爆弾は、戦争中はよくある組み合わせだった。浅い溝や排水パイプは、タリバンが爆発物を隠すのに適していた。近くに政府側の前哨基地があることが、ここにしかける意味をさらに強めた。

しかし、今は違う。排水溝は排水溝で、爆弾の穴は道にできた穴にすぎない。国民の大多数が経済的に困窮しているのに対して、カディムは生涯で稼いだお金を超える額を手にするようになった。毎月の実入りは、ざっと100ドルにもなる。

戦いの一里塚でもあるこの穴のおかげで、「爆弾穴の店」はなんにもないへき地のど真ん中にニッチな市場を開拓した。多少のガソリンと日持ちする食品、それにせっけんなんかも??それが、戦争前の交通に少しずつ戻ってきた1号線を通る利用者の需要に応えている。

「将来のことは、分からない」とカディム。「でも、今は幸せさ」(抄訳)

(Thomas Gibbons-Neff and Yaqoob Akbary)©2022 The New York Times

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