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古くて新しいツアー 米公民権運動の跡を巡る

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
「平等保護」を保障した米国憲法修正第14条が成立して150年になる。米ペンシルベニア州フィラデルフィアの米国憲法センターでは修正第14条を2018年の中心テーマにさまざまな企画をしている=The National Constitution Center via The New York Times/©2018 The New York Times

アラバマ州モンゴメリーに行き、ローザ・パークス博物館を大勢の学生たちと一緒に見学した。次に、マーティン・ルーサー・キング(ジュニア)が牧師として勤めていた教会で、学生たちと一緒に「We Shall Overcome(勝利を我らに)を歌った。学生たちはオハイオ州、カリフォルニア州、それに中国からきた一団だった。Southern Poverty Law Center(非営利団体、南部貧困法律センター)の博物館では、10分ほど並んで土産に水差しを買った。

「公民権運動の父」と呼ばれるキングが暗殺されたのは1968年4月4日だった。あれから、ちょうど50年。いま米国では、公民権運動の跡を訪ねるツアーが盛んに行われている。それを確かめるべく、私もモンゴメリーでツアー参加を試みた。

「公民権運動は単なるアフリカ系アメリカ人の歴史ではない。アメリカの歴史の一部なのだ」。アラバマ州バーミングハムにあるバーミングハム公民権協会会長のアンドレア・テイラーはそう言った。「アメリカの歴史的発展を語るうえで、肌の色の違う人びと、とくにアフリカ系アメリカ人の歴史を含めて語ることがいかに大切なことか。それが今、あらためて大きな関心を集めている」

2018年1月、「U.S.Civil Rights Trail」(米国公民権トレイル)というキャンペーンが始まった。同協会もその一翼を担っている。1950年代から60年代にかけて起きた公民権運動の足跡を訪ねる、という企画で、ノースカロライナ州グリーンズボロのF.W.ウールワース(訳注=60年2月、小売り百貨店F.W.ウールワースにある軽食堂で、白人だけに認められていた席に黒人大学生がsit―in=座り込み=と呼ばれる非暴力の抗議活動を始めた)からリトルロック・セントラル高校(アーカンソー州)における人種差別廃止運動の中心になったデージー・ベイツの家まで、14州110カ所が公民権トレイルの対象になっている。

この公民権トレイルの監督責任者であるアラバマ州観光局長リー・センテルによると、2018年中に500万人のツアー客を見込んでいる。ツアー客が落とす金は725万ドルにのぼるだろう、とセンテルは言った。

「トレイルの大きな目的は、アメリカの歴史に重要な足跡を残しているにもかかわらず、それほど注目されない場所や教会や学校といった所を訪ねて、歴史を再認識してもらうことにある。こうした所の多くは、地元の支援も手薄になっている」とセンテル。

公民権トレイルもさることながら、人種問題や差別を巡る事件が頻発している今日、国内各地にある歴史博物館などで、「公民権」をテーマにした企画や興行やツアーなどさまざまな催しが行われている。

「いまアメリカで何が起きているか。当時(1950年代~60年代)とよく似た状況になっている」。バーミングハム公民権協会のテイラーは言った。「反差別の行動に出ている人たちは、歴史のなかにその原点を探ろうとしているのです」

公民権運動の足跡を訪ねるツアーや催しをいくつか紹介すると――。

テネシー州ナッシュビル。ノースカロライナ州グリーンズボロのF.W.ウールワースで黒人大学生が座り込みを決行した直後、ナッシュビルのウールワース・オン・フィフスの軽食堂でも、同じ座り込みの抗議活動が始まった。下院議員のジョン・ルイス(民主党、ジョージア州選出)も座り込み活動で逮捕された学生の一人だった。ナッシュビルの店は最近、新装開店した。店内には座り込み抗議行動の写真も飾られていて、当時の店内の様子も分かるようになっている。

米テネシー州ナッシュビルにある百貨店ウールワース・オン・フィフス。かつて店内の軽食堂は白人しか座れなかった。これに抗議してアフリカ系アメリカ人らが座り込みで抵抗。公民権運動が各地に広がっていった。撮影日時不詳=Nathan Zucker via The New York Times/©2018 The New York Times

