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空港で開かれるレアなアニメ映画祭 世界から新鋭監督を引きつける仕掛けは

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映画館の近くには特設会場が設けられた。今年大ヒットした劇場版長編アニメ「プロメア」のキャラクター「ガロ・ティモス」の等身大立像が注目を集めていた

成田空港から約1時間40分、北の大地・北海道の空の玄関、新千歳空港に飛行機が降り立った。国内線ターミナルビル1階の到着ロビーからエスカレーターで4階に上がると、三つのシアターを持つ映画館「新千歳空港シアター」が待ち受ける。11月3日(文化の日)にあわせ、4日間の日程で毎年開催されている「新千歳空港国際アニメーション映画祭」のメーン会場だ。一つ下の階の特設会場には、5月に劇場公開され、興行収入12億円を突破した大ヒットアニメ『プロメア』のキャラクターの等身大立像が2体、並んでいた。映画祭のファンだけでなく、空港の一般利用者たちもスマホで記念撮影していた。

映画祭特設会場では、今年大ヒットした劇場版長編アニメ「プロメア」のキャラクター「リオ・フォーティア」の等身大立像が注目を集めていた

2014年に始まったこの映画祭では、国内外の新鋭監督による新作のコンペが行われている。第6回となる今年は、短編(30分未満)に世界84カ国・地域から2191作品の応募があり、事前の一次審査で選ばれた約50作品が上映された。長編(30分以上)への応募は32カ国・地域から50作品に上り、一次審査を通った5作品が披露された。

新千歳空港にある映画館では連日、国際アニメーション映画祭の出展作品を鑑賞しようと多くの人たちが列をなした

■アニオタの記者も衝撃

これは果たしてアニメなのか? そんな衝撃を受ける作品も少なくない。

長編部門にノミネートされたチリのクリストバル・レオン監督(39)の作品『The Wolf House』には、アニメオタクを自称する私も驚かされた。スクリーンに映し出されたのは、実物の部屋の映像。部屋に置かれた机やソファなども実写だ。突然、部屋の白い壁に絵の具で描かれた女性が浮かび上がり、輪郭が少しずつ動き出す。表情が変わったり、体が動いたりしたと思ったら、次の瞬間、女性が壁から消え、こんどは壁の前に立体的な白い張り子人形のようなものが現れた。そこに絵の具で色が塗られていき、さきほどの女性になる。壁に描いた女性の絵や、立体的な人形を1コマごとに少しずつ形を修正しながら撮影し、あたかも連続して動いているように見せるストップモーションという技術だ。

チリのクリストバル・レオン監督の長編作品『The Wolf House』。実写とペインティングとアニメーションを全てかけあわせたような独特の手法で制作された(新千歳空港国際アニメーション映画祭事務局提供)

「クリエイティブなことに挑戦したかった。実写や絵の具も組み入れながら、壁をアニメ化することにした。物事には色んな見方があっていい。日本人の知っているアニメではないかもしれないが、新しい感覚を楽しんでほしい」と、レオン監督は語る。

チリのクリストバル・レオン監督。長編で作品をノミネートしつつ、短編のコンペでは審査員を務めた

一つの線が細かい分裂を繰り返しながら手や果物などに変形していく作品や、漫画のコマのような複数の枠内を登場人物が行ったり来たりする作品、複数のキャラクターがそれぞれ極端に異なる速度で動き回る作品――。この映画祭には、ふだんテレビや劇場で見慣れているアニメからは想像すらできない独創的な作品が多い。

VR作品や、画像を連続で動かすGIFアニメ、さらにミュージックアニメーションに至るまで、「アニメーションをできるだけ広く捉えていることが、この映画祭の特徴です」と、映画祭フェスティバルディレクターでアニメ評論家の土居伸彰さん(38)は強調する。

「どの作品が優れていて、どの人がいま新しいことをやっているのか、誰が注目されるべきなのかを選ぶ作業をするのが映画祭。様々な分野の中から面白いものを選んでいるつもりなので、海外の作品をあまり知らない日本人や、逆に日本の作品の何を見ればいいのか分からない海外の人がいれば、一つの指針を提供できればいい」と、土居さんは言う。

多種多様なジャンルの作品がコンペで一緒に審査されるのも、この映画祭の特色だ。異なるスタイルや技術を見られるうえ、空港ターミナルという一つの空間で完結しているからこそ、監督同士の交流が深まり、人脈拡大や情報交換、相談の場として、より機能してくる。

長編作品『Away』がコンペにノミネートされたラトビアのギンツ・ジルバロディス監督(25)は言う。「空港内で行われる映画祭なんて、世界でも聞いたことがない。ホテルも空港の中にある。大規模な映画祭だと宿泊先もまちまちで、他の監督と全く会わないことも珍しくない。アニメ業界の関係者にくわえ、自分のように大きな制作会社に属さないインディペンデント監督も各国から招かれ、様々な話ができてとても有意義だ」

