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グアムからは爆撃機撤収、でもアジアで活発に続く訓練飛行 アメリカの思惑は

World Now 更新日: 公開日:
戦略爆撃機B52=米空軍ウェブサイトから

――エスパー米国防長官は5月、B52の動きについて「dynamic force employment(動的戦力運用)の一環だ」「米国の兵力がいつどこに配備されるのか、予測不可能性を高める」などと説明しました。

2018年2月、米国の国家防衛戦略で公開された概念だ。ブッシュ(子)政権が推進した「トランスフォーメーション」戦略に近い。最初から決まった場所に一定の兵力を置かず、必要に応じて米本土から展開するという考え方だ。

――なぜ、そのような概念が出てきたのですか。

まず、インド洋や南シナ海のように、米国が脅威を認識しながら、米軍基地を置けない場所が増えている事情がある。

そして、こうした海域で発生している脅威は、グレーゾーンとも呼ばれる、本格的な戦争に至るような動きではないが、領海の侵犯や、係争地の一方的な埋め立てといった低烈度の脅威がほとんどだ。この場合、米軍の存在を示して脅威を抑え込むことは必要だが、本格的に戦争を行う段階ではない。だから、米本土からの展開で十分補える。

財政的な節約も期待できる。グアムと米本土の施設や人員を合理化できる。トランプ米大統領は同盟の価値よりも経済的な利益に関心が強い。ホワイトハウス対策の一環である可能性もある。

■「核の傘」は弱まらない

高橋杉雄氏=牧野愛博撮影

――米国が日韓に提供している「核の傘」が弱まる可能性はありませんか。

B52には、核兵器を搭載できる機体もある。いずれにしても、グアムにあった核兵器貯蔵庫は老朽化し、今は使われていない。今回の事態によって、核の傘が弱まるということはないだろう。

北朝鮮が核開発を進めるなか、米国は、同盟国である日韓が、核の傘を含む拡大抑止への信頼性を疑うようになる事態を心配してきた。2010年以降、日韓それぞれとの間で拡大抑止をめぐる定期協議を行い、米軍の核関連基地を公開するなどしてきた。

もともと、米軍は2004年、グアムにB52を配備したが、当時行われていた在韓米軍再編によって、韓国が米国の抑止力に不安を持つことを防ぐ狙いがあった。日韓の米国の抑止力に対する理解が進んだという判断も、今回の米本土への再配備につながったのではないか。

――でも、中国や北朝鮮が米軍の力が弱まったと誤解しませんか。

その懸念は当然ある。最近、米軍は別の戦略爆撃機B1Bを南シナ海や朝鮮半島周辺などに派遣し、頻繁に日韓などとの共同訓練を行っているのも、中国や北朝鮮に誤解させないための措置だろう。

B1Bは他の爆撃機よりも高速で飛行できるし、多数の巡航ミサイルなどを搭載できる。B1Bは、その高速移動能力を生かし、イラク戦争の開戦直後、フセイン大統領の所在が判明次第直ちに攻撃する任務を割り当てられていた。B1Bが朝鮮半島周辺に飛来することは、北朝鮮に対する大きな抑止力になる。

ただ、もちろん、米本土よりグアムの方が南シナ海や朝鮮半島には近い。中国は最近、南シナ海でベトナム漁船を沈没させたり、尖閣諸島周辺の日本領海内で日本漁船を追跡したり、徐々に動きを強めている。中国がB52の本土移転を「米国の弱さ」と解釈する可能性は否定はできない。

いずれにしても、日本は当事者意識を持ってしっかりと対応する必要がある。