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敵基地攻撃能力や日米同盟 韓国の防衛計画を読めば見えてくる、日本の課題 

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南北軍事境界線近くで監視にあたる韓国軍兵士=2015年12月、東亜日報提供

■「GSOMIA破棄」を踏まえた中身

国防中期計画は少子化が進むなか、韓国軍総兵力が今年末の55・5万人から25年末には50万人になると予測。代わりに中堅幹部を増やして軍を精鋭化するとした。情報偵察能力や韓国型ミサイル防衛を強化し、陸海空軍と海兵隊にそれぞれ最新鋭の装備を導入するとしている。

そこには文在寅政権が目指す政策の影響が色濃く反映されている。

計画には「監視・偵察分野で画像・信号情報の収集能力を画期的に拡充する」という内容がある。韓国・韓東大学の朴元坤教授は「文政権が進めた韓日の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の動きを受けたものだ」と語る。

韓国政府は昨年8月、二国間で軍事情報を共有する枠組みである日韓GSOMIAを破棄する方針を決定。大統領府国家安保室の金鉉宗第2次長が記者会見で、韓国の情報収集・分析能力の低下を懸念する声に対して「今後、軍の偵察衛星など、戦略兵器の拡充を推進する」と述べていた。韓国は現在も「GSOMIAはいつでも破棄できる」という立場を維持している。

ただ自衛隊幹部は「本当に監視・偵察能力を高めたいのなら、米国や日本との協力が必要だろう」と語る。

計画は「韓国周辺海域の水上艦や潜水艦に対する探知能力を高めるため、哨戒範囲を1・5倍にし、24時間哨戒が可能な海上哨戒機を配備する」とした。

だが、韓国軍のP3C哨戒機は「単なる上空からのパトロール機」に過ぎず、潜水艦を探知する能力が劣っている。海上自衛隊が保有する、対潜哨戒機P3Cが得た情報を蓄積、分析する対潜水艦戦作戦センター(ASWOC)が韓国にはないからだ。海自のASWOCはハワイの米インド太平洋軍司令部とも連動し、潜水艦の種類や行動などを詳細に分析できる。

米国は過去、海自と韓国軍のP3C交流を希望した。海自を通じて、韓国海軍の対潜哨戒能力を向上させたかったからだ。

しかし、防衛省・自衛隊内部では、日韓GSOMIA破棄問題や自衛艦旗の掲揚拒否問題、海自哨戒機へのレーダー照射問題などから、韓国に冷淡な空気が充満している。韓国政府は、自らの外交政策によって国防力整備に足かせをした状態に陥っている。

また、文在寅政権は、米軍が握ってきた「朝鮮半島有事の際の指揮権」を韓国軍に移す指揮統制権返還を目指している。韓国国防省国防改革室長を務めた洪圭徳・韓国淑明女子大教授は、新技術の多用などを強調した点も含め、「指揮権返還で不安を感じる世論を安心させる狙いもあったのだろう」と語る。

■計画から消えた「敵基地攻撃」

米韓空軍の合同訓練「マックスサンダー」のため離陸準備をする韓国軍のF15戦闘機=2017年4月、韓国西部・群山空軍基地、武田肇撮影

次に注目する点だが、今回の計画からは、朴槿恵前政権が最重要国防政策として位置づけていたキル・チェーン(先制攻撃・敵基地攻撃能力)と、大量報復措置(KMPR)の両政策が外れた。韓国陸軍に勤務した韓国・国民大の朴輝洛教授は「文政権が北朝鮮の核ミサイルを脅威と認めないからだ」と指摘する。

朴教授によれば、韓国軍は13年2月の国会答弁で初めて先制攻撃を行う考えに言及。朴槿恵前政権は両政策に韓国型ミサイル防衛を合わせた「3軸体系」を、北朝鮮の弾道ミサイルを防衛する切り札にすえた。

