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武田薬品・ウェバー社長が語る「外国人が日本企業でやっていくカギ」

A European CEO's Challenge フランス人社長 老舗を背負う 更新日: 公開日:
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長=五十嵐大介撮影
Chiristophe Weber, CEO, Takeda Pharmaceutical

English Version: Respect for local culture vital for survival as CEO in Japan

――アイルランドのシャイアー社の買収から1年たちました。その後の進捗はどうですか?

相当な進展をみせています。前回のインタビューは2019年2月でしたが、当時は買収から1カ月しかたっておらず、統合プロセスのまさに最初でした。しかしいまは、統合プロセスはほぼ終えました。

ITシステムの統合はもう少し時間がかかり、2020年に終える予定です。正直なところ、2020年をとても楽しみにしています。昨年苦労した仕事の結果が出始めるからです。

昨年11月、研究開発(R&D)についての発表の場を設けました。その場で説明しましたが、今後5年間で12の新製品を投入する計画です。それらの新製品すべてがとてもイノベーティブなもので、統合の成果によるものといえます。

――最近米国から戻ったばかりのようですが、現地の従業員の雰囲気はいかがでしたか?

米国の事業はとても大きいため、日本と米国の間を頻繁に行き来しています。私は自分の時間の50%を日本国内にいて、残りの50%は国外にいます。私はできる限り従業員と交流するよう心がけていて、定期的にタウンホールミーティングを開いています。統合後すでに2回、従業員アンケートもおこなっていますが、結果はとてもいい。従業員の士気を理解するために多くの質問をしていますが、そこで明確になったのは、統合後の自分の役割が早期にわかればわかるほど、従業員の意識が高まるということです。

米国のテレビ番組に出演する武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長=五十嵐大介撮影<br> Takeda CEO Weber appeared on a US business news program, shown on a wall screen in Takeda headquarters lobby (photo by Igarashi Daisuke)

残っている課題は、旧シャイアー従業員の会社への帰属意識です。統合後の従業員の半分は旧シャイアーの出身者で、一部の人たちはまだ武田の従業員だということを実感できていません。これは短期間でできることではなく自然なことですが、引き続き取り組んでいきます。

――シャイアーとの統合で武田は世界トップ10の製薬会社となりました。2025年までの経営戦略も示していますが、その後はどのようなビジョンを持っていますか?

私たちの最大の目標は、革新的な製品を持続的に提供できるような、研究開発に強い企業になることです。二つ目には、従業員が働く場として魅力的な環境をつくること。そして三つ目は、最高の評判を持つ企業になることです。我々製薬業界の評判は必ずしも良いとはいえず、この点はとても重要です。

我々製薬会社は、研究開発を経て新薬を世の中に出していますが、その際に起きるのは、価格と薬の手に入りやすさの問題です。我々は新薬の価格を適切に設定する必要があります。なぜなら、医療はとてもセンシティブな領域だからです。

医療分野では、医師や病院は利益を追求する組織ではない一方、我々は民間企業であり、そこに摩擦が生まれます。我々企業は透明性を高め、自分たちのやっていることを説明し、社会や世界にポジティブなものを提供していると示す必要があります。これはとても大事なことです。

■ローカルの文化に敬意を払い、聞くスタイル必要

――社長に就任してからの6年で成し遂げたことは何でしょうか?少なくとも2025年まで社長を続けると言っていますが、リーダーは長期間続けたほうがいいのでしょうか?

最初に言っておくべきことは、武田にはとても強力な取締役会があるということです。取締役会が私のボス。あなたは私の自己評価をたずねましたが、それは取締役会が答える問題です。質問に答えるとすれば、特に私たちの業界では、長期的なサイクルでものごとに対処しており、変化には時間がかかるということ。たとえば、我々は5年前に研究開発体制で大規模な改革に着手しましたが、その効果は5年後の今になってようやく見え始めました。本当の恩恵は2025年以降に見えてくるものであり、それはシャイアーとの統合についても同じことが言えるでしょう。

武田薬品の新社屋ロビーの壁は「木」と「土」の文字がデザインされている=東京都中央区、五十嵐大介撮影<br> The lobby of Takeda’s new headquarters in Tokyo. Plenty of wood was used for the wall and floor (photo by Igarashi Daisuke)

――あなたの報酬は日本企業としては高額で、しばしば話題にのぼっています。報酬についてはどう考えていますか?

