[パホア(米ハワイ州) 8日 ロイター] - 分厚いコットン地の服にヘルメット、ガスマスクを着用した地質学者のジェシカ・ボール氏は、夜間シフトで米ハワイ島キラウエア火山の「亀裂8」を観測していた。同火山の斜面から噴き出る溶岩は15階建ての建物に匹敵する高さだ。
溶岩は数キロ先の太平洋に続く水路に流出。住民がみな避難してゴーストタウンと化したレイラニ・エステーツの不気味なオレンジ色に染まった夜景の中で、溶岩はまるでボール氏に迫ってくるように見える。だがそれは、目の錯覚だと彼女は言う。
「キラウエア火山の活動は、自然の力に挑むとは、どんなことかをわれわれに思い知らせる」と、米地質調査所(USGS)の科学者であるボール氏は話す。
キラウエア火山が2カ月以上前に初めて噴火してから、科学者たちは現地で噴火活動を1日24時間、毎日観測している。USGSの職員やハワイ大学の研究者、そして訓練を受けたボランティアが、2つから5つのチームに分かれ、6─8時間のシフト交代制で働いている。
高熱で溶けてしまうため合成繊維の衣服は避け、鋭い火山岩やガラスから手を保護するためグローブを着用している。また、ヘルメットは降ってくる溶岩から、マスクは硫黄ガスから身を守ってくれる。
意気地なしにこの仕事は務まらない。地質学者は活火山の調査中に命を落とすこともある。
USGSの火山学者デービッド・アレクサンダー・ジョンストン氏は1980年、米ワシントン州のセントヘレンズ山の噴火で亡くなった。また1991年には、米科学者のハリー・グリッケン氏とフランス人の同僚夫妻カティア・クラフト氏とモーリス・クラフト氏の3人が、日本の雲仙岳で調査中に、日本の消防関係者や報道関係者らと共に火砕流に巻き込まれて命を落とした。
カナダ国境に近いニューヨーク州北部にあるニューヨーク州立大学バッファロー校を卒業したボール氏は、キラウエア火山の噴火とナイアガラの滝を比較する。
「力とエネルギーにおいて同じような感じを受ける」と彼女は語った。
リスクの価値あり
1983年から断続的に噴火を続けているキラウエアは、世界でもっとも注意深く観測されている火山の1つだ。主に山頂にあるハワイ火山観測所から行われていたが、今は閉鎖されている。直近の噴火はキラウエア火山による最大規模の噴火の1つであり、科学者にとっては思わぬ幸運となる可能性がある。
ボール氏とUSGSのチームは、地殻から溶け出す溶岩であるマグマが、亀裂を作り溶岩を噴出する前に、山腹の東リフトゾーン下部の地下にある火道をいかに通り抜けているかを研究している。
ビッグアイランドと呼ばれるハワイ島のコミュニティーを今後起きる噴火からより安全に守るための前兆を見つけ出そうと努力していると、ボール氏は言う。
「亀裂8」は、キラウエア火山に22ある亀裂の1つ。これら亀裂から噴き出た溶岩により、1000棟以上の建物が破壊され、2000人が避難を余儀なくされた。こうした事態により、キラウエア火山の噴火はまれに見る噴火だ、とボール氏は指摘する。
「地質学的な時間の尺度で言えば、キラウエアにとって当たり前でも、人の一生では一大事となる」
一方、キラウエアが位置するハワイ郡の広報担当ジャネット・スナイダー氏は、山頂からほぼ毎日のように噴火が起きており、蒸気や灰が噴出していると語った。
科学者たちは、キラウエアの溶岩湖の頭位が下がり、地下水が火道に流入して水蒸気爆発が発生すると考えていた。現在の噴火ともっともよく比較される1924年の噴火はこの考え方に基づいている。
しかし今回の噴火では、大量の二酸化硫黄ガスが放出されている。つまりこれは、マグマが影響していることを意味していると、火山学者のマイケル・ポーランド氏は指摘する。同氏はキラウエアに派遣された多くの火山学者の1人で、イエローストーン火山観測所の科学者を率いる。
「したがって、われわれは考え方を大きく転換し、これまでとは異なる理解に至っている」と同氏は語った。
ポーランド氏ら科学者は、小規模な噴火によって発生した多くの地震で損壊した山頂の観測所から装置やアーカイブをハワイ島ヒロにあるハワイ大学に移した。
アーカイブには写真や地震記録やサンプルが含まれ、100年以上古いものもあると、ポーランド氏は言う。「『こんな新しいアイデアがある。過去のデータを使って検証したい』と言う人にとって、このような資料はとても貴重だ」
キラウエアでは1955年に次ぐ2番目に長い噴火が記録されており、今回の噴火は過去の噴火よりもはるかに優れた研究機会をもたらしているとボール氏は言う。
「はるかに優れた性能の機器を使って、より長期的にデータを集めることが可能だ」
(Terray Sylvester and Jolyn Rosa 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)