キル・チェーンは、北朝鮮のミサイル発射の動きを探知、識別、攻撃の決断、攻撃の4つのプロセスを30分以内に実行すると説明。最新鋭戦闘機F35や高高度無人偵察機グローバルホーク、空中給油機などの導入を進めることで、20年代初めには実現できるとしていた。しかし当時から、莫大な費用への懸念、北朝鮮の移動発射台をすべて捉えられるのか、といった指摘も出ていた。

2017年9月、北朝鮮の核実験に対抗し、日本海に向けて弾道ミサイル「玄武2A」を試射する韓国軍=韓国国防省提供

防衛力整備には長い期間が必要で、政策の急な変更は膨大な経済的な損失につながる。韓国の今回の決定は、敵基地攻撃能力の導入について軍事や経済面からの十分な検討や、北朝鮮や中国に対する一貫した姿勢を維持できるかどうかなどの視点が必要になることを教えてくれている。

朴輝洛教授は「政権が代わるたびに脅威の定義が変わってしまうと、確固たる安全保障政策が取れなくなってしまう」と警告する。

■軽空母や駆逐艦保有、負担求めるアメリカへのメッセージか

一方、韓国は今回の計画を通じ、21年から垂直離着陸戦闘機を搭載した3万トン級軽空母の保有作業を本格化するほか、6千トン級の駆逐艦、3600~4千トン級潜水艦をそれぞれ保有するとしている。自衛隊が事実上の空母に改修する、いずも型護衛艦(基準排水量1万9500トン)などに匹敵する装備だ。

軍事専門家の間では従来、北朝鮮の脅威に対抗するためには小型潜水艦や哨戒艦などが必要で、空母や駆逐艦といった装備は韓国の安全保障にはほとんど必要ないとの声が出ていた。

韓国の軍事関係筋によれば、米国は中国の脅威に対抗するため、韓国に対して「自由で開かれたアジア太平洋」戦略に参加するよう強く求めている。韓国は米韓同盟を維持するため、米国の要請に基本的に応じる考えを伝えたが、具体的な参加方法などは何も決まっていないという。

洪教授によれば、韓国軍内部では最近、北朝鮮よりも中国の脅威に備える必要があるという声が強まっていた。そのなかで、日本のいずも改修の動きが一種の促進剤になったという。洪教授は「トランプ政権が防衛費分担金の引き上げを求めるなか、韓国政府が独自の防衛力強化に乗り出し、米政府の協力を求める方が賢明だという判断も働いた」とも語った。

在韓米軍司令部=2018年6月、李聖鎮撮影

日本も今年秋から、米国との間で在日米軍駐留経費を巡る協議が本格化する。日本の安保専門家からも「経費の増額だけでは、日米同盟を維持できないのではないか」と危惧する声が出始めている。

ただ、国防中期計画は、装備の説明と簡単な戦略がほとんどを占め、韓国が戦う相手が何なのか、同盟国である米国とどのように連携するのかについての具体的な説明はない。同盟国に費用と責任の分担を求めるトランプ米政権の要求に応えると同時に、地政学的に影響を受けやすい中国を刺激しないため、意図的にあいまいな説明にとどめたとみられる。

最後に、今回の計画では韓国軍の少数精鋭化をうたいながら、矛盾する計画も見られる。

計画は海兵隊の航空大隊を航空団に拡大・改編するとした。自衛隊幹部の一人は「少数精鋭化するなら、部隊の統合化を進めるべきだ。韓国軍の動きは、人が更に必要な体制に向かっているように見える」と語る。

朴元坤教授も「軍の統合は、李明博政権以降の課題だが、(既得権益を守ろうとする)韓国軍の反対が大きくて挫折している。文在寅政権も、軍の抵抗を押し切るために多くの政治資産を使う考えはないようだ」と語った。文政権は文民出身者を国防相に就けることも目指したが、まだ実現していない。

自衛隊も陸海空の部隊の統合運用を進めると同時に、陸上自衛隊中心から、海空をより重視する編成を推進している。同時に、島嶼防衛やミサイル防衛では、陸海空の間で主導権争いがしばしば起きている。

こうした日本の現状をみるとき、韓国国防省が発表した計画に含まれた様々な矛盾や課題には、韓国特有の問題だと片付けられない点も多く含まれている。