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「コンセプトなき寄せ集め」片山善博さんがみたオリンピック開会式

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東京五輪の開会式で入場行進する日本選手団=2021年7月23日、国立競技場、諫山卓弥撮影

――開会式の印象を教えてください。

そもそも、長時間にわたるパフォーマンスが必要だったのか。大勢の観客が飽きないようにする意味もある。関係者だけなのだから、リオデジャネイロ五輪までのような大がかりな催しではなくても良かった。

テレビで顔が売れている人たちによるパフォーマンスの寄せ集めで、それぞれのつながりがなかった。五輪・パラリンピックの開閉会式の演出を統括するクリエーティブディレクターで、3月に辞任した佐々木宏氏は広告大手電通の出身だった。

おそらく、組織委員会が「大会で何を訴えたいのか」というコンセプトを固めないまま、イベントを数多く手がけた演出家に丸投げしたのだろう。コンセプトがないから、江戸時代の職人や歌舞伎など、誰からも批判を受けない安直な演出に走る結果になった。直前になって演出や音楽を担当する中心人物がいなくなった影響かもしれない。

――開会式ではゲーム音楽を取り入れたり、プラカードを漫画の吹き出しにしたりしていました。

若者を狙った演出だが、ゲームを知らない人にはわからない。日本文化を伝えるという意味かもしれない。でも、これが今回の五輪にふさわしいテーマと言えただろうか。例えば、再生エネルギーやリサイクルなどを演出に取り入れて、「サステイナブルな東京」を訴えても良かったのではないか。

五輪は都市の祭典だから、未来の東京を世界に発信することが主要テーマになる。組織委も東京都の外郭団体という位置づけだ。1964年の前回東京大会では、首都高速道路や新幹線を整備し、代々木に選手村や大規模スポーツ施設を建設するなど、「都市改造」が大きなテーマになった。

今回は、五輪招致を始めた石原慎太郎、猪瀬直樹両知事がいなくなり、費用を出すキャッシュディスペンサー役に成り下がった。

相対的に安倍官邸の力が強まり、その主導で森喜朗元首相が組織委を仕切り始めた。安倍晋三首相がリオ五輪でスーパーマリオ役で登場したように、個人の人気取りに利用された格好になった。組織委に五輪が訴えるべきコンセプトを作ることができる人がいなかった。

片山善博元総務相=2019年、横山翼撮影

――片山さんも鳥取県知事時代、様々な催しと関係があったそうですね。

私は1999年に知事に就任した。当時、すでに2002年に国民文化祭の開催が決まっていた。各都道府県が持ち回りで開催するイベントだった。「とにかくイベントをやろう」「先催県と比べて見劣りがしない行事にしよう」と考えるだけで、イベント屋に丸投げする県も多かった。

鳥取県教育委員会も当初、国民文化祭の開催について「順番だから」「この機会に美術館をつくりたいから」という説明をしていた。私は「そんな理由だけなら、返上すべきだ」と諭した。

従来、鳥取県は実利を重んじる傾向が強く、お隣の島根県に比べて文化や芸術を大切にする気風に乏しかった。私は「日常的に文化や芸術に親しみ、生活を豊かにする気風にしよう」「一過性のイベントに終わらないようにしよう」と呼びかけた。県教育委員会も「県の文化芸術を底上げする機会にする」として、アートディレクターや音楽家などの出演者もできる限り、県内から求めた。国民文化祭の開催後、県の総合芸術文化祭が毎年開かれるようになった。コンセプトを丸投げしなくて良かったと思っている。

――東京五輪関係者の新型コロナウイルス感染も相次いでいます。このままで、コロナに打ち勝つ大会になるでしょうか。

大会開催にあたり、「徹底した感染対策」を唱えていたのだから、検疫の特例を認めるべきではなかった。「コロナに打ち勝つ」「安心安全の大会」をうたうなら、一般の人と同じ検疫体制を取る前提で、大会が開けるかどうかを検討すべきだった。

遠距離の移動自粛を国民に呼びかける一方、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長の広島訪問を認めた。「3密を避けて」と言いながら、歓迎会も開いた。オンラインでやるべきだった。国民の気持ちが緩むのも無理はない。今、IOCも組織委も「安心安全」を呪文のように唱えているだけだ。

東京五輪開会式で入場行進する韓国選手団=2021年7月23日、国立競技場、北村玲奈撮影

――五輪をめぐって、日韓でお互いの言動を批判する報道も目立ちます。

スポーツは勝ち負けを争うから、対抗心や競争心が燃え上がるのは仕方がない面がある。

ただ、茨城県の鹿島スタジアムで行われた男子サッカーで、地元の子どもが太極旗を持って韓国チームを応援したことを韓国メディアが大きく報じたそうだ。こうしたお互いにエールを送る行為はあちこちにあるはずだ。そのような場面も丁寧に紹介してほしい。

また、私たちは歴史的な知識をもっと持つ努力をすべきだ。韓国選手団が選手村に李舜臣将軍(豊臣秀吉の朝鮮出兵と闘った韓国の武将)の言葉を引用した垂れ幕を掲げて問題になった。岡崎久彦元駐タイ大使の著作には、東郷平八郎元帥が、十分な国の支援もなく戦った李舜臣将軍を高く評価したという話が出てくる。垂れ幕について批判する声があっても良いが、一方でこうした話を知っている人が日韓両国に今、どれだけいるだろうか。

もし、文在寅大統領が開会式に合わせて訪日し、菅義偉首相が東郷元帥の話でもしてあげたら、場の雰囲気がどんなに和んだだろうかと考えることもある。