私の報酬については常に議論になりますが、それは完全に報酬委員会が決めることです。武田に来てくれる人材は、会社の将来や企業の価値観、事業の目的などに共感してくれているからであり、報酬のためだけに来ているとは思いません。ただ、報酬が魅力的でなければ、彼らは来ないでしょう。

武田では、製薬業界の16の企業をベンチマークにして、報酬を決めています。そこには、欧米企業のほか、アステラスなど日本企業も含まれます。データや統計をもとに、そうした企業がCEOやプロダクトマネジャーらにどの程度の報酬を払っているかを見たうえで、その中央値で決めています。

本社ロビーのスクリーンでは、ニューヨーク証券取引所への上場を祝う武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長らの映像が流れていた=五十嵐大介撮影<br> Takeda CEO Weber and other executives celebrate the company’s listing on the New York Stock Exchange, shown on a wall screen in Takeda headquarters lobby(photo by Igarashi Daisuke)

――以前のインタビューで、日本企業のトップの仕事は「受けないほうがいい」と知人に忠告されたと答えていました。日本企業のトップは魅力的な仕事ではないのでしょうか?

私が忠告を受けたのは、日本企業での外国人トップの成功率の低さです。知人たちは「本当にいいのか。外国人はみんな日本で失敗しているぞ」と私に言いました。それでも、私はそのチャレンジを引き受けました。私は、外国人でも日本で成功できるということを示したいと思っています。

――外国人が日本の企業文化のなかでうまくやるカギは何でしょうか?

人の話を上手に聞くスタイルを持つ必要があると思います。他人の意見に敬意を払う必要がある。私はローカルの文化にとても敬意を払っています。それはおそらく、私が長年にわたって多くの国で生活したことがあるからでしょう。それでも、ローカルの文化を尊重することは、変化しないという意味ではありません。私が大事だと思うのは、ローカルの文化を尊重しながら、変化を加速させることです。それぞれの国の文化に合わせて、違う手法で変化を生んでいけばいい。

■企業統治の問題、簡単ではない

――日産など、日本の企業統治をめぐる問題が続いています。なぜこうした問題が起きるのでしょうか?

それぞれの企業の事情は異なりますが、そうした問題を起こさないために、強力な企業統治を持つことがとても大切になります。これは簡単なことではありません。独立性が高く、強力で、機能する取締役会を持つ必要があります。さらに、取締役どうしが協力できる関係を持たなければなりません。

――なぜ強力な取締役会を持つのは難しいのでしょうか?

それぞれの取締役が、強力なパーソナリティー(個性)を持っているからです。テーブルを囲んで10人もの強力な個性が集まれば、会社にとって正しいことをするという共通の意図を持つ必要があります。

もう一つは、本当の意味で独立した取締役を、十分な数確保する必要があることです。武田は16人の取締役のうち、11人が社外取締役で、社内の取締役は5人のみ。これは簡単なことではありません。なぜなら、社外取締役は日々会社にいるわけではないからです。我々の取締役会では彼らにとても重要な意思決定をお願いしています。彼らは、会社の経営陣を信頼し、経営陣は透明性が高く、可能な限りの情報を提供しています。したがい、社外取締役と経営陣の間に、信頼関係が必要になります。信頼関係がなければ、この関係は機能しません。

我々の取締役会は、いつもCEOである私からのアップデートをお話しします。過去数カ月間に何が起きたのか、口頭で説明しています。このとき、いいニュースと悪いニュースを両方共有することがとても重要です。経営では常に悪いニュースもあります。この信頼関係を維持するうえで、透明性がとても重要になるのです。

次回は最終回。日本のビジネスパーソンへのメッセージを聞きます。(4月8日配信予定です)