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【藤田晋×水野克己】なぜトップ経営者は若手に「麻雀」を勧めるのか

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藤田晋・サイバーエージェント代表取締役(写真右)、水野克己・クレディセゾン社長

■勝負の感覚、若いうちに

――2人とも、強い打ち手としても有名ですが、ビジネスにつながる点を教えてください。

藤田 会社と同じで、運にめちゃくちゃ左右される。社内の出世にしても、起業するタイミングにしても。一見、運だけで成功した人がいると、嫌になることもありますが、トータルでみると、努力している人や実力がある人が勝っていく。麻雀とビジネスは、運と実力のバランスが似ているんですよ。

水野 勝ち負けでいうと、実のところ、20代~30代の若手はそもそも勝負にこだわっていないのかも、と感じることが多い。近年の教育の影響かもしれませんが。ただ、企業はどこかで勝たないと成長しないんですよね。

藤田 若いうちに勝負する場面そのものが減っているのかもしれません。だから、麻雀で感覚を学ぶのが良いと思います。

サイバーエージェントは2018年、仮想通貨の取引所から撤退しました。最初は「参入しないことがリスク」と考えたんですが、事件などが相次ぎ、判断を変えました。麻雀でよくいう「期待値」の考え方です。対局中は選択の連続で、常に「期待値をもとにすると、どちらが得か損か」と考えますが、同じ一局の中でもすぐに変わる。他の3人が攻めて来ないなら前に行くけど、親にリーチをかけられたら引こう、とか。

「すぐに撤退したな」と思われるかもしれませんが、臨機応変に方針を変えることに慣れているのは強みだと思います。

水野 引き際は大事ですね。麻雀では「今日はどれだけやっても勝てないな」という日があります。「この流れだと負ける」と思ったらすぱっと引く。そういう決断も事業と似ています。

藤田 水野さんは麻雀強いですからねえ。3月に水野さんが社長になられた時は「おお、麻雀強い方がトップになられた」と思いました。おそらく、勝負強さが評価された面もあるのではないでしょうか。

水野 対局中に、においや雰囲気を感じるときがあります。「ここが勝負どころだ」「この流れは勝ち筋に入ったな」と、肌感覚でわかる。クレディセゾンでは、新年に社内の大きな麻雀大会を開いていて、半世紀以上も続いているんですよ。そういう場で「勝てる奴」かを見られていた面はあるかもしれません。

私が仕事で勝負をしてきたのは、主に海外進出で、ベトナム、インドネシア、シンガポールなどに行って事業提携などの話をする。言葉は分からなくても、表情や仕種、声のトーンなどでお互いに通じあえる。動揺したらすぐに伝わるので、ポーカーフェイスも必要です。勝負事は常にそうです。麻雀で、ある牌が出たらアガれるときに、似た牌が出るたびに顔色を変えていたら、話になりません。

また、麻雀が強い方は、同じ卓に座るだけで、圧というか、オーラが違うんですよ。それに対応するメンタルも鍛えられた気がします。

■刻一刻と変わる情勢、最善手は……

――麻雀との出会いは?

水野 小5のときに、姉の友達がやっていたのを見たのがきっかけです。中学・高校はずっと打っていました。北海道なので、特に冬は、家の中でできるのが良かった。大学時代と、入社後しばらくは離れていたんですが、30代前半からまたどっぷり、という感じですね。

藤田 私も小5で、友達のお父さんに教えてもらいました。もともと将棋も好きで、地元の福井県で優勝するぐらいだったんですが、麻雀はさらに性に合いました。麻雀は、プレーヤーが4人いて、判断材料がたくさんあります。自分の手、他の人が切った牌や山に残っていそうな牌、「今の点数差なら、この人は何の役を目指すか?」といった推測とか。水野さんが言われたように、表情も重要なので、プレー中は他の3人の顔をすごく見ています。

情報が刻一刻と変わり、複雑な状況のなかで、最善手を選ぶ。その過程が、子供心にも面白かったんですね。

この感覚は、経営にそっくりです。ビジネスでは、突然市場環境やルールが変わることもありますが、すぐに最適な一手を選ばなければならない。

例えばある仕事を成功させたいとき、普通に交渉するほかに、「この人を接待した方がいいかな」とか、多彩な手段が考えられます。「あらゆるものを活用してトータルで勝てばよい」のですが、学校ではあまり教わりません。むしろ「ずるい手段はダメ」と言われかねない。若いうちに、現実の世の中を生き抜く知恵をつける教材としても、麻雀は優れていると思いますよ。

水野 麻雀は、34種類の牌が4枚ずつ、計136枚を使い、常に「自分から見える情報」と「見えない情報」があります。例えば、ある種類の牌が既に3枚見えていれば、残りは1枚ですね。そして「この人はこの役を狙っているから、多分その1枚は持っていない。ということは…」と推測します。

ビジネスでも、既存顧客の数や市場の大きさなど、見えている情報は徹底的に調べるのが基本。そこから見えないもの、潜在的な需要を推測していく。この感覚が身につくのも、麻雀のよいところです。

決済の分野では、新しいサービスが出てきていますが、クレジットカードは、引き続きキャッシュレス決済のほとんどを占めています。かつ、国際的に見ると、日本は今も現金決済の比率が高い。コロナ禍を受け、キャッシュレスへの移行が進んでおり、国内市場でもまだまだチャンスは大きいと見ています。

