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駐車場が新たな「ハブ」になる モビリティーの進化形

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Cameras at a parking garage in Hoboken, N.J., allow cars to pass gates without stopping by identifying payers through their license plates, July 2, 2021. The owners of FlashParking, a company in Austin, Texas, that provides software and hardware for garages, see the future of driving — and, not coincidentally, parking — as a digitally centered platform that could relieve congestion, pollution, anxiety and a few other things. (Andy Zalkin/The New York Times)
米ニュージャージー州ホボーケンにあるこの駐車場では、利用者は出入り口で止まる必要がない=2021年7月2日、Andy Zalkin/©2021 The New York Times。必要なソフトとハードの技術は、テキサス州の駐車管理会社FlashParkingが提供している

ドライバーのほとんどが、屋内駐車場と聞いて思い浮かべることをすべてあげてみてください。

その一……車を止めること。

もちろん、そうですね。そのためにあるのですから。

でも、もう少し考えてみましょう。例えば、スマホやタブレットを使えるとして。

地図アプリで最寄りの駐車場を探すだけではありません。こんなに雨が降るあいにくの晩に、まだ空きがあるところがあって、予約できるのかどうかが分かるのです。

それって、すごいことなんですよ。だって、1ブロックを占めるこの大駐車場の隣には、コンサートホールがあって、あと1時間で歌手ビリー・アイリッシュのステージが始まります。そちらのチケットも、必要ですか?

それも、同じ駐車場のアプリで手配できます。ディナーの予約? もちろん、できますよ。

単なる屋内駐車場? 時代の先を読む起業家は、着想からすでに違っている。

「モビリティーハブ(mobility hub)」、もしくは「サイロ(silo=格納庫)」という考え方だ。ソフトとハードの先端技術を駆使して、さまざまなニーズを結びつける。合言葉は、「継ぎ目も、摩擦も、触る必要も、ない」。2020年、コロナ禍のもとで生まれ、成長株として見られている。

米テキサス州オースティンのフラッシュパーキング(FlashParking=以下FP)社は、屋内駐車場に関連したソフトとハードの技術を提供している。そのオーナーたちは、車社会の未来をこう描く(当然ながら、そこには駐車場も含まれる)。

車の運転は、デジタル基盤によって支えられるようになる。幅広い(空想的ですらある)技術が集積し、道路の渋滞や環境汚染とともに、運転に伴う悩みなども和らげる。

駐車場についての構想の一部を紹介すると――。

配達に忙しく、エンジンのアイドリングも多いウーバーやアマゾンなどの車は、ゆっくり休めるサイロに収容される。運転手のためには、トイレもあれば、食事の移動販売車もある。

「梱包(こんぽう)二つを届けるだけ?」「それなら、15分ポッキリの特別料金はどう?」

そんなやりとりを、FPのマーケティング担当役員ニール・ゴルソンは一例としてあげる。自社の技術進歩は、もうそこまで可能にしているとし、「みんなを通りから駐車場に誘い込もう」と基本戦略を語る。

FPの最高経営責任者(CEO)ダン・シャープリンは、今の駐車は「偶然そこに止めているにすぎない」と指摘する。

「何かをしに街に出てきて、駐車場を探す」のが普通だからだ。「でも、そんな駐車の仕方は、将来はほとんどなくなる」とシャープリン。そして、「屋内駐車場という資産は、顧客向けアプリというデジタル装置を介して、多彩なネットワークのダイナミックなハブへと変わる」と強調する。

これを実現するには、現代の消費者の心をつかまねばならない。「それには、日々の暮らしの要を狙うのが一番。そう、スマホだ」

FPは、「サース」(SaaS=software as a service〈訳注=クラウドコンピューティング上で提供されるソフト〉)を活用しており、他社と提携しながら事業を進めている。屋内駐車場そのものを自社で持つわけではなく、サービスの提供先である全米数千カ所もの駐車施設はどれ一つとして所有してはいない。

「ただし、駐車場をハブにするためのハードは持っている」とマーケティング担当のゴルソンはいう。「ゲートを開け閉めする機器や、駐車場から気軽に出入りするためのスクーター、電動式の乗り物の充電スタンドといった設備だ」

提携の幅は広い。自動車のメーカーもいる。FPは十数社以上と組んで、駐車アプリの機能を車に組み込んでもらうように協議している。

「ただし、必ずしもメーカー側がこうした技術を開発するわけではない」とゴルソンは補足する。「多くの業種間で提携を協議する場では、当社は駐車に関するアドバイザーとしての役を担う。そこには、グーグルやアマゾン、ウーバーといった企業もいる、といった感じだ」

「タッチレス」に集中する屋内駐車場もある。シカゴを本拠とするSP Plus社。こちらの駐車場の多くは、ゲートで何かに触る必要はなく、支払いもスマホによるモバイル決済で済む。管理する駐車場は70の空港を含む数千カ所にのぼり、駐車スペースとしては計200万台分を超える。

