[3月29日 ロイター] - 米国内の子どもたち数百万人と同じように、ブロディ・コットン君も、1年以上、学校の教室に足を踏み入れていない。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の大流行のせいで、ブロディ君は7年生としての1年間をカリフォルニア州カールスバッドの自宅のソファで過ごさざるを得なかった。そのせいか、「A」と「B」ばかりだった優秀な成績は、先学期は「D」を1つ、「F」を2つという残念な結果に終わった。
「F」の1つは、選択科目の「デザインとモデリング」だ。本来なら教室で実際に3Dプリンターを使ってみる内容になるはずだったが、自宅ではアイスキャンディの棒を使った模型を作るのが精いっぱいだった。
母親のクリスティン・カリナンさん(42)は、「これまで息子の教育で何か問題を抱えたことはなかった」と語る。彼女はシングルマザーとして、息子の学校教育とエレクトロニクス企業でのフルタイムの仕事をやりくりしている。
ブロディ君の友人たちも悩みは一緒だ。サンディエゴの北方30マイルに位置するカールスバッドは、白人を主体とした小規模だが裕福な街である。学区のデータによれば、2020─21年度の1学期にこの街の生徒がもらった「F」の数は、昨年度同学期の3倍以上に増えたという。
■学力低下、単位落とす生徒が急増
成績や試験の点数は、休校措置がとられた後、全国各地で目に見えて低下しており、特に有色人種の学生で際立っている。これは複数の州に関する評価、各地メディアの報道、各州の教育省、個別に取材した12の学区から得られた暫定データをロイターが検証したことにより判明した。
多くの学区では、米疾病予防管理センター(CDC)の指針に基づき、遅くとも次の秋までには生徒を完全に呼び戻す予定である。だが教育関係者・親たちにとって、生徒たちの学習を本来の軌道に戻すまでには、越えなければならない高いハードルが残っている。
国内最大規模の学区のいくつかから得られたデータによれば、単位を落とす生徒の数が急増している。ラスベガスを含むネバダ州クラーク郡学区、シカゴ公立学校群、フォートローダデールを含むフロリダ州ブロワード郡公立学校群などだ。クラーク郡は3月、シカゴでは1月に生徒の通学を再開しており、ブロワード郡では10月以来対面での指導を行っている。
全国で5番目に規模の大きいクラーク郡学区では、2020─21年度の1学期、全成績に占める「F」の割合は、昨年度同学期の6%に対し、13%に増加した。生徒数26万人を数えるブロワード郡学区では、昨年秋の2学期における全成績のうち、12%が「F」だった。昨年度同学期は6%である。
州全体で行われる標準学力検査も、パンデミック期間中は延期される例が多かったが、限定的に実施された結果はやはり思わしくない。ノースカロライナ州の教育委員会が開示した結果によれば、昨年秋、州統一の期末試験を受けた州立高校の生徒の半数以上が数学と生物学で「不可(not proficient)」の評価を受けた。
最も不振だったのは数学で、州のデータによれば、通常は9年生で履修する「数学I」の試験で66.4%の生徒が「不可」となった。昨年度は48.2%である。
コンサルタント会社マッキンゼー・アンド・カンパニーは12月、25の州で小学校の生徒を対象に実施される算数とリーディングのスキルを評価する「i-Ready」試験の結果を分析した。同社では、数学においては、白人の生徒の場合、パンデミックがなかった場合の学習進度に比べて1─3カ月の遅れが生じていると推測している。有色人種の生徒の場合、遅れは3─5カ月に広がる。
ジョンズ・ホプキンス大学教育学部のジョナサン・プラッカー教授は、学習の遅れを取り戻すには少なくとも2年かかると考えている、と話す。
「何とか方法を見つけて生徒たちが遅れを取り戻しはじめられるよう支援しなければ、ギャップはますます広がっていくだろう」とプラッカー教授は言う。
■成績低下の原因は
成績には判定者の主観が影響する場合もあり、必ずしも理解度を反映しているとは限らない。生徒が授業に出席しなかったために「F」がつく場合もある。だが最近では、悪い評点が家庭でも学区でも懸念を引き起こしている。1つには、そうした成績が生徒の自信をそぎ、卒業を遅らせ、大学進学への展望が狭まってしまうからだ。
シカゴのテンプル・ペインさん(48)は12月、学校長の職を辞した。娘のトリスティンさんが、これまで「A」を続けて来た7年生の数学で「D」を取ってしまったからだ。
「娘にとっては大ショックだった」とペインさんは言う。「いま彼女は『自分は出来ない子だ』という態度になっている」
