道具を使うことで知られる動物は多い。でも「ブルース」と名付けられたこの鳥ほど独創的に道具を発明した例は、そうはないだろう。
ブルースは、ニュージーランド固有種のケアオウム(和名:ミヤマ〈深山〉オウム)のオス。年齢は9歳ぐらいだ。野生動物の調査員に発見された幼鳥のときから、上のくちばしがなかった。
生息地域には、生態系を乱すネズミなどの哺乳類を駆除するためのわなが多くしかけられていた。その一つにかかって失ったのではないかと見られている。
これは、大変な機能障害を意味する。ケアオウムの上のくちばしはかなり長く、羽づくろいをするのに欠かせない。なければ、寄生生物を取り除いたり、泥などの汚れを落としたりすることができなくなってしまう。
ところが、ブルースは、自分で解決策を考え出した。まず、ちょうどよい大きさの小石を探す。それを舌と下のくちばしではさむ。そして、小石の先っぽで髪をすくようにして羽づくろいをする。
道具を使う動物は他にもいるとはいえ、自分用の「装具」を発明したに等しいという点で、かなりユニークな創意工夫といってもよいだろう。
この発明に気づいた学者たちが2021年9月、オンライン科学誌サイエンティフィック・リポーツでその観察結果を発表した。
動物の行動形態の研究には、かなりの用心深さが求められる。人間の特徴的な行動に例え、擬人化する面白さに溺れやすいからだ。だから、そんな落とし穴があることを意識しながら、注意深く、客観的な観察をせねばならない。
「今回の論文を発表する前にこの話をすると、よく『小石を使っての羽づくろいは、偶然そうしていたのに過ぎないのでは』と疑われた」。ニュージーランドのオークランド大学で動物の認知能力を研究している主執筆者のアマリア・P・M・バストスは、こう語る。「たまたま小石をくわえたところを見ただけなのでは」という指摘だ。
でも、そうではなかった。「ブルースは、この行動を何度も繰り返していた。小石を落とすと、それを拾い直した。明らかに、その小石にこだわっていた。羽づくろい以外では、小石を拾うこともなかった」
「これは、動物がどう道具を使うかを観察する模範事例になる」。今回の発表でブルースのことを知った米ジョージア大学の心理学・名誉教授ドロシー・M・フラガジー(動物行動学の幅広い著述がある)は、こう評価する。「ブルースの行動を慎重に分析し、この個体が柔軟な発想で自ら意図的にこの発明を考え出したことを強い説得力で導き出している」というのだ。
ブルースの観察チームは、確認せねばならないことを注意深く決めていた。
行き当たりばったりの行動ではない、ということの確認だ。小石を拾うと、10回のうち9回は、それで羽づくろいをした。小石を落とすと、95%はその石を拾うか、別の石を探して羽づくろいを続けた。それも、どんな石でもよいのではなく、同じ大きさの石を使い続けた。
同一の環境にいる他のケアオウムには、石で羽づくろいをする例は見られなかった。もし、石をくわえることがあっても、大きさはバラバラだった。だから、ブルースが、はっきりとした目的意識を持っていたのは、明らかだった。
「ブルースは、別のオウムがするのを見てまねたわけではない」とバストスは話す。「すばらしいことに、自分で考え出している。それを観察できた私たちも運がよかった」
そして、こう続けた。「動物が、何をしているのか。もう少し注意深く気をつければ、私たちはかなりたくさんのことを学べるに違いない。野生の状況でも、飼われていても、それは変わりないだろう」
ケアオウムは、そもそも非常に賢いことで知られている。その中でも、ブルースはとくに賢明だとバストスは見ている。自分の思考を発展させることができるだけではない。複雑な訓練でも、簡単に覚える。
なぜ、くちばしの装具をブルースに着けてあげないのか、と尋ねられることがときどきある。そんなとき、バストスはいつも同じ答えを用意している。
「だって、必要がないもの。今あるくちばしで、十分なんだから」(抄訳)
(Nicholas Bakalar)©2021 The New York Times
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