藤田 今は、クレディセゾンさんにとって、流れが来ている状態ですね。

水野 それをものにできるかがポイントです。

藤田 水野さんに同感で、仕事では、数字を把握できていないとしゃれになりません。数学の研究者みたいに突き詰めなくてもよいですが、ふわっとつかんでおくことが大事です。

麻雀では、攻める場面(押し)と撤退する場面(引き)のバランスが大切で、8割勝てそうなら押した方がいいですよね。2割は失敗するかもしれないが、恐れすぎて前に行かないとチャンスを失います。社員を見ていても「今前に行かなくていつ行くんだ?」と思うときがあります。

■雀鬼に学んだ「言い訳は許されない」

水野 忍耐力も大きな要素ですね。麻雀は耐える時間が長い。仕事も8割ぐらいは我慢の時間です。喜怒哀楽を出せるのは2割ぐらいじゃないか。本当にやるべきことは、どれだけ我慢しても情熱を持って取り組むことが重要です。

近年、「なるべく我慢しない」「我慢させない」風潮がありますが、もしかすると、我慢弱くなっていることが、日本の企業全体が地盤沈下している根底にあるのではないかと感じます。

その点、サイバーエージェントさんは、しばらく赤字でも、我慢を続けて開花させている事業が多くありますね。

藤田 学生のとき一時、「雀鬼」と呼ばれた桜井章一さんのもとに通っていたんですが、言い訳を一切許してくれないんですよ。麻雀は運にも左右され、突然理不尽なことも起きるので、言い訳しようと思えばいくらでもできる。が、何が起きても自分のせいだと。

「真剣勝負では、水を張った洗面器に顔を突っ込み、最初に顔を上げたやつが負ける」というのも、桜井さんの言葉ですね。

1998年に起業し、2000年に上場してすぐ、ITバブルの崩壊によって身売り寸前の窮地に追い込まれるのですが、何とか耐えられたのは、その教えのおかげもあったと感じています。

今は、動画配信サービスの「ABEMA」がまだ赤字ですが、収支は改善してきています。10年計画で始めてまだ半分なので、我慢して伸ばしていきます。もともと「楽な仕事」は続かないと考えているんですよ。

――一方で、サイバーエージェントの直近の決算は、スマートフォン向けゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のヒットで、売上高、利益とも飛躍的に伸び、話題になりました。

藤田 そうですね、たまたま当たったように見えるかもしれませんが、5年ぐらいかけて地道に取り組んできた成果です。当たるかはわからないが、少しでも成功確率を上げる努力を続けてきた。麻雀でも、ずっと努力していると、猛烈にツキ始めることがあるんですよ。

水野 確かにありますね。完全に自分のペースで、どんな牌を切っても他人に振り込まず加点し続けて圧勝、という場面がまれにあります。

藤田 ただ、それが記憶に残ると、バランスを崩すんですね。大勝したことがベースになると、その後「なんか調子悪いなあ」と感じ続けることになる。「ウマ娘」も、浮かれている余裕はなくて、次の展開を考えています。何があってもバランスを崩さないようにするのも、麻雀で得た感覚ですね。

■卓を囲み、企業間交流の場にも

企業対抗戦の様子。2020年~2021年のリーグ戦は、新型コロナ感染対策を徹底しつつ、朝日新聞社、アンファー、エイベックス、クレディセゾン、講談社、サイバーエージェント、凸版印刷、日刊スポーツ、ビッグローブ、富士通、ローソンの11社が競い、富士通が優勝した=東京・新橋の「新雀荘」=藤田明人撮影

――負けられない対局の時に、意識していることはありますか?

水野 最初は慎重に行きます。大局観を持って、中盤以降に流れをつくるように考えています。自分を客観視して、今ついているのかも考えますね。ここが大きな決断だと感じ、行くと決めたら、とことん全力でいきます。対局中は一切飲まないですね。仕事も麻雀も真剣にしたいですから。

藤田 麻雀って、不思議なほど、一生懸命やらないと勝てないんですよ。偶然に左右されて「運ゲー」とも言われますが、体調を整えて本当に集中して、初めて勝つ資格が出てきます。ちょっとした見落としでも、長い目でみると大きな差になるゲームですから、打った後はヘトヘトになります。歯を食いしばって仕事をした後に、歯を食いしばって麻雀しています(笑い)。

水野 それだと気分転換にならない、という話もありますが、やっぱり楽しいんですよね。ビジネスも麻雀も、歯をくいしばったうえで、最終的に勝ったときの喜びは何ともいえないですから。

――麻雀の企業対抗戦はこれまでも行われてきましたが、「企業対抗麻雀協会」という組織ができて、プロ雀士との交流戦や放送対局など、さらに発展を目指すと聞いています。

藤田 2018年に発足した「Mリーグ」は、プロ雀士の試合で、順調にコアなファンを増やし、ABEMAでの視聴数も伸びてきていますが、こちらは社会人のリーグですね。ゴルフなどでも企業人による競技の場がありますが、麻雀も、水野さんのように各社に強い方がいるので、相当レベルの高いリーグになるはずです。

水野 4人で卓を囲んでコミュニケーションが生まれるゲームなので、企業間の交流の場にもなると期待しています。

サイバーエージェントと当社は、カード決済データを活用するマーケティング会社 「CASM」を一緒に立ち上げるなど、連携を深めていますが、もともとは、やはり麻雀好きのうちの林野宏(会長)が、雑誌で藤田社長が麻雀について書いているコラムを読んで、藤田さんに電話したのが始まりなんですよ。麻雀がきっかけとなって、多くの方と縁がつながることも魅力だと思います。