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PHEV車、欧州の規制変更で「エコ」でなくなる日

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3月、排出量の検査を受けるBMWのX5プラグイン・ハイブリッド車。提供写真(2021年 ロイター/Emissions Analytics)

Nick Carey Kate Abnett

[ロンドン/ブリュッセル 12日 ロイター] - 気候変動問題に対する意識の高いドライバーにとって、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV) が人気テクノロジーだったのはいつ頃だったろう。一部の専門家によれば、実のところPHEVは環境に優しいものではなかった。欧州の規制の厳格化に直面し、自動車メーカーはPHEVから徐々に手を引くことになるかもしれない。

バッテリーと内燃エンジンの双方を搭載するPHEVに関するEUの政策の方向性を考えれば、この「過渡的」テクノロジーの賞味期限は、一部の主要自動車メーカーが想定していたよりも早く訪れる可能性がある。

グリーンファイナンスに関するEU規則草案では、2025年以降、メーカーがPHEVを「サステナブル投資」に分類することを禁じることになり、投資意欲を減退させる可能性がある。一方で、窒素酸化物など大気汚染物質の排出に関して制定が予定されている規則により、PHEVの製造コストが増大するかもしれない。

こうした改革の狙いは、完全な電気自動車への移行を加速し、気候変動に関する目標を達成することにある。

とはいえ、これはCO2排出基準などの点でPHEVを完全な電気自動車と同等に扱うことで自動車業界による数百億ユーロものPHEVテクノロジー投資を後押ししてきた従来のEU政策の転換を意味している。

一部の自動車メーカーは、バッテリー電気自動車(BEV) への「つなぎ」として、少なくとも2020年代末まではPHEVの販売を続ける構想だった。だが、業界ではPHEVから離れる動きが進行しているようだ。

2028年までの欧州における自動車製造計画について、自動車産業における製造計画を追跡調査しているオートフォアキャスト・ソリューションズ(AFS)がロイターのためにまとめた分析によれば、86車種のBEVが製造される予定であるのに対し、PHEVはわずか28モデルだ。2015年から毎年、車種数ではPHEVがBEVを上回っていた業界の状況が一変する。

自動車メーカーの一部には、このところEUがこうした移行を焦りすぎているのではないかという懸念が生じている。BEVの航続距離の短さや充電インフラの不足を消費者が懸念しているにもかかわらず、予定されている規則改正によって、欧州市場ではほんの数年でPHEVの販売が困難になってしまう、という警戒である。

「2025年までというのは常軌を逸している。実質的に、今日にでも需要をゼロにしてしまうに等しい」。フォルクスワーゲン傘下の英高級車メーカー、ベントレーのエイドリアン・ホールマーク最高経営責任者(CEO)は、PHEVをサステナブル投資に分類しないという提案についてこう語った。ホールマークCEOは、2030年まではPHEVの販売を続け、その後完全に電気自動車に移行する計画だ。

同CEOは、「たいていの人にとって、BEVはまだ実用的ではない」と付け加えた。

欧州委員会のある当局者は、グリーンファイナンス規則について具体的にコメントすることを避けつつ、EUの政策は「特定のテクノロジーを選好するものではない」として、PHEVは「ゼロエミッション(排ガスゼロ)モビリティに向けた過渡的なテクノロジーだ」と語った。欧州委員会は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする「気候中立」目標を達成するには、その時点までに路上を走行するほぼすべての自動車が排ガスゼロになっている必要がある、とも述べている。

新たな規制はまだ草案段階にすぎないが、いくつかの有力な環境保護団体が方針を変更し、PHEVのグリーン認証を取り消し、PHEVへの補助金を廃止することを求めていることが背景にある。

国際クリーン交通委員会(ICCT)が昨年9月に発表した研究では、PHEVによる燃料消費・CO2排出量は、ユーザーの充電頻度が十分でないため、承認の根拠となった水準に比べ最大4倍にもなっているとされている。

また欧州の環境団体「トランスポート&エンバイロメント(T&E)で車両・eモビリティ担当シニアディレクターを務めるジュリア・ポリスカノバ氏によれば、T&E独自の調査では、エンジン駆動で走行する場合、PHEVのCO2排出量は従来の自動車よりも多くなってしまうことが分かっているという。エンジン駆動のみの車よりも重量がある分、燃料をよけいに消費してしまうからだ。

「環境と気候という観点からすれば、今日のPHEVは、それによって駆逐される従来のエンジン車よりも問題がある」

2018年にはまだPHEVを過渡的なテクノロジーと位置付けていたことを思えば、T&Eの姿勢は一変している。

■「優れた消費者向け製品」

自動車メーカーは、電気を主動力、エンジンを補助動力として適切に使えば、PHEVのCO2排出量は従来の自動車より大幅に減少する、と述べている。また各社は、環境に優しい移動手段を求める消費者にとって、PHEVは人気の高い過渡的な選択になっているとも言う。

