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焼けた教会、アメリカにも 「まず地元に支援を」再建へ草の根の寄付運動

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教会再建のための寄付を呼びかけるクラウドファンディングのサイト
教会再建のための寄付を呼びかけるクラウドファンディングのサイト

教会は3月下旬から4月上旬にかけ、ヘイトクライム(憎悪犯罪)を動機とする放火事件で相次ぎ炎上した。「私たちのノートルダム」などと支援を訴える一般市民らによる草の根の寄付運動が広まっている。

「それぞれの教会こそが、それぞれのノートルダムだ」(デボラ・デイビスさん)。放火された黒人教会のために設置された寄付を呼びかけるホームページには、寄付した人たちからコメントが書き込まれていく。数時間前のコメントにたどりつくのが大変なくらい大量のコメントが寄せられている。
実際に寄付がされるたびに、寄付者の名前とその額がホームページ上で更新され、表示される。5ドル、10ドル、20ドル、25ドル、100ドル。一般市民が多いためにほとんどが少額だが、それでも分刻みで続々と寄付されていくのが、ホームページを見ているとよく分かる。

放火された三つの黒人教会は約100年もの間、地域の黒人住民らが代々、祈りの場としてきた歴史ある宗教建造物だった。米国ルイジアナ州の中央部にあるセントランドリー郡内の異なる場所に位置している。

3月26日、最初の黒人教会が火災で壊されると、4月2日と4日には残りの二つの教会も炎に包まれた。1週間後の11日、放火容疑で21歳の白人の男が逮捕される。州司法当局の発表によると、容疑者は地元の保安官代理の息子で、3件全てがガソリンをつかった単独の犯行だとみられている。その後の取り調べで動機も判明し、15日にはヘイトクライム容疑で再逮捕となった。

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4月2日に火災にあった米ルイジアナ州の教会(ソーシャルメディアから、州消防当局提供)=ロイター

わずか10日間に同じ郡内で起きた黒人教会の連続放火事件はヘイトクライムだった。容疑者が保安官代理の息子だったこともあって、米国内では大きなニュースとして関心を集めた。

「教会や周辺コミュニティーの癒やしにつながる機会となるように寄付をお願いします」

4月10日には同州の教会団体が主導し、黒人教会の再建のためのクラウドファンディングによる基金がつくられていた。記事冒頭で紹介したのが、この基金のホームページの様子だ。

目標額は180万ドル(約2億159万円)。日本時間18日昼の時点で3万2000人超の人たちから約173万ドルが集まった。目標達成は確実とみられるが、寄付が急激に増えたのは、実はここ数日のことだ。15日に起きたノートルダム大聖堂の大規模火災が世界中に報じられ、仏国内外から巨額の寄付が約束されるようになってからだった。

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火災にあったパリ・ノートルダム大聖堂近くに置かれた花=ロイター
「ノートルダム大聖堂の火災が注目を集めたからこそ、あなたたちが支援を必要としていることを私に気づかせてくれた。あなたたちには億万長者の寄付者はいないのだから」(パトリシア・モリーさん)
「ノートルダム大聖堂に私の支援は必要ないが、これらの教会には必要だ」(サンドラ・スウィーニーさん)
「ノートルダムに世界的な支援が集中しているが、悲劇的な火災にあった米国の教会にも支援が重要だと感じている」(ボブ・アンダーソンさん)
「私は、850年以上にわたって文明の象徴だったノートルダム大聖堂のために寄付をしたが、あなたたちのために存在する教会も同じく寄付に値すると確信している」(デイビッド・オルソンさん)
「地元で起きた教会火災について考えさせたきっかけは、ノートルダム火災だった。こちらの火災は意図的な放火なのだ」(アイナ・トロデンさん)
「まずは地元に支援の手をさしのべよう」(ディー・トンプキンスさん)

フランスのマクロン大統領が国民向け演説で「5年以内の再建」を約束し、各国からの支援を受け付ける基金の設立を表明したノートルダム大聖堂には、AFP通信によると、16日段階で総額計8億ユーロ(約1千億円)の寄付が表明されている。今後も膨らみ続けるのは間違いなく、世界規模の支援の輪が急速に築かれた形だ。

仏国内では、高級ブランドのグッチやイヴ・サンローランを傘下に置くケリング社が1億ユーロ(約126億円)を約束すると、高級ブランドのセリーヌなどを持つモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン社(LVMH)も2億ユーロ(約253億円)の支援を公表。仏国外からも、米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)がツイッターで支援を約束したほか、トランプ米大統領やロシアのプーチン大統領、ドイツのメルケル首相ら各国リーダーが支援を促すコメントを発出している。

額も規模も登場人物も派手でグローバルな「支援・寄付現象」について、黒人教会の寄付を呼びかけるホームページでは「ノートルダム・ヒステリア」(ジョナサン・ロバーツさん)と皮肉るコメントも寄せられている。だからこそ、自国で起きた教会火災について初めて目が向いた人がいるのも、書き込みの内容を読むとよく分かる。

ノートルダム火災は、黒人教会の再建へ米国人の関心を向ける大きなきっかけとなったが、寄付活動の勢いを強めた要因はそれだけではない。多くの寄付者が、ヘイトクライムへの怒り、人種差別廃絶の訴え、分断社会に対する憂いなどを理由に寄付をしている。 

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4月4日に火災にあった米ルイジアナ州の教会(ソーシャルメディアから、州消防当局提供)=ロイター
「愛はヘイトを乗り越える」(ティファニー・アーノルドさん)
「ヘイトに勝利させてはならない。だから寄付をした。今の時代のヘイトスピーチは度を越えていて、看過できない」(ジェームズ・デロウインさん)

政治の二極化や社会分断などを背景に、至上主義やヘイトクライムなどがたびたび問題視されることが増えた米国。放火された黒人教会への寄付運動の広がりは、良識をもって社会不安に打ち勝とうとする米国民の意識の表れなのかもしれない。そして、その良識を今回表面化させる大きなきっかけの一つとなったのが、ノートルダム大聖堂の大規模火災だった。そんな思いを黒人教会への寄付者の女性が書き込んでいる。 

「ノートルダムの火災を悲しく思うが、この火災があったからこそ、私たちの関心は黒人教会に向いた。神の行いは常にミステリアスだ」(アンさん)