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中国の独り暮らし高齢者がすがる「たそがれの恋」の打算

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
People chat in Changpuhe Park in Beijing, Oct. 29, 2019. Increasingly widowed and divorced, a new generation of graying singles are navigating modern romance in a rapidly changing country. (Yan Cong/The New York Times)
北京の菖蒲河公園でおしゃべりする高齢者たち=2019年10月29日、Yan Cong/©2019 The New York Times

チャオ・リンは独り暮らしに慣れてはきた。とはいえ、昼も夜も孤独感が募るようになり、理想の女性を見つける時だと決心する。

かくして、78歳のチャオは、公園へとたどり着いたのだった。

「1年以上、探してきた」とチャオ。中国各地の公園に姿を見せる何十人もの独り暮らしの高齢者の一人で、常連だ。目下のところ、理想の女性を射止められる可能性は低いと彼は認めた。

「たいがい、一言ことばを交わすけど、それでおしまいだ」。1971年以来、ずっと独り身のチャオは言う。年齢がどうであれ、欲求不満の単身者にありがちな嘆き節である。「2度目の会話がない。気分をへこませ、見込みがない。だから、何の意味があるのか?」

Zhao Lin, 78, a fixture at one of the dozens of singles scenes popping up in public parks, in Beijing, Oct. 29, 2019. "I have been looking for more than a year," he said. Increasingly widowed and divorced, a new generation of graying singles are navigating modern romance in a rapidly changing country. (Yan Cong/The New York Times)
公園にやって来る常連の一人、チャオ・リン。78歳だ=Yan Cong/©2019 The New York Times

30年間にわたる経済成長と社会の変革が、中国の高齢者たちの恋愛やセックスに対する態度を変化させた。独り暮らしで自己主張も強くなってきた中国の孤独な高齢者たちが登場している。

中国のメディアはこうした現象を「トワイライトラブ(黄昏<たそがれ>の恋)」と呼んでいる。高齢者たちは「Peach Blossoms Bloom」「Exciting Old Friends」「Holding Hands」といったテレビのデート番組にレギュラー出演している。オンラインでは、独り暮らしの高齢者のためのチャットルームも出現している。

しかしながら、中国の場合、こうしたやり方には地元の公園ほどのアピール力がない。

北京では、高齢者は菖蒲河公園や天壇公園へ行く。中国南西部の重慶には、洪崖洞公園に「縁結びのコーナー」がある。北部の西安市では、毎週水曜日と土曜日、革命公園に高齢の住民が集まってくる。

米ニューヨーク大学のグローバルヘルスおよび高齢化研究のディレクターで中国の高齢者問題を30年間研究しているペイ・ウーは、「私の米国人の同僚たちは、中国を訪れると、公園で社交をしている人びとの多さに驚く」と言っている。

「それはグループの集まりには役に立つやり方だ」とウーは指摘する。「公園では、ブラインドデート(訳注=友人の紹介などを通じて初対面の相手とデートをすること)が成功するチャンスが増える」と言うのだ。

A gathering in Changpuhe Park in Beijing, Oct. 29, 2019. Increasingly widowed and divorced, a new generation of graying singles are navigating modern romance in a rapidly changing country. (Yan Cong/The New York Times)
菖蒲河公園に集まる人びと。配偶者を亡くしたり離婚したりする人が増えた=Yan Cong/©2019 The New York Times

高齢化というのは、より多くの人が配偶者より長生きすることを意味する。中国政府の研究機関である中国社会科学院の調査によると、配偶者を亡くした男女は合計で4800万人近くいる。同科学院は、2050年までには1億1840万人に増えるとみている。

中国共産党機関誌の人民日報は同科学院の調査を引用して、配偶者のいない男女の5人に4人が再婚を望んでいるとしている。

離婚する人たちもいる。夕刊紙の北京晩報によると、北京では離婚者の3分の1は60歳から70歳の人たちが申請したものだ。

独り暮らしの高齢人口の増加には、公衆衛生上の問題がある。中国疾病予防対策センターによると、中国の高齢者の間でHIV(エイズウイルス)の感染率が高まっている。彼らの多くは安全なセックスをしていないからだ。60歳以上の中国人男性の場合、感染率は2012年以降、3倍近くに上昇したと同センターは指摘する。

中国政府は2019年10月、エイズ予防教育を強化するため、別途、高齢者向けの政策を発表した。

知識がないのも同然だ。現在の中国の高齢者が若かったころは、セックスを話題にすることはタブーだった。人びとは友人や仲介者を通じて将来の配偶者に出会った。デートは、ほとんど未聞のことだった。

中国の公園では、ぎこちない光景がみられる。2019年12月下旬のこと。(北京の)紫禁城に隣接した緑地帯の菖蒲河公園に高齢の男性たちが集まり、誰にも相手にされていないかのようにウロウロしている男女を見定めていた。何人かは、行ったり来たりしながら、女性と視線が合うのを待っていた。

