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難航続く在韓米軍の駐留経費交渉 日本も無関心ではいられない

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在韓米軍司令部=2018年6月、李聖鎮撮影

在韓米軍の経費を、韓国がどこまで負担するか。大幅増を要求する米トランプ政権と韓国の交渉が難航している。4月の総選挙で大勝し有権者の支持を得た文在寅政権は、米国へのさらなる譲歩はしない構えだが、そこには11月の大統領選でトランプ氏が再選されるか、先行きが不透明になってきた情勢も踏まえての計算がある。韓国の出方を、日本もよく見ておく必要がある。在日米軍の経費負担を決めた協定も来年3月末に期限を迎え、近く日米間でも交渉が本格化するためだ。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

米国防総省は6月2日、在韓米軍基地で働く韓国人労働者給与を年内は分担するとした韓国政府の提案を受け入れたと発表した。米韓で安全保障に携わる人々は、この発表に胸をなで下ろした。在韓米軍基地が機能停止に陥る恐れもあったが、その最悪の事態を回避できたからだ。

問題の出発点は、米韓で交渉が難航している今年度の在韓米軍の駐留経費分担問題がある。韓国は2019年度、1兆389億ウォン(約1200億円)を負担したが、トランプ米大統領は大幅な増額を要求している。

米韓は3月、実務者協議で、19年度の金額より13%増とすることで折り合ったが、国務省と国防総省が「こんな額ではトランプ大統領が納得しない」と受け入れを拒否。在韓米軍の駐留経費負担割合を定める特別措置協定(SMA)が3月末で失効してしまった。

困ったのが在韓米軍基地で働く9千人弱の韓国人労働者たちだ。米韓軍事関係筋によれば、韓国人労働者の給与は従来、韓国が70~75%、米国が25~30%をそれぞれ負担してきた。

このうち、韓国が負担する予算は3月末で消滅した。8月末までは同じ会計年度が続く米国予算だけでやりくりする必要に迫られた。在韓米軍は4月から韓国人労働者の半数を自宅待機にし、残る半数を出勤させ、残り少ない予算を充ててきた。このままいけば、9月からは予算ゼロという事態も迫っていた。

韓国人労働者は在韓米軍を様々な分野で支えている。PX(売店)や食堂の従業員、施設の清掃員らもいるが、安全保障上、どうしても欠かせない人々もいる。
代表的な例が、独自電源の保守管理要員だ。在韓米軍基地には平時、普通の住宅や企業と同じように、韓国電力公社によって電力が供給されている。同時に、北朝鮮が韓国内の電力網を破壊する場合に備え、独自の電源も準備されている。独自電源が使えなくなれば、有事に基地が使用不能になってしまう。

他にも、基地の警備や基地の通信や文書管理などを補助する人々もいる。基地の機能が低下する可能性は十分あった。

韓国が年末までの韓国人労働者の給与を負担するという米韓合意でいったん、こうした危機は回避されたが、見通しは決して明るくない。

韓国の文在寅政権を支える与党は4月の総選挙で、議席の6割を占める大勝利を収めた。文政権は世論の支持を得て、米韓の費用分担交渉ではこれ以上の譲歩をしない方針だ。「年末まで」としたのは、11月の米大統領選の結果次第では、米国が大幅な負担増という要求を変える可能性があると見越したからだろう。

米国がSMA失効から2カ月の間、「韓国人労働者の給与負担だけでも切り離して合意しましょう」という韓国の申し出を拒み続けていた背景には、こうした事情がある。

■日本も近く交渉本格化

一方、日本も、米韓のやり取りと無関係でいられない。日米間では来年3月末に、5年間の負担額を定めた協定が期限を迎えるからだ。米国は既に日本にも、在日米軍の駐留経費について大幅な負担増を求める考えを伝えている。交渉は今夏にも本格化する見通しだ。

日本政府は外務省幹部を3月に訪韓させ、対米交渉戦略などを情報収集しようとしていたが、新型コロナウイルス問題の影響で実現に至っていない。

ただ、米韓の交渉が長期化する可能性が出てきたことで、大幅な負担増を求める米国に対し、日韓が協力して対応する事態も可能になった。韓国政府元高官は「韓国と日本が同じ声を上げれば、米国に対する交渉力を高めることができる」と語る。

日本政府内では、今秋の大統領選をにらむトランプ氏は、簡単に費用分担交渉で妥協しないだろうとの見方が出ている。政府関係者の1人は「交渉が難航すれば、日本製自動車・部品に対する追加関税問題などが再燃する可能性もある」と懸念する。

トランプ米大統領は今月、ドイツに駐留している米軍3万4500人のうち約9500人を減らすよう指示した。トランプ氏は繰り返し、ドイツに対して国防費の負担を増やすよう求めていた。

日本も韓国やドイツと情報交換を進め、秋の大統領選まで交渉の結論を急がない戦略を取っていくべきだろう。