兄が死んだ翌日、弟も コロナ禍のインドを揺さぶった、双子の悲報

北部インドのハンサムな2人の若者は一卵性双生児で、何よりもお互いを真に大切に思ってきた。4月、2人とも新型コロナウイルスに襲われて入院した時、2人が一つの病んだ肉体をあたかも共有しているかのようだった。
兄ジョーフレッドが亡くなった翌5月14日、ラルフレッドも死去した。
ともに生き、ともに亡くなった双子の兄弟の死は、インドのソーシャルメディアで一気に伝わった。新型コロナの日々の症例数や死亡者数、感染率という、麻痺(まひ)してしまったこの国の統計を突き刺しながら。
この国はとても苦しみ、さらに苦しみが続いている。インド全体の症例数は5月中旬に減少したが、死亡者数は増え続けている。
5月19日、1日の新型コロナによる死亡者は4529人を数え、世界最悪となった。インドでは毎分3人が新型コロナで亡くなっているという数字は驚きだが、専門家によると、それは本当の犠牲者のほんの一部で、実際の数ははるかに多い。
24歳だったジョーフレッドとラルフレッドには特別な絆があった。両親は彼らに似たような名前をつけたが、お互いをまねるようには育てなかったと言っている。それでも、近所の人たちは、2人が成人してからも、いつも一緒だったという。
2人は、ニューデリーの衛星都市メーラトの平屋建て住宅で兄と一緒に育った。両親はキリスト教の学校の教師で、一家は中流階層が混住する地区の数少ないクリスチャンだ。
少年時代、2人は空き地で一緒にクリケットのボールを打った。一緒に木製のテーブルを囲みインドの人気ゲーム「カロム」で遊んだ。
ジョーフレッドは3分早く生まれた。だが、兄だの弟だのといった違いはなかった。
「2人は平等だった」と父親グレゴリー・レイモンド・ラファエルは振り返る。「言い争いはした。でも、彼らがお互いを傷つけるような場面は見たことがない」
2人はジョフィ、ラルフィのニックネームで通った。
2人は、一体となって人生を歩んできた。同じ年に南インドの同じ大学に進み、ともにコンピューターサイエンスを専攻した。おそろいの服を着て、まったく同じやりかたでヒゲを整えた。ヘアスタイルも同じだった。2人は互いを映す鏡のようだった。
両親以外には、2人を区別できる人はほとんどいなかった。背丈は同じ約183センチで、ともに筋肉質な体格だった。友人たちが言うには、結婚式でも、誕生日パーティーやほぼすべての地域イベントでも、ジョーフレッドとラルフレッドは同じ服装をしていただけでなく、人ごみの中でもくっついていた。
「彼らはまるで一体化したかのようだった」。隣人で一家の友人でもあるマノジ・クマルはそう言っていた。「2人の間には、お互いを思い合う気持ちがあふれていた」
2人ともコンピューターエンジニアで、つい最近はメーラトの自宅で仕事をしており、父親の話によると、4月24日、同時に発熱した。家族は自宅で市販薬を使ったが、容体が悪化するにつれて心配が募り始めた。
インドは今年4月下旬から5月初旬にかけて、パンデミックが始まって以来、世界最悪の感染症の急増に苦しんでいた。
非常に多くの人が同時に感染症にかかり、特にメーラトがある北部インドでは病院が対応できなくなった。病人は追い払われ、病院の門の外の通りにむなしく駐車した車の後部座席や、あるいは自宅で、あえぎながら死にかけていた。
救命用の酸素と薬は致命的に不足していた。パンデミックが始まって以来、すべての国が恐れていた悪夢が、猛威を振るい始めた。
双子の息子が病にかかって1週間後、家族は助けを求めることを決心し、評判が良くて自宅から遠くない民間のアーナンド病院に空き部屋を見つけた。新型コロナの検査で2人とも陽性と判明、病院の医師は病気が驚くべき速さで進行していたと語った。
2人とも非常に危険な肺感染症にかかっており、ICU(集中治療室)で人工呼吸器を装着された。ジョーフレッドは10番ベッドで、ラルフレッドは14番ベッドだった。
兄のジョーフレッドは5月13日の朝、病に負けつつあった。父親によると、血中酸素濃度は48%にまで下がった。救う手立てはなかった。母親のソジャは、その時、ICUに来ていた。医師たちはその場を去るよう彼女に告げた。数分後の正午ごろ、医師はジョーフレッドが亡くなったことを知らせた。
悲しみにくれた母親は、ラルフレッドの様子をチェックするためにICUに戻ると、ラルフレッドは問い続けた。「ジョーフレッドはどこ? ジョーフレッドはどこ?」
もっと大きな病院に移されたと、母親はラルフレッドに告げた。
「何が起きたのかを彼に話したら、容体が悪化すると思ったので」と父親は言う。
だが、ラルフレッドにはわかっていた。
彼は、母親に言った。「母さんはウソをついている。本当のことを話して」
しかし、母親は、そうしなかった。
医師によると、ラルフレッドはその後、うつ状態になった。そして翌朝、兄の死から24時間もたたないうちに亡くなった。
双子の死の話が広まると、インドの主要紙は記事を掲載し、同じスーツ姿の兄弟が並んでいる写真を載せた。テレビも飛びつき、ウイルスが兄弟の肺をどれだけ徹底的に破壊したかという医者の話を報じた。
ここ最近の何千人もの死亡者のうち、双子の兄弟が20代で健康そうに見えたからか、あるいは2人がとても親密だったからなのか。2人の死は人々を大きく揺さぶったようだ。彼らの話は、死についてのものであると同時に愛についてのものでもある。ソーシャルメディアで、「胸が張り裂けるできごと」「ご両親にとって、どれほど衝撃的だったか。とても若いのに……」といったメッセージが交わされた。
ニーム(訳注=センダン科の半常緑樹)の若木の下、ジョーフレッドとラルフレッドのそれぞれの棺は同じ墓に埋葬された。(抄訳)
(Jeffrey Gettleman and Suhasini Raj)©2021 The New York Times
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