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距離や時間を超える分身技術 「IoA仮想テレポーテーション」が広げる可能性

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8Kの高輝度・高精細LED映像空間「エクスペリエンスウォール」は風景が実際にあるかのような臨場感(「朝日地球会議2020」での写真)

人々の行動やコミュニケーションは2020年に急激な変化を余儀なくされた。新型コロナウイルスの感染拡大で、人の移動や直接会う機会が制限される状況が続いている。そこから解放されるための先端表現技術として注目が高まるのが、「IoA仮想テレポーテーション」だ。遠く離れた場所に実際にいる感覚を疑似体験できるだけでなく、暮らしを変えるさまざまな可能性を持つ「分身技術」とはどんなものなのか。開発に取り組む凸版印刷の鈴木高志さんに話を聞いた。

眞鍋かをりさんらが時空を超えて遠隔体験

「IoA仮想テレポーテーションは、自分の感覚を、距離や時間を超えて三次元の世界に移動させる、ということなんです。何よりリアルなコミュニケーションを再現できるのが、一番のポイント。皆さんが天守閣の中に入った時にも、その空間にみんなで共存しているという感覚があったはずです」

凸版印刷で長年VRなどの表現技術を開発してきた鈴木さんから、セッションの収録後に説明を受けた。「IoA仮想テレポーテーション」とは、離れた場所にある分身となるデバイス、つまりアバターロボットやドローン、ウェアラブルカメラを装着した人にネットワークを介してつながることで、自分がその場所にいるかのような感覚を疑似体験できるサービスだ。

「IoA仮想テレポーテーション」の技術の仕組み

例えば、部屋のモニターから海中散歩を楽しんだり、スポーツ観戦ではプレー中の選手の視点に切り替えたりして、現場に近い臨場感が味わえるようになる。同社では、月にアバターロボットを送り込んで地上から月面活動を体験できるプロジェクトにも参画。SFやアニメで見たような未来を実現しようという技術だと言える。

「IoA仮想テレポーテーション」の特徴と言えるのが、「ジャックイン」「ジャックアウト」と呼ばれる技術だ。ジャックインは、別の空間にいる人やアバターロボットなどの視点に入り込んでいく感覚を指し、鈴木さんは「憑依(ひょうい)」と例える。ジャックアウトは、自分自身を見下ろす俯瞰(ふかん)的な視点から周囲を眺めることで、こちらはいわば「幽体離脱」だ。カメラなどを通じて複数の視点を持つことで、さまざまな体験が可能となる。

鈴木さんは「日本にいながらフランスのブティックに行って買い物をすることが、技術的にはすでに実現可能です。同時翻訳の技術開発も進んでおり、アバターロボットに搭載すれば、世界中の人々と現地でコミュニケーションできるようになります」と語る。

「能力の拡張」を実現する情報加工技術

ただ時空を超えた場所を「見る」だけでなく、その場所を自分の感覚でとらえることができる。その先に来る遠隔技術の未来が、「能力の拡張」という考え方だ。

ここまでに何度か出てきた「IoA」という言葉は、「Internet of Abilities(能力のインターネット)」を意味する。朝日地球会議のセッションにも出席した東京大学大学院の暦本純一教授が提唱し、IoT(モノのインターネット)の先を行く概念で、人間がネットワークを介してさまざまなテクノロジーとつながり、自らの持つ能力を拡張していくという考え方だ。

IoAの概念は、「IoA仮想テレポーテーション」によって、研究開発のレベルから実用化へと近づいている。入力デバイス(カメラなど)と出力デバイス(ディスプレイなど)は、高精細化が進み、高度な双方向コミュニケーションを可能にするVR技術で、よりリアルな臨場感や没入感が得られるようになっている。それをつなぐネットワークも、5Gやポスト5Gの時代には膨大な情報を遅延なく伝えることができる。

一方で、技術が人間の感覚に近づこうとする際に、想定外の感覚のズレが人間の側に生じることがある。VR機器による「VR酔い」や、人間に似すぎたロボットに違和感を覚える「不気味の谷現象」などが代表的な例だ。

その感覚のズレを埋めるのも、凸版印刷の役割だと言える。「我々は創業以来120年間、情報加工技術を追求してきました。紙への印刷を適切な情報やレイアウトでキレイに仕上げるだけではなく、高精細な映像をわかりやすく、かつ遅延なく遠隔地に展開するのも、情報加工技術なのです」と鈴木さんは語る。

