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宣伝色ない異色の「北朝鮮ユーチューブ」狙いは 元平壌特派員が映像を読み解く

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「NEW DPRK」の1本。女性がスーパーマーケットを訪問してリポートしている=YouTubeから

北朝鮮の映像を流しているユーチューブのチャンネルは「NEW DPRK」と「Truth」。2017年ごろから映像の配信を始めた。

異色なのはその中身。北朝鮮が過去、紹介してきた映像は、金日成主席の生家や主体思想塔、あるいは最高指導者の公開活動など、体制を称賛する政治目的を伴うものばかりだった。公開も朝鮮中央テレビなど主に国内に向けたメディアに限られていた。

また、こうした場所にはチマ・チョゴリを着た案内員がいて、来場者に対して建物の政治的な意味や背景を解説し、最高指導者を褒めたたえていた。

ところが、ユーチューブが伝える映像は、絶叫マシンが売り物の凱旋青年公園遊園地、イタリアンレストラン、テコンドー教室、学校、スーパー、一般家庭など。映像も1~10分程度で、比較的短いものがほとんどだ。

案内役の女性は洋服姿で、北朝鮮では着用が義務づけられている金日成バッジを着用しないこともしばしばある。スーパーに案内する時は「近所なので1週間に2、3度利用します」と語り、日常生活を強調する。

YouTubeの「NEW DPRK」チャンネル=YouTubeから

出演者は流暢な英語を操る。朝鮮語で語る場合は、必ず英語の字幕がつく。ユーチューブを使った公開自体、北朝鮮国外へのアピールという思惑がのぞく。北朝鮮のテレビ放映を禁じる韓国でも、北朝鮮当局の作品かどうかがはっきりしないこともあり、これらのユーチューブを個人的に視聴することを禁止できないでいる。

スイスに留学経験がある金正恩朝鮮労働党委員長は過去、西洋文化を取り入れた施設の建設を命じてきた。映像も正恩氏が関心を払ってきた西洋レストランや乗馬場、金正恩氏が名前をつけた北朝鮮プロサッカーチーム「ヘップル(たいまつ)体育団」などを紹介しており、結果的に正恩氏の政策を宣伝する格好になっている。

また、こうした施設は過去、海外からの観光コースになっていた。個人観光は国連制裁決議に違反しないため、北朝鮮は新型コロナウイルスの感染問題が落ち着いた後、外貨稼ぎを行うため、ユーチューブの映像を公開している可能性もある。

また、最近は、新型コロナウイルスの集団感染に対する北朝鮮政府の対応を代弁したり、外国の報道に反発したりする映像も流し始めた。

3月24日付の映像では、ウナという女性が金日成バッジをつけて北朝鮮のコロナ対策を説明。北朝鮮で感染者がゼロという実態を疑う世界の声に対し、①最高指導者が全てのことを初期に予見し、適切な措置を取った②統合された管理措置③市民の全面的な協力――という「3つの秘密がある」と訴えた。「尊敬する元帥様と頼れる社会主義システムがある私たちはラッキーだ」と語った。

「Truth」から、北朝鮮の新型コロナ対策を伝える動画=YouTubeから

さらに、4月12日付の映像では、同じ女性が平壌の近況をリポート。スーパーなどに立ち寄りながら、「お店もカフェも以前の通り、ノーマルな状況です」と英語で強調した。従業員も「トイレットペーパーなども十分、皆さんに行き渡っています」と説明した。

4月24日には、「何が本当でウソかを確かめる」として平壌市内のスーパーを訪問。客や従業員に「モノの値段は上がっていますか」と片端から聞いて回り、物価の上昇がない事実を強調してみせた。

一方、映像が伝えない事実も勿論ある。朝日新聞は、昨年秋から冬にかけて撮影された北朝鮮の写真を手に入れた。エネルギー不足のために乱伐が進んだ山々や老朽化した民家群などが写っていた。ユーチューブが伝える映像は、電化製品に囲まれた市民生活や食料品が豊富にあるスーパーなどで、普通の市民が使う市場や裏通りにある食堂などは出てこない。

映像に出てくる市民も「こんなに美味しいものが食べられて幸せだ」「学校生活は楽しい」といった発言ばかりで、政府や生活に対する不満や不安を訴える人は誰もいない。

2019年秋に北朝鮮の咸鏡北道で撮影された民家(提供写真)

■狙いはどこに 元平壌特派員が映像を読む

北朝鮮が製作しているとみられるユーチューブ映像の狙いは何なのか。映像のどこまでが真実なのか。1996年と2003年にそれぞれ朝鮮新報平壌特派員を務めるなど、北朝鮮での長い取材経験がある、週刊金曜日編集部の文聖姫さん(58)に話を聞いた。