シカゴ学区では、小・中学生17万2000以上のうち14.3%が、今年度の2学期に数学で「D」か「F」を付けられている。昨年度に比べ4.6ポイントの増加である。
マイノリティや低所得層にとっては、勉強のための決まったスペース、安定したインターネット接続、大人による持続的な監督といった学習に適した家庭環境を用意することがさらに困難になる場合がある。
また不利な境遇にある家庭は、COVID-19による影響を不釣り合いに受けやすくなっており、子どもたちは学習面に限らず困難を抱えている。
ケンタッキー州のジェファーソン郡公立学校区では、今月、2020年3月以来となる対面学習が一部再開されたが、9万6000人の生徒のうち約63%が、無料・低額給食制度を利用している。今年度前期、この学区で「不十分」と表現される落第点を取った生徒の数は、昨年前期に比べて2倍以上増加した。
リリアナ・アンダーソンさん(8)は、ジェファーソン郡で低額給食制度を利用している生徒の1人だ。ルイビルで育児指導員として働いていた母親のロレイン・アンダーソンさん(42)によれば、リリアナさんはパンデミック以前から読み書きには苦労していたというが、昨年秋にはその不振がさらに深刻になった。1年生のリリアナさんには基本的なコンピュータースキルが身についておらず、オンライン授業には向いていなかったからである。
ロレインさんは、今学期は自身でリリアナさんを教えることを選び、学用品を揃える資金を集めようとクラウドファンディング「ゴーファンドミー」のページも開設した。
「娘を対面授業に戻してやりたいが、(その前に)彼女に期待される学力をつけさせたい」とロレインさんは言う。「学校が再開されたからといって、そのまま娘を2年生のクラスに放り込むわけにはいかない」
ジェファーソン郡の高校で英語を教えるエミリー・ブラントンさんはロイターに対し、生徒の一部はマクドナルドから(オンライン)授業にログインしてくると教えてくれた。ブロードバンド接続を利用できる場所がそこしかないからだ。家計を支えるために複数のアルバイトをしている生徒もいるという。
不登校問題を調査している組織、アテンダンス・ワークスが2月に発表したレポートによれば、コネチカット州やカリフォルニア州では、少なくとも一部の学区で常習的な欠席が急増しており、特にパンデミックによる影響を最も深刻に受けている生徒のあいだで顕著だという。
無党派の調査機関である公共教育再生センターのベサニー・グロス副所長は、「私たちが最も恐れているのは、こうした子どもたちが昨年1年間まったく学習も登校もせずに過ごしてしまったのではないかということだ」と語る。「彼らにとっての損失は本当に厳しいものであり、私たちは、そのギャップを着実に埋めることができていない」
■「世代単位での不利」
学校の再開に伴い、教育関係者、専門家、政府当局者は解決策を模索している。
今月ジョー・バイデン大統領が署名した1兆9000億ドル(約209兆5700億円)規模の新型コロナウイルス追加経済対策により、「K-12(幼稚園から12年生=高校3年生)」に相当する学校には1220億ドル以上が投入され、貧困地域の支援に向けた資金も割り当てられる。各学区では、この学校向け資金の20%を、パンデミックによる学習の損失を緩和するために投じなければならない。
7州の州議会では、親が子どもの留年について判断する選択肢を与える法案を検討中である。生徒の留年については、通常は学区レベルで判断されている。
フロリダ州議会上院のロリ・バーマン議員は「まさに最終手段となる法案だ」と語る。同議員は地元の学区において、2000年秋の1学期中に評点「F」が前年比で3倍近くに増加したのを見て、こうした法案を提出した。ただし、子どもたちが留年しなくて済むよう「集中的な支援」を行う方が望ましいと同議員は言う。
ノースカロライナ州では、学業不振の生徒のために最低150時間の対面による夏季講習を各学区に要請する法案を検討中である。
同州の公共教育最高責任者を務めるキャサリン・トゥルイット氏はある声明の中で、「このパンデミックが、生徒たちに長期的な影響を与える世代単位での不利益になってはならない」と述べている。
ケンタッキー州ジェファーソン郡の教師ブラントンさんは、今年秋の最優先課題は、学習曲線のどの段階にいるかにかかわらず、生徒たちにしっかりと向き合うことだ、と語る。
「こうした子供たちには、毎年この内容を教えているのだから追いついてくれるだろう、というだけの気持ちでは接しないつもりだ」とブラントンさんは言う。
(Gabriella Borter記者、Brendan O'Brien記者、翻訳:エァクレーレン)