「カメラの性能はどうするか。どれぐらいのビットレートで伝送して遅延を解消するのか。音声と映像のズレをなくす処理をどうするか。そういった技術の最適な組み合わせを自前でできるのが当社の強みです。技術が研究の領域を出てサービス化に至るときは、ユーザー目線で使いやすさや、運用のしやすさまでしっかり考えて提供しています」

遠隔地にいる人と体験を共有できるデバイス「IoA Neck(TM)」

同社が開発したLEDビジョンや、首に掛けた人物の視聴覚を共有するデバイス「IoA Neck(TM)」は、順調に受注実績を積み重ねている。自治体や企業の展示などプロモーションに用いられ、「IoA仮想テレポーテーション」は社会実装に向けて着実に前進していると言える。

遠隔技術で格差を埋めるチャレンジ

距離の壁をなくす「IoA仮想テレポーテーション」は、社会におけるさまざまな障壁をなくす手段としても、活用が期待されている。SDGs(持続可能な開発目標)が掲げている社会的課題の解決に向けて、遠隔技術が持つ可能性は大きい。

鈴木さんは「海外旅行は盛んになりましたが、それでもまだ行った経験のない人は多いはずです。今はコロナ禍で、海外旅行がさらに難しくなりました。外国でいろいろな風景を見たり、現地の人とコミュニケーションを取ったりする経験は、IoAの技術で大きく可能性が広がると思います」と説明する。

距離の制約をなくすことは、移動に伴う時間や経済的な障害を解消することにつながる。ほかにも、高齢者やハンデを持つ人がスポーツや旅行を疑似体験することができれば、逆に自身の経験や知識を他の人に享受してもらうことも可能になる。

コロナ禍によって浸透したテレワークも、現状のテレビ会議だけでは、感情や空気感などの情報を伝えることが難しい。スムーズなコミュニケーションや、同じ空間にいるかのように共同作業をおこなうためには、さらに高度な情報伝達技術が求められる。

特に医療の分野では、正確な情報伝達のニーズが高い。「現場のドクターは、患者との対面での第一印象を非常に重要視しています。表情や顔色の悪さで、どれぐらいの症状かが、ある程度わかるそうです。それを今の技術で遠隔診断すると、医師が画面越しに患者と向き合う際に、相手の正しい顔色が画面に表示されなかったり、カメラや画像処理エンジンが自動的に色調補正してしまったりすると、正しい診察が行えなくなるのです。そこで正確な色の再現(カラーマネジメント)というトッパンのコア技術が大切になります」と鈴木さん。

自社の表現技術について説明する凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 先端表現技術開発本部長の鈴木高志さん(右)。鈴木さんは、城郭や遺跡の往年の姿を3Dで復元する「ストリートミュージアム(R)」などを開発してきた(「朝日地球会議2020」での映像)

表現の正しさを追求することの重要性

先端技術がユートピアのような未来をもたらすとは限らない。ネットワークは現在も、特有のリスクを抱えている。最近では、あたかも本人がしゃべるなどしているかのように映像を合成するディープフェイクの技術が話題になった。政治や経済の分野で悪用されれば、社会に大きな混乱を生みかねない。

鈴木さんは「情報の真正性」をキーワードに挙げる。「何でもつながれば明るい社会になるというのは大間違いで、スマート社会を実現するには、きちんと正しい情報が伝えられているかどうか。『真正性の担保』が絶対に必要です。多くの方に安心・安全な情報を届けるために、当社は表現の正しさを徹底的に追求しています」と強調する。

技術を開発する側に正確さが要求される一方で、その技術を使う未来の私たちには何が求められるのか? 誰もが能力を拡張することができ、格差がなくなるとしたら、人間自身は楽をしすぎて退化するのではないか? そんな逆説的な問いに対して、鈴木さんはヒントを与えてくれた。

「技術が発展してヒトが身体的にも感覚的にも拡張する中で、重要なのは希望という意思を持つことです。そもそも意思がないと、拡張することもできないので。最後に求められるのは『こうありたい』という、人間らしい強い意思ではないでしょうか」

鈴木さんは「最新の技術を誰でも使えるようにするのが我々の使命」と語る

文明が発展する過程で、文字を使った文化を普及させるために印刷、さらにはデジタルの技術が発明され、人間は能力を拡張してきた。それは凸版印刷の事業が発展してきた歩みにも似ている。ネットワークと融合することで人類がまた進化するための、過渡期の技術開発が進んでいるのかもしれない。

※「仮想テレポーテーション」は凸版印刷株式会社の登録商標です。