2011年9月、平壌で建設中の高層アパートの前に立つ文聖姫さん=文さん提供

――文さんも2010年と11年、平壌のイタリアンレストランや遊園地などを訪れたそうですね。

10年に遊園地、11年にイタリアンレストランをそれぞれ訪れた。今回のユーチューブ映像と比較すると、顧客への配膳などに慣れてきた感じだ。メニューもさらに洗練されている。ピザの皮も薄くなり、技術の向上を感じさせる。ピザやパスタの作り方を丁寧に紹介しているのも斬新だ。私が訪れた時は石窯を使っていたが、今は電気やガスの窯を使っているようだ。

興味深かったのは、店長とみられる女性が「ワインと一緒に食べるとおいしい」と、ワインを勧めていたことだ。11年当時、私もワインを注文しようとしたが1瓶21ドルもした。一緒にいた案内員が「そんな高い酒を頼む必要はない。我が国の焼酎でいい」と言ったので、仕方なく焼酎を頼み、3人で33ドル支払って食事した。別のファストフード店では、若者が焼酎を飲みながらワッフルを食べていた。

今回、客はワインを飲んでいた。北朝鮮の食文化もずいぶん変化したようだ。店長の服装やヘアスタイルのセンスが良かった。

ただ、客は男女2人だけ。女性客は「1週間に1度は訪れる」と言っていたが、レストランが庶民的なのか、女性客が裕福なのか、どちらかだろう。昔の感覚では、一般の人が週に1度イタリアンレストランに行けるとは信じがたい。

――北朝鮮の人はどんなお酒を飲むのですか。

ワインやブランデーは高価だから、一般の人には手が出にくい。市民はビールや焼酎を飲んでいるのではないか。ワインを飲むのは、外国経験がある人や富裕層だろう。地方では酒の密造や販売も行われていた。

2010年8月、平壌にある金日成総合大学のプールを訪れた文聖姫さん=文さん提供

――ユーチューブでは、平壌の一般家庭が紹介されています。文さんが知る北朝鮮の家庭と違いがあるのでしょうか。

平壌の未来科学者通りや蒼光通りなどに新しく建てられたアパート(マンション)のようだ。超高級住宅という印象。普通の住宅のエレベーターはあんなに立派ではない。

ユーチューバーのスジンという今年、小学生になる女の子の家は、調度品がすべて新品。台所も広くて大型冷蔵庫も完備されている。プラズマクラスターの空気清浄機やランニングマシン、ピアノが置いてある。私が訪れた一般家庭とは雲泥の差だ。

スジンの父親は半袖パジャマを着ていたが、驚いた。北朝鮮男性の夏の普段着は、下が短パンかジャージー、上がランニングシャツというのが一般的。部屋着としてパジャマを着る人もいるかもしれないが、私は会ったことがない。

ユーチューブでは新1年生になるスジンのカバンや制服を買うシーンがあり、初春に撮影されたと思われる。半袖パジャマでは、その頃の北朝鮮では寒いだろう。多少違和感があった。

「NEW DPRK」に投稿された、小学校の入学準備の様子=YouTubeから

スジンが、赤ちゃんの頃からの自分の動画を紹介していた。ビデオを持っている。余裕のある裕福な家庭だ。

スジンが「いつから学校に行けるの」と尋ねると、父親が「コロナを撃退する薬ができてから」と答えていた。何げない会話だが、北朝鮮でも感染予防のために学校を閉鎖していることがわかる。国家が新型コロナ対策を講じている事実を知らせているのだろう。こんな演出は過去にはなかった。

――スーパーには商品があふれていました。

12年、北朝鮮で初めてできたスーパー「光復地区商業中心」を訪ねたが、商品は豊富だった。ここは中国との合弁スーパーで中国製が4割、北朝鮮製が6割という説明だった。ユーチューブの映像を見ると、国産品が増えている印象だ。菓子の銘柄から、食品工場が増えているのもわかる。

北朝鮮は従来、国産品の増産に力を入れてきた。経済制裁で輸入品に頼れないし、中国への従属関係から速く脱したいという思いがあったからだ。

女性がケーキやチーズ、お菓子などを次々カートに入れていくシーンに驚いた。こんなに一度に購入できるのだろうか。私が訪朝していた頃は、物価が高く、一般市民の給料では、あんなにたくさん買えないと思う。カード利用も驚きだった。

昔の商店は、まず購入品を決めて店員に伝えると、伝票を切ってくれた。伝票を持参して精算場所で金を支払うと、伝票の半分を切ってくれる。それで購入品と交換した。スーパーのように、最後にレジで精算する買い物ができるようになったのは良いことだ。