そう話したうえで、「一番好きな映画祭、何度でも来たい」と監督は笑った。

映画祭で自身の長編作品のメイキングを説明するラトビアのギンツ・ジルバロディス監督。制作した約1時間15分の長編作品にはセリフがなく、効果音やBGM、キャラクターの動きだけでストーリーを展開した

■夢や野心を語り合う井戸端会議

映画祭事務局も、作り手たちの交流を深めることに力を注ぐ。空港内のホテルに、監督たちが集まり自由に話ができる特別な部屋を設けたり、日本アニメ界の第一線で活躍している監督を呼んだりして、交流を活発化する工夫をしている。互いの作品の評価や、低予算でも有効な制作方法、新しい撮影技法の試行錯誤など、それぞれの挑戦や課題、夢や野心を友達同士のように語り合う井戸端会議となっているようだ。

こうしたユニークなコンセプトが、いつしか口コミで世界各地の新鋭アニメーション作家たちに伝わり、コンペへの応募作品数は、新鋭監督の制作活動の中心となっている短編部門で第1回(715作)と比べ3倍(2191作)に。監督の国籍も、初回の46カ国・地域から84カ国・地域に増えた。

会場には、映画祭に参加したアニメーション監督らの色紙が飾られていた

長編部門の審査員を務め、自らも短編部門で作品がノミネートされた韓国のアニメーション作家、チョン・ダヒ監督(37)は、「なんといっても作品の選択がいい。新しい取り組みに挑戦する実験的なアニメ作品が多く、とても刺激になる。映画祭に作品を見に来る日本の人たちにとっても、アニメはテレビや劇場でみるような商業的なものだけではなく、芸術性、創造性を追求するものも含め、とても幅が広いということが分かってもらえると思う」と期待する。

短編作品を出展しながら、長編部門の審査員も務めた韓国のチョン・ダヒ監督。動作速度の異なるキャラクターに繰り返し同じ動作をさせるなどして物語を展開し、独特な時間と空間の世界を創造するアニメーション作家としても知られる

こうしたゲスト監督たちが一般参加者の質問を受け付ける双方向のトークイベントも好評で、今年は4日間で約4万3000人が映画祭を楽しみ、その半分は東京など遠方から来た人たちだったという。

韓国のチョン・ダヒ監督の短編作品『Movement』。約10分の作品で、複数のキャラクターが繰り広げる様々な動作がコミカルに描かれていた(新千歳空港国際アニメーション映画祭事務局提供)

■記者イチオシの作品は……

映画祭では長編コンペ5作のうち4作を観た。

個人的にはジルバロディス監督の『Away』が一番面白かった。故障した飛行機からパラシュートで脱出した少年が、見知らぬ島に降り立ち、巨人の形をした黒い影に追いかけられるというストーリー。全て監督一人で制作した3DCGで、少年はセリフを一度も語らない。海や川、山や湖などの大自然を背景に、風や水の流れ、鳥の羽ばたきといった効果音と、少年の心の内を反映するようなBGM、さらには登場する少年や動物たちの動きだけですべてを表現した逸作だ。一般客の反応もよく、グランプリは確実だと思っていた。

長編部門で審査員特別賞を受賞した『AWAY』。ラトビアのギンツ・ジルバロディス監督が全てを1人で完成させたCG作品として注目された(新千歳空港国際アニメーション映画祭事務局提供)

審査員たちの評価は少し異なった。

グランプリに選ばれたのはフランスのジェレミー・クラパン監督が制作した『失くした体』。パリで働くモロッコ移民の青年が仕事中に事故で片手を切断してしまう。その手は、その後に送られた医療研究施設から逃げだし、パリの街中をさまよって青年の体を探し回るという、少々ホラーな作品で表現も若干激しく思えた。

フランスのジェレミー・クラパン監督の作品『失くした体』。長編部門でグランプリを受賞した。11月末からNetflixでの配信が決まっているという(新千歳空港国際アニメーション映画祭事務局提供)

審査員の一人はグランプリに選んだ理由について、「アニメーションという形をとったフィクションならではの想像力の賜物で、それが未だかつてない高い技術レベルで表現された」。フェスティバルディレクター土居さんも、この作品を観た瞬間にグランプリを確信したという。実際にアニメ業界での評価も高く、Netlixが全世界での配給権を獲得。11月末より配信されるという。移民の少年を主人公に据えるところなど、社会的、政治的メッセージは確かに強い。一方で、未来についての希望を描いた作品でもあり、そうしたメッセージ性が評価されたのだと思う。なんともアニメは奥が深い。ちなみに記者一押しの『Away』は、審査員特別賞に選ばれた。