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大気汚染は思考力鈍らせる可能性 中国の研究で

ニューヨークタイムズ 世界の話題
スモッグにかすむ北京の紫禁城=2018年2月13日、ロイター

中国での大規模な研究で、大気汚染と人びとの言語力や数学力への悪影響には関連があることが浮かび上がった。

汚染と呼吸器疾患との関連性はよく知られているが、今日では大半の専門家たちは微小粒子は脳卒中や心臓発作のリスクも高める可能性があると考えている。大気汚染が知覚を損なうかどうかは不明だが、いくつかの研究は関連性があることを示している。

中国と米国の研究者たちは最近、どのくらいの期間にわたって大気汚染にさらされると言語力や数学力に悪影響がでるかについて調査し分析した。この研究は中国各地の162地区で計2万5千人以上を対象にしたもので、結果は「米国科学アカデミー紀要」に掲載された。

研究者たちは、中国の特定の地区で得た気候および汚染のデータを組み合わせたモデルに基づいて結論を導いた。このモデルには、各地区の被験者が2010年と14年に受けた全国規模のテストのスコア(得点)も取り入れた。大気汚染にさらされた期間の長短によってスコアにどのような影響がでるのか、つまり被験者の脳はどう影響を受けるかを分析し、提示することに取り組んできた。

研究者たちは、大気汚染による知覚への累積効果は高齢男性の場合が特に顕著であることをつきとめた。認知機能の低下や障害はアルツハイマー型その他の認知症の危険要因となるから、その意味でも今回の研究結果は重視する必要がある。

この研究は「特に若者や高齢者の健康を保持するためにも、大気汚染問題に取り組む必要性をより強く認識させる」とヘザー・アデル・ロハニは言っている。ジュネーブにある世界保健機関(WHO)の公衆衛生環境技官(今回の研究には関係していない)で、ニューヨーク・タイムズの取材に電子メールで回答を寄せた。

大気汚染の問題は以前から、グローバルな公衆衛生上の脅威とみなされてきた。

WHOの2016年の報告によると、世界の人口の92%が「不健康な大気」とされる空気を吸っている。不健康な大気とは、PM2.5として知られる微小粒子物質が1立方メートル当たり10マイクログラム(訳注=マイクロは100万分の1のこと)以上含まれている大気のこと。

WHOは今年5月、屋外の大気汚染が原因で16年には世界中で計約420万人が早死にしており、そのうち100万人以上が中国での死者だったことを明らかにした。大気汚染にさらされる期間が短くても長くても、脳卒中や心臓病、肺がん、慢性ないし急性の呼吸器疾患にかかるリスクを高めるとしている。

米国の学術誌「エンバイロンメンタル・サイエンス・アンド・テクノロジー・レターズ(Environmental Science & Technology Letters=環境科学技術論集)」に掲載されたある研究は、大気汚染で平均余命がどれだけ短くなるかを算出している。リスクは場所などにもよるが、たとえばロシアの場合は約9カ月、エジプトは1.9年余命が短くなる。

フランスと英国の研究者チームは14年に科学誌「エピデミオロジー(Epidemiology=疫学)」に発表した研究論文で、大気汚染と高齢者の知覚との関連性については疫学的な研究がほとんどされてこなかったと指摘した。彼らの研究によると、グレーターロンドン(大ロンドン圏)における交通起源の汚染と調査研究への参加者(平均年齢は66歳)の認知機能の低下には関連があることがわかった。

中国は認知症を患っている人口がすでに世界一多いが、その数は13年時点の4440万人から30年には7560万人に膨れ上がるとみられている。これは米シカゴに拠点を置く非営利団体「アルツハイマーズ・ディジーズ・インターナショナル(Alzheimer’s Disease International=国際アルツハイマー病協会)」による13年の報告だ。

今回の最新研究の結果について「(大気汚染が)社会福祉に及ぼす間接的なマイナス効果は従来考えられていた以上に深刻であることを示している」と研究者たちは指摘する。「健康への悪影響を狭い範囲に限ってとらえると、大気汚染の総コストを過小評価してしまう可能性がある」とも言っている。

この研究は2010年および14年に中国の家族を対象にしたパネルスタディー(訳注=同じ被験者に対し、一定の期間をはさんで同じ質問を繰り返して行う社会調査)で得られたテストのスコアを活用した。全国規模で実施されたインタビュー形式のテストだが、この他に三つのタイプの汚染物質を調べた大気汚染データも使った。ここでいう三つの汚染物質とは、二酸化硫黄、二酸化窒素、PM10と称される直径2.5~10マイクロメートルの微小粒子を指す。

中国の汚染問題を研究している香港科学技術大学の経済学者ホー・クオチュンは、今回の研究が中国における大気汚染と知覚との明白な関連性をさらに探究するための調査研究の先駆けになることを望みたいと語った。ホーはこの研究に加わっていないが、「今回の研究論文はデータも研究方法および研究結果も、きわめてしっかりしている」と言っている。

今回の研究では、変数の極小化が図られている。たとえば、2010年から14年の間に居住地を移った人や、採鉱、精錬、木材加工など「汚染にさらされる職業」についている人は研究対象から除外した。

だが、ホーは大気汚染の長期的な影響を調査することの難しさも指摘した。たとえば、自宅に空気清浄器があるかどうかなど、それぞれ人はさまざまな事情を抱えているからだ。

他にも批判的な見方がある。シンガポール国立大学(NUS)の大気環境問題の専門家ラジャセカー・バラスブラマニアンは、今回の研究者たちは継続的に大気汚染にさらされることが脳に化学変化を起こすとしているが、その臨床的な証拠は提示していないと指摘する(当の研究者たちもこの点は認めており、今後さらに探究すべき課題だとしている)。

とはいえ、バラスブラマニアンは今回の研究には有用性があるとも言っている。疫学者たちは大気汚染が子どもの知覚に及ぼす影響を提示したが、今回の研究は中国における高齢者へのリスクに初めて焦点を当てた研究だからだ。他の国でも同様の研究を行う必要があると彼は言う。

中国ではスモッグと呼吸器疾患の関連性をめぐって、市民の間で怒りが高まっており、当局はここ数年、石炭火力発電所を何百カ所も閉鎖したり、車両の運行や住宅での燃料用石炭の使用を規制したり、工場査察に警察官を派遣したりしてきた。

しかし昨年、中国の二酸化炭素の排出量は増加した。国は、気候変動に対する主な目標の達成に向けた取り組みを進めてはいるが、多くの都市の大気汚染度は依然として非常に危険なレベルにある。(抄訳)

(Mike Ives)©2018 The New York Times

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