カンガルーも人とコミュニケーションできる 最新研究で判明

おなかがすくと、ヒトに近づき、催促するようにして、そのヒトとエサ箱を見つめる。それがうまくいかないとなると、そのヒトの足をクンクンしたり、ひっかいたりするのだ。
イヌについての話ではない。カンガルーのことである。
英国のローハンプトン大学とオーストラリアのシドニー大学の研究者たちは、カンガルーのそうした行動が驚くべき発見へと導いたと言っている。カンガルーは、ヒトに飼いならされたことがないにもかかわらず、イヌやウマ、ヤギと同じようにヒトとコミュニケーションをとることができるという発見だ。
研究者たちによると、ヒトに助けを求める行動は飼いならされた種の間で一般的に観察されるが、そうした行動を示す野生の動物はカンガルーが初めてだ。研究者たちはこれまで、この類いの種間コミュニケーションはヒトと一緒に進化してきた動物にだけ可能であるとの仮説を立てていた。
今回の研究は、オーストラリアの有袋動物には、これまで考えられていたよりも高いレベルの知性が備わっていることを示唆している。
研究者たちは、この研究結果を機に人びと――とりわけオーストラリア人――がカンガルーをもっと注意深く扱うようになってほしいと思っている。カンガルーはオーストラリアの国の紋章に使われ、国宝のようにみなされているが、生息数が多過ぎるためにやっかいモノ扱いされ、毎年間引きされている。
公式統計によると、2017年時点で、オーストラリア全土のカンガルーは5千万頭近くを数え、人口の2倍にのぼると推定される。農家からは、カンガルーが家畜用の牧草を食べてしまうとの不満が出ているが、その一方で研究者たちはカンガルーが生息環境を荒らし、爬虫(はちゅう)類を食べてしまうことで全滅危惧種にとっての脅威になるのを懸念する。
「住民の一部には、カンガルーは有害で間抜けで、撃ってしまいたいと考えている人がいる」と研究論文の筆頭執筆者アラン・マケリゴットは言う。「多くの人が動物の認知能力をより深く理解すれば、できる限り最善の注意を払ってカンガルーに接するべきだという考えをもっと容易に受け入れてもらえると思う」
研究者たちは一昨年、オーストラリアの動物園のカンガルー11頭を相手に8日間にわたって箱からエサを取りだす訓練を施し、テストをした。その後、エサを入れた箱を閉め、ヒトの手助けなしには取りだせないようにした。
最初のうち、カンガルーたちは箱をクンクンと嗅いだり、ひっかいたりした。ところが、箱を開けられないことがわかると、同じ囲いの中にいたマケリゴットの方に注意を向けた。
「カンガルーたちは私を見上げ、交互凝視のような行動をとった。つまり、エサ箱を見て、私を見て、次に視線をエサ箱に移し、それから私の方に視線を戻すのだ」とマケリゴット。彼は以前、ローハンプトン大学で勤務していたが、現在は香港城市大学の准教授をしている。
「数頭のカンガルーが私に近づき、私のひざをクンクンして、ひざをひっかいた」と彼は付け加えた。「もしイヌだったら、その行動をポーイング(足かき)と呼ぶ」
この研究では、11頭のカンガルーのうち10頭が積極的にマケリゴットの方を見つめ、9頭が彼とエサ箱を交互に凝視したのだった。
「カンガルーたちは、食べ物を箱から取りだすのを手助けしてほしいという願いを本気で彼に意図的に伝えようとしていた」とアレクサンドラ・グリーンは指摘する。シドニー大学の動物行動福祉の研究者で、今回の論文の共同執筆者である。
彼女は、カンガルーのそうした行動は、野生でお互いに交わしているコミュニケーション方法の変形だと思うと指摘する。
「カンガルーは社会的な種であり、相互にそうしたシグナルを使う」と彼女は言う。「閉じ込められた環境下で、そこにヒトがいる場合、カンガルーはおそらく、この能力をヒトとのコミュニケーションに適応させることができるのだろう」
今回の研究は2020年12月16日に出版された英国王立協会発行の査読付き科学誌「Biology Letters」(バイオロジー・レターズ)に載ったが、研究で使われたカンガルーたちは完全な野生ではなかった。野生だと、研究者にとって危険だからだ。今回のカンガルーは動物園で育ち、ヒトに慣れているが、それでも飼いならされてはいないとみなされた。
マケリゴットによると、飼いならされていないオオカミを使った同様の研究では、オオカミはヒトに助けてほしいとの思いを伝えるかわりに、エサが入った箱にかみつくだけだった。(抄訳)
(Yan Zhuang)(C)2020 The New York Times
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