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ローンに苦しむ大学生、アメリカにも バイデン政権は返済免除の公約を実行できるか

ニューヨークタイムズ 世界の話題
FILE -- Students react at Weill Cornell medical school on Sept. 16, 2019, to the news that debt would be eliminated for all those who qualify for financial aid, largely thanks to the generosity of donors. The parts of the higher education system that produce the most debt — private, graduate and professional schools — have greatly increased tuition in recent decades. (Hilary Swift/The New York Times)
主に寄付金提供者のおかげで学費のローン返済が免除されるとのニュースに喜ぶ学生たち=2019年9月16日、ニューヨークのワイル・コーネル大学医科大学院、Hilary Swift/©2020 The New York Times

ジョー・バイデンは最近、大学生の教育ローンについて、最初の残債1万ドルの返済を免除する法案への支持を表明した。一部には、バイデン政権に対し、大統領令を行使して一方的な学費ローンの返済免除措置をとるよう促す人もいる。

そうした権限行使の合法性には議論の余地がある一方で、より大きな疑問が浮上する。そもそも、学費ローン問題を生み出すシステムを変革せずに返済を免除すれば、どうなるのか?

返済免除の論拠は、驚くべき数字にある。米国の教育ローンの残高は現在1兆7千億ドルに達しており、パンデミック(感染症の大流行)のさなかにあって住居費や医療費の支払いに苦労している借り手を圧迫している。米シンクタンク「ルーズベルト研究所(RI)」の最新報告によると、大学新卒時の黒人と白人との貧富の差は2000年から18年までにかけて50%以上広がった。黒人学生の借入額が増えたのが一因だ。

1万ドルの返済免除構想は、比較的少額の負債にもかかわらず、大学を中退した後、その返済に苦労することもままある多くの借り手を助けることになろう。上院議員のエリザベス・ウォーレンとチャック・シューマーは最初の5万ドルの返済免除という、より大胆な計画を提案している。

いかなる構想であれ大規模な返済免除は、何百万人もの債務者を大いに安堵(あんど)させることになろう。その次にどうなるのかは、はっきりしていない。

米国の高等教育システムには巨額の負債を生む構造があり、誰もそれを制御していない。たいていの認定大学の学生なら誰でも連邦ローンを組むことができるし、連邦政府は大学が請求できる授業料の額を規制していない。教育省は、学部生には連邦ローンの上限を設けているが、大学院生には制限をつけていない。子弟を大学に入れるために親が借りられる金額も制限していない。

したがって、他に何も変革しなければ、大規模な返済免除措置がとられても、すぐに借金の額は再び積み重なることになろう。

将来の借り入れを食い止めるため、バイデンは上院議員のバーニー・サンダースが最初に社会に広めた「学費無償の大学」構想のバイデン版を提案した。バイデンの提案によると、2年間のコミュニティーカレッジは無償にする。そして公立大学の場合は、年収12万5千ドル未満の家庭出身の学生の授業料を免除する。また、歴史的黒人大学(HBC)の学費は助成する。

州政府および地方政府への緊急財政支援は、過去の不況期に授業料の急上昇や借り入れ増加につながった大学予算削減の必要を減じることになろう。バイデンはまた、低所得家庭の学生に対する連邦ペルグラント(訳注=返済義務がない学費補助)の規模を2倍にすることも提案した。

これらはすべて上院の承認が必要だが、その可能性は不確かだ。総合すれば、公立大学に通う学部生の負債をかなり減らせるだろう。

しかし、問題の重要な側面が見逃されてしまう。教育ローンの3分の1未満は、今日では以下のような学生たちが借り入れている。つまり、借入金の多くは私立の非営利大学や営利目的の大学、大学院、医学や法学の専門職系大学院に向かうのだ。バイデンは、学生を食い物にする営利目的の学校を取り締まると約束しているが、そうした部門は2000年代後半の入学者数ピーク以降、大幅に減ってきている。バイデン構想では、将来における学生の負債の源が手つかずのままだ。

こういう借り入れを減らす方法もあるが、それらは政治的に非常に複雑だ。

連邦議会は大学院や専門職系大学院のローンの規模を制限できるが、それは影響力のある大学や強大な医学界・法曹界を怒らせることになろう。返済できないような額の借金を学生に負わせる傾向がある大学に行くためのカネについては、連邦政府は貸すのをやめさせることができる。それは営利目的の部門だけでなく、公立大学や私立の非営利大学であっても、そうだ。現在利用できる詳細な情報を活用することで、学生が多額の借金を背負い、それでもいい給料の仕事を見つけるのに苦労するようなプログラムを大学自身が注意深く精査することもできる。

バイデンの大学無償構想には、財政的な負担に尻込みする州当局との厳しい交渉が絡んでくる。オバマケア(訳注=オバマ政権が推進した一連の医療保険制度改革)の下で拡大するメディケイド(訳注=低所得者向けの医療保険制度)から州が離脱を図った経験は、並はずれて寛大な連邦補助金――大学無償構想で想定されている以上の規模――であっても、政府支出に対するイデオロギー的な反対を抑え込めるとは限らないことを示している。

だからこそ、将来の借金を防ぐ有効な立法計画はなく、過去の学生の借金を帳消しにするために大統領令を行使する可能性があるわけだ。バイデン構想は危機にある債務者の助けになるだろう。しかし、それはまた教育ローンの勝ち組と負け組を即座に生み出すだろう。恣意(しい)的な日付が分かれ目になるのだ。あるいは、返済免除の先例は、将来の免除への期待も生むだろう。

ほとんどの負債をもたらす高等教育システム――私立機関や大学院、専門職系大学院――の中には、ここ数十年間で学費が大幅に高騰した。オンラインの修士課程の一部は、年間の授業料として5万ドルもしくはそれ以上を求めろところもあり、大学やその企業パートナーが収益の50%を得るもうけの多い急成長部門だ。1万ドル以上の返済免除が約束されるとなれば、そうした高等教育機関は(学生たちに)どれだけの額を請求するだろうか。

残債免除を強く求める主張がある。だが、借金の返済を免除するだけでは、汚染源を止めずに汚れた川の水に対処しようとするようなものだ。学生の教育ローン問題の真の解決には、高等教育の仕組みの多くの側面に取り組む必要がある。(抄訳)

(Kevin Carey)©2020 The New York Times

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