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障害者ブレイクダンスで渋谷が揺れた 「イルアビリティーズ」が見せる世界

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■不可能はない、限界もない

東京・渋谷駅近くの渋谷ストリーム前。2日連続の猛暑日となった9月10日午後、熱気のなかイルアビリティーズのパフォーマンスが始まると、観客の視線が釘付けになった。曲のテンポに合わせて滑らかに、時に激しく動き回る。松葉杖だけで体を持ち上げて回転するなど、ダイナミックな動きを見せると、ひときわ大きな歓声が上がった。

イルアビリティーズはアメリカやブラジル、オランダ、韓国など6カ国の8人で構成されるブレイクダンスチーム。生まれつき片腕や片足が短い、病気で片足を切断した、耳が聞こえにくい……。それぞれに障害を抱えながら、個性あふれるダンススタイルで見る人を魅了する。

チーム名に使う「ILL」は本来「病気がある」の意味だが、ネガティブな言葉をポジティブに転用するヒップホップの文化では、「信じられない」「素晴らしい」「繊細」「センスがある」といった意味で使われるという。障害のネガティブな側面を強調するのではなく、ポジティブなメッセージを前面に出して活動するのが、このチームの特徴だ。

チームが掲げるスローガンは「No Excuses,No Limits(言い訳なし、限界なし)」。「人生に不可能はないと信じている。だめだろうと思って挑戦をあきらめたりせず、時間をかけ、自分なりのやり方を見つけて自分のものにしていけば、不可能はない」。2007年にイルアビリティーズを設立した「Lazylegz」ことルカ・パトエリ(カナダ)は、このスローガンに込めた思いをこう説明する。両足が不自由なルカは、松葉杖と腕の力を使った独特のダンススタイルで世界的評価を受けるダンサーだ。

Lazylegz

■いじめ受けた怒り、エネルギーに転換

全身を使った回転など、躍動的で滑らかなダンスを披露した「Redo」(オランダ)は生まれつき右腕にひじの関節がなく、左腕よりも短い。ブレイクダンスの魅力について尋ねられると「ルールがなく、すごくクリエーティブ。体を探求する旅のようだ」と語り、こう続けた。「男だろうが女だろうが関係ないし、国籍もバックグラウンドも問わない。たくさんの人が一つになれるものであり、差別がない。そういうところが魅力だ」

Redo

生まれつき右耳が聞こえず、左耳も難聴を患った「Kujo」(アメリカ)は、子どものころ、耳が聞こえにくいことや吃音を理由にいじめにあったといい、「怒りのエネルギーをポジティブな力に変える方法としてヒップホップに出合った」と振り返った。音楽が聞こえない分、想像力を働かせ、「子ども時代に感じていた怒りなど、マイナスのエネルギーをダンスに変換させた」という。

Kujo

ブレイクダンスは本来「ブレイキン」と呼ばれ、1970年代にアメリカ・ニューヨークの貧困地帯で生まれたとされる。命がけの縄張り争いを続けていたストリートギャングらが、殺し合いをやめ、音楽で勝負するとして、向き合って踊るようになったのがきっかけだという。若者文化として始まり、競技としても世界に広がりつつある。

20年以上のダンス歴を持つ「Kujo」はブレイクダンスを取り巻く環境の変化について、「僕が小さいころは、地元を抜け出したい、貧乏から抜け出したいというぐらいの夢しか持たなかったが、今の子どもはもっと大きな夢を持てる」と語り、力を込めた。「障害がある子も健常者と同じように大きな夢を持つ権利があると思う。ブレイキンで国を代表できるという夢を持てるのは、本当に素晴らしいことだ」

イルアビリティーズのメンバー3人(右からRedo、Kujo、Lazylegz)がブレイクダンスの魅力をトークショーで語った

イルアビリティーズのパフォーマンスがあったのは、障害や性、世代、言語、国籍などの違いを超え、多様性がある社会の実現を目指す「True Colors Festival 超ダイバーシティ芸術祭」(主催・日本財団)の第1弾イベント「True Colors DANCE」。あらかじめ曲や振り付けが決まっている「ショーケース」と呼ばれるタイプのダンスを披露したほか、2018年のブエノスアイレスユース五輪で金メダルを獲得した「Ram」(河合来夢<らむ>)や、銅メダルの「Shigekix」(半井<なからい>重幸)、世界最高峰の大会で日本人で初めて準優勝した経歴を持つ「TAISUKE」(野中泰輔)の、日本のトップブレイクダンサー3人との即興の「ダンスバトル」にも参加した。

ダンスバトルには、イルアビリティーズからも「Redo」ら3人が臨み、互いに技を披露。病気のため右足を失った「Samuka」(ブラジル)が片足で宙返りをしてみせたり、生まれつき左足が短い「Perninha」(ブラジル)がこまやかな足技(フットワーク)を繰り出したり。日本の3人も、全身を使って回ったり跳ねたりする「パワームーブ」や、ピタッと止まる「フリーズ」などで観客を沸かせ、対抗した。障害の有無を感じさせないレベルの高い技の応酬に、ステージ上の盛り上がりは最高潮に達し、バトルは当初の予定になかった3巡目にも突入した。

そのほか、イベントでは、児童・障害者福祉の仕事に就くメンバーを中心に結成されたダンスチーム「SOCIAL WORKEEERZ」や、ダウン症の人たちのダンスグループ「LOVE JUNX」のブレイクダンスチームのパフォーマンスもあった。

「True Colors Festival」は2020年夏の東京五輪・パラリンピックを見据え、1年間を通じてダンスや音楽ライブ、演劇などのイベントを予定している。

■驚異のパフォーマンス、朝日地球会議でも

「True Colors Festival」に登場した、日本のブレイクダンサーらの一部は「朝日地球会議2019」(10月14~16日、東京)でもパフォーマンスを披露する。

朝日地球会議は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」などの課題を考える国際シンポジウム。彼らのステージでは、障害や性別などの違いを超えてだれもが共存できる多様性社会をテーマに話し合い、ダンスでメッセージを伝える。

このステージを含むセッションは10月16日(水)午後3時50分~6時10分、東京・日比谷の帝国ホテル。参加無料。申し込みは朝日地球会議の公式サイトから。9月29日締め切り。