EU域内におけるPHEVの販売台数は2020年に50万7000台と増大し、53万9000台ほどのBEVとほぼ並んだ。

自動車メーカーは広い意味での「電気自動車化」計画を発表するに留まっており、PHEVへの投資額は測定困難だ。コンサルタント会社アリックスパートナーズによる試算では、自動車メーカー、サプライヤー各社は2020-24年に2000億ドル(約22兆円)を電気自動車化に投資すると見られる。

ドイツのエンジニアリング専門コンサルタント会社FEVでは、エンジン駆動車にバッテリーとモーター、エレクトロニクス機器を装着してPHEV化するコストは、1台あたり最大4000ユーロ(約52万円)と試算している。

PHEV存続のために戦うか、あるいは一気に完全なBEVへと移行し、欧州大陸全土の充電インフラを改善するために財務力・政治力を駆使するか、欧州の自動車メーカーの姿勢は分かれている。

欧州グリーン自動車イニシアチブ協会のステファン・ノイゲバウアー会長はロイターに対し、テクノロジーの改良により将来のPHEVはエンジン駆動に依存する比率が低下し、今後10年間、あるいはその先も、環境・気候を重視する変化に適したものになる、と語った。

「10年、あるいは9年で、 すべての顧客がBEVを購入するようになるだろうか。そうは思えない」とノイゲバウアー氏は言う。同氏はBMWでグローバル研究協力担当ディレクターも務めている。

「なぜか。休暇の時など、長距離移動やトレーラーの牽引が必要になることもある。そのためには公共の充電インフラが必要になるが、依然としてその問題がボトルネックになるだろう」

BMWとルノーは電気自動車への完全移行の時期を定めておらず、ハイブリッド陣営に腰を据えている。

BMWのオリバー・ツィプセCEOは先月、PHEVは「優れた消費者向け製品」であり、補助金がなくてもPHEVの市場は残るだろうと述べた。ルノーのルカ・デメオCEOは2月、「(PHEVは)今後10年間は無理なく市場で生き残るだろう」と述べ、従来のエンジン駆動車よりも収益性が高いとした。

ボルボ・カーズのホーカン・サミュエルソンCEOはロイターに対し、「彼ら(EU中枢の政策担当者)がPHEVの価値を分かっていないことに少し落胆している」と述べた。ただしサミュエルソンCEOは、ボルボでは2030年までに電気自動車に完全移行することをめざしており、EU加盟国が充電インフラの整備に大規模な投資を行うよう働きかけることに力を入れていくとも述べた話している。

「自動車産業が電気自動車に投資し、そのペースが非常に速ければ、我々が充電ネットワークへの投資を求める説得力も増大すると思う」とサミュエルソンCEOは言う。

■「達成可能な限界」

欧州委員会は今年、あらゆるセクターにわたる温室効果ガス排出量の削減に向けて、少なくとも1ダースの法案を提出する予定である。

何を「サステナブル投資」と謳うことができるかを決定する経済活動のリストにあたるサステナブル・ファイナンス分類に関するEU法案には、2026年以降のPHEV製造が含まれていない。

そのため、「グリーン認証」を得た資産を求める多くの投資家は、PHEV事業への投資をためらう可能性がある。また、各国政府がこの分類に沿った財政支出へと移行していけば、公的資金の獲得も制約されかねない。

多くの国では依然としてPHEVに補助金を与えているが、オランダは2016年に減税措置を縮小した。オランダでは、2016年にはPHEVの販売台数がBEVの4倍だったが、2020年にはBEVがPHEVの8倍と逆転しており、車両テクノロジーに関する政策が消費者の行動に与える影響の大きさを示した。

今月、EUの委託を受けた研究コンソーシアムCLOVEは、次期排ガス規制「ユーロ7」で2025年以降、自動車からの窒素酸化物や一酸化炭素など大気汚染物質の排出規制を強化するよう勧告した。この勧告に拘束力はないが、今年後半に予定されている欧州委員会による法案提出の検討材料となることを意図したものだ。

基準の検討に取り組む欧州委員会の専門家グループに参加しているトランスポート&エンバイロメントによれば、提出予定の法案が成立すれば、自動車メーカーはPHEVに搭載されるエンジンからの排出量を削減するため高コストのテクノロジーを装着することを余儀なくされるという。

ドイツ自動車工業連盟(VDA)のヒルデガルド・ミューラー代表は、法案は「技術的に実現可能なギリギリ」のものだと話している。

「ユーロ7によって内燃エンジンが不可能になってしまわないよう、非常に慎重になる必要がある」とミューラー代表は言う。

(翻訳:エァクレーレン)

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