アメリカの「民主主義の同盟」に対抗する中国

米大統領ジョー・バイデンは「民主主義の同盟」を築きたいと考えている。中国は独自の同盟関係を保持していることを明確にしたいと思っている。
中国外相の王毅は、アラスカで米当局者との敵対的な会合(訳注=現地時間3月18日)から数日後、ロシア外相と足並みをそろえて西側の干渉と制裁を非難した。
王毅はその後、中東に向かい、サウジアラビアやトルコなど米国の従来の同盟国を訪問、イランも訪ねて3月27日に広範な投資協定に調印した。中国の指導者、習近平はコロンビアに援助の手を差し伸べ、別の日には北朝鮮への支援を約束してみせた。
中国当局は意図したタイミングだったことを否定したが、メッセージは明らかに意図的だった。中国は米国主導の国際秩序に対する中心的な挑戦者として地位の確立を望んでいる。米国が主導する国際秩序とは、一般的に、民主主義の原則や人権の尊重、法の支配の順守によって導かれるものである。
王毅は、そうしたシステムは「国際社会の意思を代表するものではない」とロシアの外相セルゲイ・ラブロフに語った。2人は中国南部の都市、桂林で会った。
両外相は共同声明で米国の嫌がらせと干渉を非難し、「近年における世界の平和と発展に与えたダメージについて反省する」よう促した。
米主導の連合による中国の権威主義政策に対する威嚇は、米国とその同盟国に反対する国々のグローバルリーダーになるという中国の野望を後押ししただけである。それはますます自信を深めて悪びれない中国を増長させ、中国の内政に対する米国の批判に異議を唱えさせただけでなく、他国のモデルとして独自の価値観を提示させることにもなった。
「実際のところ、彼らは次のような主張を展開しようというのだ。つまり『我々はより責任ある大国だ。壊し屋でもないし、悪の枢軸でもない』と」。韓国ソウルにある延世大学教授(中国学)ジョン・デルリーは中国の戦略について、そう指摘した。
結果として、純粋なイデオロギー対立による陣営分断ではないとしても、世界は中国と米国がそれぞれ支持者を引き付けることを狙ってますますはっきりと引き裂かれつつある。
バイデンは3月25日、大統領就任後の初の記者会見で、そのことを明らかにし、統治モデル間の地政学的な競合に基づく外交政策を提示した。バイデンは、習近平をロシア大統領のウラジーミル・プーチンになぞらえてみせた。プーチンは「ますます複雑化する世界」において「独裁こそが今後の流れであり、民主主義は機能しない」と考えている人物である。
バイデンはその後、この挑戦を「21世紀における民主主義の有用性と独裁政治との戦い」と呼んだ。
一方、中国は世界をブロックに分割しているのは米国だとの主張を展開している。習近平は、バイデンの大統領就任直後、世界経済フォーラム(WEF)が開いたオンライン会合「ダボス・アジェンダ」で、マルチラテラリズム(多国間主義)は「一国あるいは少数の国」が推進する見解ではなく、多くの国々のコンセンサス(合意)を基盤にするべきだと語った。
「小さなサークル(仲間)を構築するとか、新たな冷戦を開始するとか、他者を寄せつけず、脅したり、威嚇したりするとか、故意に分裂を押し付けたり、供給を混乱させたり、制裁を科したり、孤立や疎外を生みだしたりすることは世界を分断し、さらには対立に押しやるだけである」。習近平はそう指摘した。
中国は、最近の政策に対する批判を押しのけるため、中国の影響力が高まっている国連のような国際機関の優位性を擁護してきた。
中国当局による新疆ウイグル自治区でのウイグル人イスラム教徒の拘束、強制収容はジェノサイドだとして米国が指弾した一方で、外相の王毅は、国連人権委員会の80カ国以上が中国の行動に支持を表明したと述べている。
中国外務省は、新疆ウイグル政策や香港における反対勢力の鎮圧に対し、王毅がサウジアラビア皇太子のムハンマド・ビン・サルマンから支持を得たと主張したが、サウジの声明は新疆ウイグルには言及していなかった。