ただ、スーパーや市場での買い物が一般的になっているのなら、社会主義計画経済の根幹をなす供給システムは崩壊しつつあるのか、という疑問もわいた。

平壌での軍事パレードの後、沿道に出た市民とともに、市内を回る兵士らを見る文聖姫さん(2011年9月)=文さん提供

――乗馬場、託児所、テコンドー教室などは北朝鮮市民がよく利用する場所なのでしょうか。

託児所は年齢基準を満たす子どもなら全員が利用できる。ただ、託児所にもランクがあるようだ。ユーチューバーのスジンが利用していた託児所は、私が取材した平壌の金正淑託児所のようだった。金正日総書記の母親の名前を取った託児所で、党中央の幹部が利用する高級な託児所だ。

その託児所で働く女性を取材したことがあるが、自宅は平壌の柳京ホテルの隣にあるアパートだった。夫は朝鮮コンピューターセンターで働く技術者で、娘は平壌外国語大学付属中学校に通っていた。

この女性に物価や給料の話を聞くと、コメは配給で賄えるし、おかずや野菜などの副食物はアパートの下まで売りにきてくれて、とても安い、とだけ語っていた。卵や油も豊富にあった。私の取材に備えて準備したのだろう。

同じように、ユーチューブが紹介した託児所の運動会で父母がビデオ撮影していた。普通の家庭では考えられない。

「NEW DPRK」から、北朝鮮の託児所での運動会=YouTubeから

――市民たちの服装や態度、話の内容をどう受け止めましたか。

流暢な英語を操るユーチューバーのウナには驚いた。彼女は、これまでの北朝鮮の美人の尺度にははまらない。絶世の美女とは言いがたいが、知的で服装も髪形も洗練されている。時にはバッジをつけずに登場する。知的な女性が英語で自然なリポートをする。絶叫調が目立った北朝鮮の従来の宣伝手法とはまったく異なる。普通の女性が語りかけることで、北朝鮮の特別ではない日常を紹介しているという点を強調したいのかもしれない。「普通の国」であることをアピールする狙いがあるのだろう。

私が取材していた当時、相手は言葉一つ一つを選び、神経を遣って、絶対に話してはいけないことは話さない、という空気が感じられた。物価の話もしたがらなかった。ユーチューブでは、物価や在庫の話などをする店員や客もいる。自然で説得力が出る。

――特派員時代、北朝鮮での取材にはどのような制限があったのでしょうか。

基本的に自由な取材は認められなかった。

例えば、「平凡な家庭の主婦の一日を取材したい」と案内員に頼む。案内員は自分なりに考えて、平壌市当局などに連絡し、適当な女性を決める。自由にアポを取ることなど不可能。1号行事といわれる最高指導者の行事、軍への取材も極めて難しかった。

一般家庭の取材は、当時も依頼すれば可能だっただろう。ただ、ある程度、見栄えのする家庭を準備していただろう。先述したように、私が訪れた一般家庭では、もの不足という印象を与えたくない市当局が、あらかじめ卵や油を用意していたようだ。

スーパーや市場の内部を撮影するのは絶対に不可能だった。スーパー内部の映像は、北朝鮮市民が出演するユーチューブだから可能だったのだろう。こうなると、平壌に駐在したり、出張したりする外国メディアの役割は、小さくならざるを得ない。外国メディアは、北朝鮮メディアとの差別化を図る必要が出てくるのではないか。

ただ、北朝鮮版ユーチューブですら、市場の映像は出てこない。外部に見せたくないのかもしれない。

――なぜ、このような映像が出てきたのでしょうか。

宣伝扇動部門での世代交代の匂いを感じる。誰が指揮しているのかも重要だろう。

私は03年、結婚する後輩へのビデオメッセージを北朝鮮で作ってもらったことがある。悪くないできばえだったが、年配の脚本家が2人の映像カメラマンを従え、完璧な脚本を書いた。何となく不自然で、北朝鮮の映像や出版物ができあがる背景をみた気分になった。

ユーチューブでも、スジンが何度か自分の言葉を言い直していた。脚本があるのだろう。でも、ユーチューブを使うこと自体、外国留学の経験者などが入り、新しい発想が生まれているのかもしれない。

――北朝鮮にとって映像や写真はどのような意味があるのでしょうか。

北朝鮮での映像や写真には必ずメッセージが込められている。今年初め、金正日総書記の妹、金敬姫氏が久しぶりに公の席に現れた。この様子を報じた写真は、金敬姫氏が座った位置などを通じ、現在の立場などをそれとなく説明している。

北朝鮮から外部に出る映像や写真は必ず検閲されているはずだ。北朝鮮をどう見せたいか、という指導部の意図が込められている。

ムン・ソンヒ 61年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科韓国朝鮮文化研究専攻博士課程修了。専門は北朝鮮の政治・経済と市民社会。主な著書に「麦酒とテポドン経済から読み解く北朝鮮」(平凡社新書)など。