ある高齢男性が、紫色のジャケットを着た女性の隣に数分間座った。しばらくして、彼は身体を傾けて尋ねる。「何歳?」

「72歳」と彼女は優しい声で答えた。数分後、2人は会話を始めた。

相手を見つけるためには、中国ならではの独特の基準が必要となることに多くの人は不満を抱いている。年金と健康保険だ。たとえば、ガンになったら破産してしまうような国では、年金と保険がしっかりしていることが魅力を高める要素になっている。

離婚した女性よりも、連れ合いを亡くした女性の方が好まれると指摘する人たちもいる。心の重荷が少ないからだと解説する。

公園のあちこちに置かれたいくつかの広告の一つに、「魂の伴侶を求める」と書かれたしわが寄り、茶色くなった紙が木の下の石に貼られていた。「男性。1949年生まれ。離婚。離婚による責任は負っていない」

リーが書いたもので、彼が希望する妻はこうだ。身長ざっと5フィート(約152センチ)、体重130から150ポンド(約59キロから68キロ)、年齢50から60歳、そして肌に傷がないこと。「黒いホクロ無し」としている。

その見返りとして、リーは「最期まで私と一緒にいてくれる」女性には1100平方フィート(約102平方メートル)ある彼のアパートを遺贈すると約束している。

別の男性求婚者が置いた広告には、旅行を楽しむ人生と中国南東部の浜辺や米国、日本の不動産を買うことを誓約する、とある。

離婚している82歳のコワン・ヨンニエンは、自身を掘り出しものとみている。健康で、成功者で、書道の専門家で、作家で、中国で人気の穏やかな武道の一つである太極拳の師範だ。

Guan Yongnian in Changpuhe Park in Beijing, Oct. 29, 2019. Yongnian's list of requirements for his future wife: ideally in her 40s — hygienic, smart, capable and “not unreasonable." Other pluses: if she could “bring spiritual relief and happiness." (Yan Cong/The New York Times)
コワン・ヨンニエンが求める将来の妻の条件は40代が理想で、清潔でかしこく、有能で「理不尽ではない」ことだ=Yan Cong/©2019 The New York Times

コワンが言うには、ここ30年間、友人たちが彼に何人か女性を紹介しようとした。彼は20代で結婚し、現在50代の娘2人と60歳近い息子が1人いる。

コワンが求める将来の妻は、理想的には40代――そう、彼の半分の年齢だ――、清潔で、賢く、有能で、「無分別でないこと」を希望。加えて、「精神の救済と幸せ」をもたらしてほしい、と。

だが、コワンの期待度は低かった。「昨今、多くは清潔ではないし、身なりも貧弱で、洗練さや育ちの良さが欠けている」と不平をもらした。

彼は1時間近く集団を見定めていたが、前に踏み出す用意はなかった。

「私には問題がある。電話がかかってきても、こちらからは電話をしない」。茶色のトレンチコート姿のコワンは言う。「私はかなり無分別だ。相手の方が追いかける必要がある」

ピンクの口紅をさし、黄色のコートを羽織った女性が、インタビューされるコワンに好奇の目を向けながら、彼の前でブラブラしていた。

「今、おいくつ? 50代、60代?」とコワンが尋ねる。

「60代」。彼女は忍び笑いをしながら答えた。

「ほら」とコワン。「私の推測は正しかった」

その女性はハン・シューピン。実際は52歳だった。離婚しており、菖蒲河へは2年間通っている。

「ここに来る人のほとんどが、かなり悪質な人たちだ」とハンは言う。「高齢の男性たちは食事に行こうと言い寄り、家に誘い、ベッドに連れ込もうとする」

もともと中国中部の河南省出身のハンは自分に関心を示す男性には正直に、自分が田舎の出で、年金がないことを告げると言っている。

彼女は、「話ができて、好意を抱けそうな人を探す」ことを望んでいると語った。

「この段階では、一目ぼれなんてできない」と彼女は言う。

見通しについては、彼女は悲観的だった。

「ここで誰かを見つけ出すのはとても難しい」とハン。「本物はごくまれだ」

妻を亡くした78歳のチャオは、同意する。彼は、一部の女性たちの率直さを嘆く。

「彼女たちは、家と車とカネが欲しいのだ」とチャオは言う。長身でページボーイの帽子をかぶり、しゃれた装いだ。「実際、彼女たちは財産の名義変更をズバリ求めてくる。まず口をつくのがそれだ。恐ろしくないかい?」

それでも、彼は寂しさを払いのけてくれる連れ合いを切望している。「(孤独は)みじめだ」と彼は言う。(抄訳)

(Sui―Lee Wee)©2019 The New York Times

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