中国の最も顕著な動きはロシアとの連携だ。プーチンは、米国の覇権と、同国が外交政策の手段としてグローバルな金融システムを使うこと(プーチンは乱用とみている)に対し以前から不満をもらしていた。
ロシア外相は3月22日に中国入りし、米国の制裁措置を非難して、世界は米ドルへの依存度を減らす必要があると述べた。
中国とロシアの関係は2014年、プーチンのクリミア併合が国際的な怒りを買い、西側によるペナルティーが科せられて以来、とりわけ接近した。正式な同盟の可能性はまだ薄いが、両国の外交および経済の結びつきは米国に対する共通の要因を背景に深まっている。したがって、戦略的につながっているのだ。中国人民解放軍とロシア軍は現在、定期的な軍事演習を行っており、最近では昨年12月を含め日本の沿岸で2度の合同空中哨戒演習を実施した。
中ロ両国は3月、月面に共同で研究基地を建設し、一方が中国、他方は米国がそれぞれ主導する宇宙(開発)計画の競争に備えると発表した
「バイデン政権による最新の対応や姿勢は、ロシアと中国の指導者からは敵対的で侮辱的とみなされ、予想通り、モスクワと北京の結びつきを一層強くさせた」とアルチョム・ルーキンは指摘する。ロシアのウラジオストクにある極東連邦大学の国際学教授だ。
ロシアと同様、中国の当局者は、米国には他国を批判する資格がないと繰り返し言ってきた。証拠としてイラクやアフガニスタン、リビアへの軍事介入を挙げ、米国が対立する各国政府に対する抗議活動を扇動したと非難した。
「米国は民主主義だの人権だのという主張の度合いを下げて、グローバルな問題における協力についてもっと話すべきである」と中国政府のシンクタンク、中国現代国際関係研究院(CICIR)の院長ユワン・ポン(袁鵬)は言っている。
その観点からすれば、習近平の北朝鮮への働きかけや王毅のイラン訪問は、北朝鮮とイランの核開発計画をめぐる紛争の解決に中国が米国と協力することに関心を持っていることを示している可能性がある。
バイデン政権は、それを受け入れるかもしれない。米中のアラスカ会談後、米国務長官ブリンケンは「我々の利益が中国のそれと重なる」可能性のある分野として、北朝鮮とイランの両方について言及した。
だが、その他の分野では食い違いが広がっている。
バイデンの大統領当選以来、中国は米国が対中統一戦線を築くのを阻止しようとしてきた。中国は、トランプ時代の対立の後、米国に協力関係を再開しようと訴えた。中国は貿易協定と投資協定をEUなどと結ぶことで、バイデン政権を孤立させようとした。
しかし、うまくいかなかった。バイデンの戦略の最初の結果は3月下旬、新疆ウイグル自治区の問題をめぐって米国、カナダ、英国、EUが共同で対中国制裁を発表した時に表面化した。中国の非難は迅速だった。
「話をでっち上げ、嘘をこねくり回して、中国の内政問題に理不尽な干渉ができた時代は過去のものとなり、もう戻らないだろう」と王毅は指摘した。
中国は、EUと英国で公選された役職者や学者たちに独自の制裁を科すことで報復した。同様の制裁は3月27日、カナダ人と米国人にも科せられた。これには、新疆ウイグル自治区での強制労働に関する公聴会を開いた米政府機関「米国際宗教の自由委員会(USCIRF)」の最高幹部も含まれている。制裁の対象者はいずれも、中国への旅行や中国の企業および個人との取引が禁じられる。
これまでのところ、多くのEU加盟国はどちらか一方の側を明確に選ぶことを望んでいるわけではない。中国との経済的な結びつきが深まっているという事情もあり、冷戦時代にみられたようなイデオロギーによる二極分裂を避けているのである。(抄訳、敬称略)
(Steven Lee Myers)©2021 The New York Times
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