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握手断ったら面接終了 ムスリム女性が裁判で勝訴

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スウェーデン生まれのイスラム教徒ファラ・アルハジェ=本人提供、Farah Alhajeh via The New York Times/©2018 The New York Times
スウェーデン生まれのイスラム教徒ファラ・アルハジェ=本人提供、Farah Alhajeh via The New York Times/©2018 The New York Times

イスラム教徒の女性が、会社の就職面接で握手を求められた。宗教上の理由で拒否したら、お帰り下さいとなった。これは差別だと訴えたスウェーデンでの話。男女平等オンブズマンが起こした裁判で、労働裁判所はこの2018年8月15日、会社側に損害賠償を命じた。

この女性はファラ・アルハジェ(24)。彼女の話によると、2016年5月、ストックホルムの北方の都市ウプサラで、語学サービス会社のセマンティックス(Semantix)の通訳の就職面接を受けた。その際、面接の担当者が彼女を会社の男性上司に紹介する、と申し出た。アルハジェはあいさつとして手を胸に当て、笑顔で、自分はイスラム教徒なので(握手という)スキンシップは避けたいと説明した。
彼女はその場でエレベーターの方に案内された。

「顔面パンチを食らったようでした」「あんな仕打ちをされたのは初めてのことで、本当に厳しい仕打ちでした」。スウェーデン生まれ、ウプサラに暮らすアルハジェは、電話インタビューでその時の様子を語った。裁定が下った翌日の16日だった。

労働裁判所は15日、セマンティックスがアルハジェを差別したと裁定。会社側に4万クローナ(約48万円)の損害賠償を払うよう命じた。

今回の訴訟は、移民と統合の問題と格闘している国にとって争点となるさまざまな課題を提起する形となった。男女平等オンブズマンで訴訟を担当するマーティン・モークによると、その一つが、イスラム教徒の女性従業員は職場のあいさつとして握手を拒むことができるかどうか、という問題だ。
労働裁判所の声明によると、アルハジェは「相手が家族でない限り、異性と握手することを禁じているイスラムの解釈に忠実に従った」としている。そして「くだんの女性が異性の者との握手を拒んだことは、欧州人権条約第9条(思想、良心及び宗教の自由)で保障されている宗教上の表現である」と結論付けた。

一方、会社側は、従業員には男女とも平等に扱うよう求めており、ジェンダーにもとづいて握手を拒むことは許されない、と主張した。

評決は3対2で、どのようなあいさつをするかということも含めて、会社が従業員に対して男女平等の扱いを求めるのは正しいとしながらも、あいさつの問題には握手が含まれており、会社はそこまで要求することはできないとの結論を下した。また、重要なことは男女がどのような形であいさつを交わすか、その調和性にある、とした。

この裁定について、モークは「裁判所は職場におけるジェンダーの平等と宗教の自由に関してうまくバランスをとった」と述べた。

しかし、会社側の代理人になったラーシュ・バックストロムは、裁判所はジェンダーを理由にした職場での差別を禁じているスウェーデンの法律に反した裁定だ、と批判した。

「面接した女性は、上司が男性だったという理由で握手をしなかった」。バックストロムはメールで語った。「従業員が顧客や外部の人と会う際、宗教や政治的な信条を表明できるか否か。その判断は雇用者が決めることだ」とも語った。

一方、アルハジェは裁定を歓迎した。彼女は男女の従業員がいる職場では同じように手を胸に当てたあいさつをしてきたと言った。ただし女性だけで会う時には握手することもある、とも。

「私たちは、男女が平等に扱われる社会に生きている。スウェーデン人だから、それは分かっている」とアルハジェ。「私はスウェーデンで受け入れられる方法で、私の宗教を実践しなければならない」とも語った。

握手の問題がスウェーデンで注目されたのは今回が初めてではなかった。16年のこと、緑の党に所属していたイスラム教徒の男性が、党代表選に立候補した。彼はしかし、インタビューをしようとしたジャーナリストを含めて女性との握手を拒んだため、公然と批判され、立候補を取り下げた。

スウェーデンの日刊紙スベンスカ・ダーグブラデットによると、同年4月、首相のステファン・ロベーンは国会で「私は男女平等を支持する」と表明した。同時に首相は「私にとっては、女性も男性もまったく同じだ。我々は互いにあいさつを交わす。男性も女性も互いに握手する」と述べた。

男女平等オンブズマンのモークも、あいさつの重要性は分かっている。彼は「スウェーデンでは、人は握手をする」と言った。

そのうえで、モークは「スウェーデンが宗教上のマイノリティーとどう取り組んでいくのか、ややシンボリックな問題になってきた」と付け加えた。

その土地の習慣と信仰の自由のバランスをどうとるか。この問題は他の国々でも起きている。

スイスでは16年、バーゼル・ラントシャフト州(バーゼル・ラント準州)テルビルの公立学校で学んでいたシリア人の少年2人が宗教上の理由で先生と握手するのを拒もうとしたが、州は握手を拒否してはならないと命じた。スイスでは授業の前と後で生徒が先生と握手するのが習慣になっている。州政府幹部の話だと、この伝統習慣に従わない子の親には、最高5千スイスフラン(約55万円)の罰金が科される。

スイスの例とは逆に、オーストラリアのシドニーでは17年、イスラム教徒の男子生徒が女性と握手することに関し、その代わりに手を胸に当ててあいさつする限りは握手拒否を容認した。それで大騒ぎになった。

18年に入って、フランスでは最高行政裁判所がアルジェリア人女性の握手拒否を認めない裁定を下した。この女性はフランスの市民権授与式で主催者側の男性職員との握手を拒んだ。政府は彼女の市民権を認めなかった。訴訟の末、最高行政裁判所は、政府側の主張に十分な根拠があると裁定した。(抄訳)

(Christina Anderson)©2018 The New York Times

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