古藤さんはエサと水、休憩場所である巣を用意した箱で、オオアリの働きアリを①1匹だけの「孤立アリ」、②幼虫と一緒の「同居アリ」、③10匹の「グループアリ」の3パターンに分けて飼育し、アリの行動をつぶさに調べた。
その結果、生存日数の中央値はグループで66日だったのに対し、同居アリは半分以下の22日。孤立アリにいたっては、わずか6・5日しか生きなかった。
分析したところ、孤立アリはグループアリの約2倍も移動していたのに、エサの消費量が半分程度だったことが分かった。正確には、体内にある素囊(そのう)と呼ばれる貯蔵器官から消化器官に移したえさの量が明らかに少なかったという。
古藤さんは原因をこう見る。「孤立アリはエサを食べていたのに消化できていなかった。活動量が大きかったので、エネルギーが足りなくなり、早く死に至ったのでしょう」
仲間を探して動き回っていた、と推測される孤立アリ。アリと人間は体の構造がまったく違うとはいえ、同じように、ストレスを感じる「独りぼっち」の環境で胃腸の調子が悪くなってしまったのか。そう考えると、なんだか妙に身につまされる。
この研究論文を2015年に発表した後も、古藤さんは「孤立死」のメカニズムを解明するため、原因となった遺伝子を特定する研究を続けている。「死に急ぐ」原因の一方で、寿命を延ばす環境の解明も古藤さんの関心事だ。高齢のアリを幼虫や若者のアリと同居させたり、高齢アリだらけのグループを作ったりして、寿命がどう変わるかを調べている。
「孤立死」の研究では、幼虫の世話をする同居アリも、孤立アリよりは長生きすることが分かった。「何かやらないといけないことがある、誰かに必要とされているという環境が寿命を延ばす要因かもしれません」と、古藤さん。
アリの世界にも、「生きがい」があるのかな? それもまた、他人事とは思えなかった。