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突然荒れ狂った北朝鮮、焦りの背景は「国内経済とトランプ氏の支持下落」

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2年前には笑顔で握手を交わしていた、韓国の文在寅大統領と金与正氏(左)=2018年2月10日、韓国大統領府、東亜日報提供

北朝鮮は公式には、韓国に住む脱北者らが5月末、風船につけて北朝鮮に送った金正恩朝鮮労働党委員長を非難するビラに反発している。だが、平壌と連絡を取る脱北者らの証言によれば、本当の理由は金正恩体制が少なからぬ危機にひんしているからだという。

2020年6月16日に爆破された、北朝鮮・開城の南北共同連絡事務所。朝鮮中央通信が17日に配信した=ロイター

国際社会の相次ぐ制裁により、北朝鮮の貿易量は急落し、公式の輸出額は最盛期の10分の1以下になっている。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、2月末から国境を閉鎖したことも追い打ちをかけた。北朝鮮の経済状態は厳しい。

脱北者らの証言によれば、6月初め、コロナのため一時止まっていた日本海側の元山葛麻(ウォン・サン・カル・マ)海岸観光地区建設と中朝国境近くの三池淵(サム・ジ・ヨン)郡開発の両事業が再開された。元山地区の事業は1010日の朝鮮労働党創建75周年までの完成を督促されている。元山は18万~20万人、三池淵は8万人ぐらいが参加する大事業だ。

2019年秋に撮影された元山葛麻海岸観光地区の工事現場(北朝鮮関係筋提供)

危険で劣悪な労働環境のため、不人気だった両事業だが、工事再開後は参加希望者が増えているという。平壌と連絡を取る脱北者は「両事業は国家の肝いり。工事現場に行けば、カンネンイパプ(トウモロコシご飯)であっても、腹を満たせるからだ」と語る。

別の脱北者によれば、革命の首都と呼ばれる平壌でも、市民の食生活に悪影響が出始めている。市民は毎月、供給カードを受け取る。カードに記載された主要食料品を指定量に限って国定価格で購入できる。2月末の国境封鎖後、徐々にこのカードの指定量を購入できない市民が増えているという。

■トランプ氏再選不透明に焦りか

北朝鮮がユーチューブで「物資は豊富だ」と紹介したスーパーは「外貨商店」と呼ばれ、ごく一部の高級幹部と家族した利用しない。市場の方が質は劣っても、外貨商店の半額以下の値段で購入できるからだ。もちろん、外貨商店の品物は量も限られている。

「NEW DPRK」の1本。女性がスーパーマーケットを訪問してリポートしている=YouTubeから

そして市場では品不足が起きている。国が価格統制しているが、コロナウイルス問題の影響で買いだめの動きが起きているため、商人たちは市場価格では取引に応じない。当局の目の届かない場所で、法外な値段で商品を売りさばいているという。

このため、市民の間からは、1990年代に大量の餓死者を出した「苦難の行軍」が再び始まるのではないかという不安の声が上がっている。当局も懸念している。30年前と比べ、北朝鮮市民の間に流れる情報量は激増した。携帯電話は500万台以上流通し、当局による食糧不足の隠蔽はほとんど不可能だ。

市民の不満が当局に向かうことを恐れた結果が、脱北者たちを非難するキャンペーンになったようだ。連絡事務所の爆破は、韓国が北朝鮮に対する大規模な経済援助に乗り出すことや米国へ制裁緩和を働きかけることを求めるメッセージだろう。

北朝鮮はトランプ米大統領との対話を望んでいる。米韓合同軍事演習の停止を受け入れたトランプ氏は、北朝鮮にとってくみしやすい相手だ。ただ、新型コロナ問題による景気悪化などにより、トランプ氏の再選は不透明な情勢になっている。北朝鮮は11月の大統領選前に米国から譲歩を得なければならないと焦っているのかもしれない。

■米韓が動くまで挑発は続く

北朝鮮は今後、どのような動きをするだろうか。

米朝協議が実現するまで、あるいは韓国が経済支援に応じるまで、こうした軍事挑発を続ける可能性がある。北朝鮮は自殺行為はしない国だが、自らの体制が危機に直面すればするほど、行動もより冒険的になっていくだろう。

今、日米韓の専門家らが一番懸念しているのが、北朝鮮による潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の発射だ。北朝鮮は昨年10月、新型のSLBM「北極星プッ・クク・ソン3」(射程約2千キロ)の試射に成功した。昨年7月にはSLBM搭載を想定したとみられる新型潜水艦の写真も公開した。

そして朝鮮中央通信は524日、党中央軍事委員会拡大会議を開き、「核戦争抑止力をより一層強化し、戦略武力を高度の臨戦状態で運営するための新たな方針が示された」と伝えた。

この意味はおそらく、SLBM搭載潜水艦を実戦配備し、同部隊を戦略軍として最高司令官である金正恩氏直属とする形で実戦配備を命じたということだろう。実際、春先から北朝鮮の日本海側で、SLBM試射の準備作業とみられる動きが続いている。

もちろん、北朝鮮がSLBMを試射しても、すぐに戦争状態に陥るわけではない。だが、日本は北朝鮮のミサイル攻撃が懸念された201712月に導入を決めた陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の停止を決めたばかりだ。

日本が弾道ミサイル防衛の再構築を決めた直後に、北朝鮮が再びミサイルによる挑発に出れば、日本の世論が混乱する可能性がある。今は、そんな状態に陥らないよう祈るばかりだ。