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新型コロナの情報を「オープンデータ」で発信 開発の裏側を聞いた

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Code for Japanのメンバーら。前列中央は台湾のIT担当大臣のオードリー・タン氏=Code for Japan提供

■元ヤフー・宮坂副知事が提案

3月3日に東京都が公開した「新型コロナウイルス感染症対策サイト」は、PCR検査の実施件数や陽性患者数といった最新のデータをグラフ化し、元となったデータを確認できるようリンクをつけている。感染について相談したい人が、どういう場合にどんな窓口に連絡すれば良いかが一目でわかるチャートも載せる。都政策調整部によると、元ヤフー社長の宮坂学副知事がリーダーをつとめる特別広報チームが発案した。

最新の検査実施件数や陽性患者数を可視化している東京都のサイト

開設を決めてから公開までわずか1週間だった。都の委託を受けてこの開発を担ったのが一般社団法人「Code for Japan(コード・フォー・ジャパン)」だ。東日本大震災をきっかけに設立され、情報技術を使って社会課題の解決を目指す活動を続けている。

今回、都のサイト開発に中心的に関わった同団体のメンバー、下山紗代子さん、小俣博司さん、池田達哉さんに、開発の経緯と、データを発信する上で気を付けていることを聞いた。

「Code for Japan」の(左上から時計回りに)小俣博司さん、下山紗代子さん、池田達哉さん

このサイトで特徴的なのが、ソフトウェアを開発するためのGitHub」(ギットハブ)と呼ばれるプラットフォームを使い、サイトをつくるための「ソースコード」を公開している点だ。誰でも自由に活用でき、すでに全国の自治体や市民団体がこのソースコードを使って、各地の新型コロナの情報に基づいて同様のサイトを開設した。その数は4月中旬までで66を数える。高専生ら学生が主体となって作ったサイトも生まれている。

また、GitHub上でグラフの見え方や使いやすさについてオープンに改善・修正の提案を受け入れているのも特徴だ。提案は2種類あり、細かなバグや「こうした方が見やすくなるのではないか」といった改善を提案するものと、ソースコード自体の変更を提案するものがある。

下山さんによると、委託の段階で都から「ニーズベースのサイトにしたい」とGitHubを活用する意向があったという。公開直後には、台湾でITを使って感染症対策に取り組むデジタル担当大臣のオードリー・タン氏が、翻訳の修正を提案して話題になった。

オードリー・タン氏からの修正提案

また、メディアプラットフォーム「note」のCXOで、UIUXデザイナーである深津貴之さんからは、SNSでシェアしやすくするための提案があり、実際に反映された。このように「メンバーだけでは思いつかなかった」という多くの提案があり、4月中旬までに計1800件もの改善が行われた。

東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトでは「やさしい日本語」での発信もしている

■そもそもオープンデータとは?

そもそも、オープンデータとはどんな概念なのか。

総務省のサイトでは、国や自治体、事業者が持つデータのうち、誰もが容易に利用できるよう、①二次利用可能なルールが適用されている②機械判読に適している③無償で利用できるーーの3項目に該当する形で公開されたデータ、と定義している。

Code for Japanの立ち上げから関わる小俣さんによると、まずアメリカでオープンデータを活用して社会の課題を解決することを目指す団体「Code for America」が生まれ、その流れをくんで日本でもCode for Japanが立ち上がった。東日本大震災で福島県浪江町の行政情報をわかりやすく町民に伝える活動をしていたメンバーらが主体となった。その後、「Code for Tokyo」「Code for Osaka」など地域ごとに団体ができている。

Code for Japanではこれまで、台風や選挙の際にデータ可視化などのプロジェクトを展開してきた。下山さんは、オープンデータには「官」と「民」の役割分担を変える側面がある、と指摘する。「これまで行政が抱え込んでいた情報を、共有しやすい形に変えることで、課題の解決につなげていく。その過程で生じる役割を、組織を超えて行政と民間で分担しやすくなってきた」と話す。

■行動原則に"Be open"

新型コロナが広がり、様々な自治体、メディア、民間団体がデータの可視化に取り組んでいる。発信する側として、どんな点に気を付けてきたのだろう。また、受け取る側は何を注意したら良いだろうか。

データの品質保証を専門としている下山さんは「情報発信を担うことは責任重大」とした上で「見せ方を間違えると誤解やパニックを起こさせる。例えば、グラフや背景の色の組み合わせによっては、必要以上に恐怖心を与えてしまうこともある。数字が一人歩きして医療や行政の負担を必要以上に生じさせないことも念頭に置いている。また、元となったデータを公開し、外部から検証が可能な状態にしておくことも大切」と語る。

Code for Japanではソースコードを活用して情報発信する人たちに向けて、サイトを作る上で大切にしたいことを「行動原則」としてまとめた。そこでは「情報は人に届けてこそ意味がある。UX(ユーザエクスペリエンス)を大切にする」「誰もが快適に利用できるサイトを目指す」「情報を求める人達とともに、サイトを育てていく」などと示している。

GitHub上で公開している「行動原則」には"Be open""Build with people"などと書かれている

情報を受け取る側が気を付ける点については、小俣さんは「できるだけデータのおおもとが何なのかを気にかけてほしい。伝言ゲームと同じで、二次情報、三次情報となるにつれて趣旨が変わってしまうことがある」。更新日やグラフについている注釈にも目を向けてほしいという。

■広がるオープンデータの活用

今後も、オープンデータの試みは様々な形で続いていきそうだ。池田さんは、経産省などが公開した「#民間支援情報ナビ」の開発にも関わった。感染拡大にともない、民間事業者や団体が取り組む学習支援やテレワークなどの情報をまとめたものだ。

経産省などが開設した「#民間支援情報ナビ」

池田さんは大学で学びながらスタートアップ企業でエンジニアをしており、プロジェクト単位でCode for Japanに関わってきた。「自分の持っているスキルを社会的な課題解決に生かすことは、いままではハードルが高いことだと感じられていたかもしれません。でも、ソースコードを書けなくても、貢献する方法はあります。個人としては今後も、公開されている様々なデータを見ながら、社会のニーズに合わせたサイトが作れないか考えていきたい」と話した。

■個人情報との兼ね合い、ジレンマも

様々な視点から解決策を考えるにあたって、情報公開はこれまで以上に重要な意味を持つようになっている。小俣さんはこう語る。「これまでは行政も企業も、自分たちだけでそれなりのものを作ることができた。しかしいまは、一人や1社の力だけでは対応が難しくなってきた。であれば、情報を開示して新しいアイデアを生むという選択肢もある。意思決定についても、トランスペアレンシー(透明性)が大事になっている」。

ただ、新型コロナの対策にあたっては、何を、どこまで公開するのか判断が難しいケースもある。感染症対策と個人情報の兼ね合いでジレンマが起きることもある。こうした点を念頭に、下山さんは「オープンデータは公開する、しないの二択ではない。『限定公開』や『限定共有』という考え方があります。一定の条件を付けて公開したり、専門家間で共有したりすることで、詳しい解析や次の行動に移すための一手につなげていくことができる」と話した。