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ハイチで数百人の子どもを残したPKO隊員 現地の「妻」がかぶる汚名と貧困

ニューヨークタイムズ 世界の話題
ハイチ北東部のフォールリベルテにある国連PKOスペイン基地で、スペイン軍に代わって派遣されたウルグアイ軍兵士たちにあいさつするMinustahのブラジル人司令官=2006年3月26日、AP

中米ハイチで国連平和維持活動(PKO)を担っていた兵士らが「父親」になり、数百人の子どもを残したまま帰国した。最近発表された学術調査研究で、PKO要員による性的な搾取や虐待の事実が判明した。残された「現地の妻」たちは、汚名と貧困とシングルマザーの苦悩にあえいでいる。

国連は、ハイチやその他の地域でPKO要員による幾多の性的な搾取や虐待があったことは認めていたが、今回の調査研究は、さらに可能な限り実態に踏み込み、西半球の最貧国ハイチにおける問題をかつてないほど詳述した。

国連は、2004年から17年までハイチに展開した「Minustah」(「国連ハイチ安定化ミッション」。ハイチ語(クレオール語)と並ぶ公用語であるフランス語の頭文字で命名された)というPKOを展開した。調査にあたった2人の学術研究者によると、「11歳の少女に性的な虐待をし、妊娠させた」PKO要員もいる、としている。被害女性の中には「惨めにも置き去りにされ」、生まれた子を一人で育てなければならなくなった女性も少なくなかった、という。

あるハイチ人女性は「彼ら(PKO要員)はコインを二つ三つ手のひらに置いて、子どもを捨てて行った」と研究者に話した。

今回の学術調査研究は19年12月17日、大学間の共同連絡協議会の支援で開設している非営利メディアネットワーク「The Conversation」に掲載された。研究は17年の夏、PKOの部隊基地近くに住むハイチ人2500人に行ったインタビューを元に、Minustahを担った兵士や文民の一部による性的な搾取や虐待の「痕跡」をたどった。

PKO要員を父親に持つ子どもたちは、「petits minustahs」(訳注=フランス語で「ちいさな国連ハイチ安定化ミッション」)という呼び方で知られている。

今回の調査研究についてコメントを求められた国連は、平和維持活動局が出した声明の中で、調査研究で浮かび上がった問題を深刻に受け止め、PKO要員による性的な搾取と虐待への対応に取り組むことが事務総長アントニオ・グテーレスの最重要課題だ、と述べた。

「残念ながら、MinustahのPKO要員が関与した事件は過去数年間にわたって起きた。ただ、件数は2013年以降、おおむね減少してきた」と声明は述べた。

ハイチに派遣された100人超のPKO要員が、04年から07年までの間、9人の子どもに対しセックス・リング(訳注=複数の子どもに性的虐待をすること)を犯した。そのPKO要員の男たちは本国に送り返されたものの、処罰されなかった。国連はその事実を認めている。

今回の調査研究は、英バーミンガム大学の歴史学教授Sabine Leeとカナダ・オンタリオ州にあるクイーンズ大学の臨床科学者Susan Bartelsの手で行われた。この研究は、モザンビークやボスニア・ヘルツェゴビナ、コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国を含め、国際的にPKOを展開している国連平和維持軍(PKF)兵士による性的不正行為に関する最新の調査記録でもある。

LeeとBartelsが現地でインタビューした人びとのうち、265人がPKFのメンバーを父親にした子どもについて語った。研究記録に示された図表によると、関係したとされるPKF要員は少なくとも13カ国から派遣されていたが、主な出身国はウルグアイとブラジルだった。

ウルグアイの首都モンテビデオで、「ハイチから出て行け!」と記した横断幕を手に非難する市民。首都では、ハイチに派遣されたウルグアイ兵がハイチ人の10代の少女を性的に虐待した事案の対策などを協議するMinustahの中南米代表者会議が予定されていた=2011年9月8日、AP

「インタビューしたハイチ人の10%が、そうして生まれた子どもについて語った。この数字は、それがいかに日常的に起きていたのか、真相を浮き彫りにしている」とLeeとBartelsは記した。また、長年にわたって報道機関はハイチで起きたさまざまなエピソードを報道し、「未成年者たちは食べ物とわずかな現金を受け取って、国連要員とセックスをした」と伝えていたことも付記した。

LeeとBartelsは、妊娠した女性や残された子どもたちの正確な数字は推定しなかった。しかし、法律の専門家や援助ワーカーたちは①こうした問題が蔓延(まんえん)していた②国連は女性たちを支援しなかった、と話している。

何人かの女性は、PKO要員による性暴力について2人に話したが、ほとんどは「微妙な形での強制」といった話で、要員たちは往々にしてとても貧しい女性や少女とのセックスの代償として、わずかな金や食べ物を与えていたという。こうしたケースのほかに、女性やその親族が合意したうえで関係を持ったのに、要員がハイチを去ると同時に関係が切れてしまったケースも見受けられた。

調査研究を記した2人の筆者によると、10カ所のPKO基地周辺のコミュニティーに暮らす住民に対して、「PKOミッションを支えるコミュニティーで暮らしている女性、あるいは少女であるということはいったいどのようなことなのか」という質問をした。ハイチ人にPKO要員による潜在的な虐待や性的な関係について問うようなことは特にしなかった。しかし、調査に応じた人たちは自ら問題を提起した。

「私は彼に話しかけた。すると彼は、私を愛していると言った。それで私は彼とデートすることにした」。数年前にPKO要員と関係したことについて、調査研究に応じた女性の話だ。「3カ月後、私は妊娠した。そして9月に彼は本国に送り返された」。女性はそう語り、息子を学校に通わせる金も払えなかった、と付け加えた。

こうした証言は、1990年から98年までリベリアで見られたのと同じパターンだ。当時リベリアに展開していたPKO「国連リベリア監視団」によって数千人の子どもが生まれた、と報じられた。

ハイチでは、2004年に反政府勢力の武装蜂起で大統領ジャンベルトラン・アリスティドが追放された後、国内の安定化を図る目的でPKOが展開された。その後、ハイチは10年に起きた大地震で壊滅的な被害を受けた。このため、国連はその後もPKOを延長した。

しかし、人権団体や研究者によると、PKOミッションそのものが破壊的だった。PKO要員は意図的ではないにしろ何十人もの市民を殺したと非難された。さらに大地震後にコレラまでハイチに持ち込み、1万人以上が死亡、80万人以上が罹患(りかん)した。国連は疫病がもたらした事態を謝罪したが、コレラの犠牲者やその家族への補償を法的に講じようとはしなかった。

今回調査研究にあたった2人の筆者は、同国に残された子やその母たちが経済的、社会的にどれほど苦境に陥っているか、PKO要員に徹底して教えるべきだ、と国連に要請している。同時に、国連は性的な搾取や虐待に関係した要員を地元の関係当局に引き渡さないまま単に本国送還するのを止めるべきだ、と促している。

主要筆者のLeeは、国連PKOに軍・兵士を派遣している国々も、現地に残された母と子の支援協力に直接の責任を持つべきだ、と指摘している。

「これは国連だけの問題ではない。ブラジル軍の問題であり、ウルグアイ軍の問題でもある」(Lee)「国連は、しかし兵士を派遣しているメンバー国に説明責任を負わせる方法をいまだに探し出していない」と話している。(抄訳)

(Elian Peltier)©2019 The New York Times

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