「店に来て、壁を触りながら『僕の母さんはここで逮捕されたのだ。感動的だなぁ』と言う客もいる」と同店のオーナー、トム・モラレス。あの時代を振り返りながら、今日の私たちの接客姿勢を見てもらいたい。当時の写真を飾っているのはモラレスのそんな考えからだ。「時代は変わった。その変化を見てもらいたいと思っている」

ウールワース・オン・フィフスではライブミュージックも催されている。また月に一度、「ザ・ビッグ・アイデア」というステージ・パフォーマンスを上演している。俳優のバリー・スコットを中心に、客も参加して公民権運動の闘士たちの生涯を振り返る。6月はローザ・パークス(訳注=アラバマ州モンゴメリーのアフリカ系アメリカ人女性。1955年、公営バスの運転手が白人に席を譲るよう命じたが、拒んで逮捕された。これを機にバスのボイコット運動が広がる。冒頭の博物館は彼女の名を冠している)を取り上げる。

米国市民の「平等保護」を保障し、公民権運動の法的根拠となった憲法修正第14条が成立して2018年で、ちょうど150年が経つ。ペンシルベニア州フィラデルフィアの米国憲法センター(National Constitution Center)は、修正第14条を9月17日の憲法記念日の中心テーマに取り上げる。6月11日には憲法学者による特別討論会「Civil Rights Across the Centuries(世紀を越えた公民権)」も開催する。

サウスカロライナ州には8市に公民権トレイルが点在しているが、携帯サイト「Green book(グリーンブック)」は、同州内だけで300カ所以上ものアフリカ系アメリカ人の歴史文化の地をリストアップし、紹介している。もともとグリーンブックは、アフリカ系アメリカ人が安全な場所に移動するための案内書で、1936年から66年にかけて出されていた。それが2017年5月、サウスカロライナ・アフリカ系アメリカ人遺産委員会によって携帯サイト(greenbookofsc.com)として復活した。サイトを開けば米国内、あるいは州内で認知されている歴史的、文化的な遺産を「教会」や「文化的アトラクション」「黒人大学」といったカテゴリー別に調べることができる。

ルイジアナ州ニューオーリンズでは、プレス通りが新たに延長され、その部分にホーマー・プレッシーの名前をつけた。プレッシーは1890年代に白人専用列車に乗車し、鉄道車両での人種分離を定めた州法に違反したとして逮捕、投獄された。プレッシーは連邦最高裁まで闘ったが、最高裁は州裁判所で出された「separate but equal」(分離すれど平等)の裁定(いわゆる「プレッシー対ファーガソン裁判」)を支持した。旅行会社「Tours by Judy」による「ニューオーリンズ公民権運動ツアー」は、フレンチクオーターにあった奴隷オークションの場所からプレッシーの墓、そこからアフリカ系アメリカ人活動家が平等な扱いを求めて座り込み運動を展開した軽食堂や商店などがあったカナル通りを、当時の状況などを説明しながら巡る。

テネシー州メンフィスとアラバマ州バーミングハムのほぼ中間にあるミシシッピ州テュペロは、公民権トレイルには含まれていない。しかし、南北戦争(1861~65年)の戦場跡や公民権運動の遺産のほか、先住民のチカソー族インディアンの関連施設もある。テュペロはエルビス・プレスリーの生誕地として知られているが、ここのウールワースの軽食堂でも差別に抵抗して座り込みが行われたし、スプリングヒル・ミッショナリー・バプテスト教会は公民権活動家の集会所でもあった。

公民権運動の歴史についてもっとくわしく知りたいなら、非営利組織「Road Schoolar」(ロードスクーラー)が「公民権運動の道をたどる8日間の旅」を10月と11月に企画している。ジョージア州アトランタやアラバマ州のモンゴメリーやセルマ、それにバーミングハムを訪れる。(抄訳)
(Elaine Glusac)(C)2018 The New York Times

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