こんなタッチレス機能を開発したにもかかわらず、コロナ禍によるロックダウン規制が1年余り前に(訳注=カリフォルニア、ニューヨーク両州などで2020年3月から)始まると、屋内駐車場業界は大損害を受けた。カラの駐車場は、乗客やファンのいない地下鉄や野球場に等しいからだ。

「駐車場だけではない。ホテルから空港、イベント会場に至るまで、関連業界にとってはとてつもない痛手になった」とSP Plusの成長戦略担当役員ジェフ・エッカーリングは語る。

だから、ロックダウンの解除で、こうした関連事業の多いニューヨーク市内の駐車場経営はいち早く回復した。

21年3月ごろには、駐車場の利用は「コロナ禍前の状況にほぼ戻っていた」とエッカーリング。「以前は通勤に公共の大量輸送手段が使われていた。しかし、こうした形の職場通いは、ほとんど元通りには戻らず、逆に車の利用が増えた。われわれにとっては、とてもよい追い風になった」

では、米国の屋内駐車場は、これまでどんな歩みを刻んできたのだろうか。その歴史は、決してロマンを誘うようなものではない。

公共の屋内駐車場について報じられるようになるのは、1930年代のことだ。車を持つ人が大幅に増えた時期と重なる。駐車場で活躍したのは、「車の騎手(car jockey)」。多くのところではこの騎手が、預かった車を台車に載せて、馬の手綱を引くように駐車スポットまで運んだ。

50年代までには、建築ブームで街中に屋内駐車場ができた。買い物や仕事に行くのが、格段と便利になった。20世紀の半ばには、スロープで各階と結ばれた立体駐車場が登場。駐車は、自分でするようになっていった。

では、現代は――。先のFPの提携先が、ニュージャージー州ホボーケンにある。地元にいくつかの屋内駐車場を持つLAZ Parkingと組んで、その一つにFPの設備を取り付けた。

Austin, Texas, that provides software and hardware for garages, see the future of driving — and, not coincidentally, parking — as a digitally centered platform that could relieve congestion, pollution, anxiety and a few other things. (Andy Zalkin/The New York Times)
駐車券発行機のわきで、利用者を手助けするスタッフ=2021年7月2日、ホボーケン、Andy Zalkin/©2021 The New York Times

入り口は二つ。そのいずれにもハイテクカメラが設置されている。入庫があると、車のナンバープレートを確認。オンラインで前払いを済ませているのか、月決めなのか、時間単位で止めようとしているのかを読み取る(ドライバーは、駐車券を引き出さなくてもよい。入り口の機器の画面に向かって手を振れば、駐車券の発行は省略される)

ナンバープレートが読み取れなくても、カメラは車の特徴を覚え込む。車体に付いた傷跡やへこみ、ステッカーなどが目印となる。

駐車場の下の階は、一部がレンタカー置き場になっている。大手のエイビスレンタカーがここを事業の拠点にしているからだ(多くの屋内駐車場は、ジップカーのようなカーシェアリングの企業と提携し、シェアされる車や電動スクーターの保管場所として利用されている)。

さらに、1階のかなりの広さには、数十台の自転車型のトレーニング機器が「駐輪」している。こちらは、高級フィットネスジムを展開する新興企業ソウルサイクルの地元事業所が、臨時の器具置き場として使っている。

A camera at a parking garage in Hoboken, N.J., which allows cars to pass gates without stopping by identifying payers through their license plates, July 2, 2021. The camera can also identify cars by a dent or a sticker. (Andy Zalkin/The New York Times)
駐車場に設置された車のナンバープレートを読み取るカメラ。これによって車が出入りする際に止まらなくても済むようになる=2021年7月2日、ホボーケン、Andy Zalkin/©2021 The New York Times

屋内駐車場が経済的に成功するか否かのカギの一つは、利用率にある。

この駐車場は、8階建てで駐車スペースは計1440台分。「さまざまな利用形態をどう調整してスペースを埋めるかが、とても重要になる」。総支配人のオマール・ペレラは、腕の見せどころをこう要約する。「関連データはすべてクラウドコンピューティングで管理しているので、自宅からスマホでも操作できる」

利用料金についても、需給状況を見ながら、定期的に見直している。

この駐車場には、まだ利用者用の電動スクーターや食事の移動販売車はない。電気自動車用の充電設備も、これからだ。遠からず実現させるつもりでペレラはいる。

最近、こんな苦い経験をした。

電気自動車を駐車した人が、急いで充電するために上の階にある従来型のコンセントを利用しようとした。すると、ブレーカーが落ちて、駐車場のコンセントはみな使えなくなってしまった。

「未来の駐車場」は、まだ発展途上にあるようだ。(抄訳)

(Stephen Williams)©2021 The New York Times

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