1. HOME
  2. 特集
  3. カメラと変わる
  4. 日々是カメラ 暮らしのすみずみに

日々是カメラ 暮らしのすみずみに

LifeStyle
鬼室黎撮影

初のサーフィン、喜びを撮る

10月初旬、生まれて初めてサーフィンに挑み、その姿を「自撮り」した。正確には、撮影したのはサーフボードに装着したアクションカメラ「GoPro」だ。ズームも手ぶれ補正も、機種によっては液晶モニターもないが、170度の超広角レンズが被写体の自然な姿を写しだす。

GoPro[HERO]

米国のベンチャーGoProが開発。ライブ感あふれる写真や映像がSNSで「シェア(共有)」され、世界に利用者が広がった。ヒットの理由を探ろうと、米西海岸の町カーディフのオフィスを訪ねた。

2階建て社屋の屋上からビーチが見える。広報担当ディレクター、リック・ラフリー(42)によれば、社員たちは昼休みにサーフィンを楽しむという。機材の使い勝手を試すにはぴったりだ。

日没まで1時間余り。日差しは強く、水温は温かい。波は引き潮、そう高くはない。ラフリーがサーフィンの指導役を引き受けてくれた。一体どんな映像になるんだろう──。笑顔の裏に緊張を隠し、ボードの先端に超小型カメラを取り付けた。

カメラマンのライバル

ボードに腹ばいになり、小さな波を乗り越えて沖に向かう。手頃な場所でボードの先端を陸に向け、大きな波を待つ。ラフリーの「立てーっ!」の合図で片足を前に出し立ち上がろうとするが、水の上でバランスがとれず、波と一緒に何度もひっくり返る。「甘かった」と諦めかけたとき、波の勢いに体が自然に反応した。波が体を運んでくれるような感覚。今だ。視線の向こうの砂浜が低く見える。立ててる?立ててる! やった──。

鬼室黎撮影

ビデオに映った自分は想像以上にうれしそうだ。わずか数秒間のできごとを、「見て、できたよ!」と誰かに伝えたくなる。カメラはガッツポーズからラフリーとのハイタッチまで、感動の時間を余すところなくとらえていた。思いもかけない自分の自然な表情を見て、カメラマンにとっては強力な「ライバル」になるかもしれないと感じた。

創業者兼CEOのニコラス・ウッドマン自身もサーファーで、「プロのように撮ろう」という気持ちを社名にしたという。2004年の初代機は35ミリのフィルムカメラで腕に巻いて使った。2年後にデジタル化し、どこにでも付けられる今のタイプに改良。プロのスポーツ選手も使い始め、その映像を見た一般の人たちがこぞって買い求めた。何が受けたのか? ラフリーは「カメラで喜びの感情を表現できるようになったから」だと言う。スポーツの最中や水中でも、楽しむ自分をありのままに記録できる。

「カメラで喜びの感情を表現できるようになった」 リック・ラフリー(広報担当)=鬼室黎撮影

コンパクトでパワフル

SNSの役割も大きい。デジタル化とほぼ同時にネット動画配信システム「You Tube」が始まり、人々は感情表現の方法に加え、伝達の手段も手に入れた。「撮りたい」「見て欲しい」という人々の欲求を膨らませる好循環が生まれた。

国内では、体当たり演技で笑いをとる芸人らが、ヘルメットなどに取り付けるカメラとして定番だ。風船に取り付けた「GoPro」で宇宙の撮影に挑む岩谷圭介は「コンパクトでパワフル。高画質で長時間録画できるのは革命」とその魅力を話す。

アクションカメラは地球の見方を変える 岩谷圭介は「ふうせん宇宙撮影」に挑む=岩谷圭介撮影

(鬼室黎)

初のサーフィン、動画でも撮影してみました(撮影:鬼室黎、機材提供:Go Pro)

インスタジェニック、買い物も旅も

いつからか、ノートとペンは持たなくなった。

「ここ試験範囲ね」。教授が板書を指して言うと、大学4年の中沢渉(22)はスマートフォンを取り出し、板書にかざしてカシャ。周りの学生も同様にカシャ、カシャ。シャッター音が教室に響く。「記者会見場みたいっすよ」

中沢渉さん

初めて携帯電話を持ったのは中学のとき。すでにカメラはついていた。その頃はまだ、「たまに写メ(写メール)を撮るぐらい」。大学に入ってiPhoneに替えると、写真を撮る機会が増えた。友達で集まれば、みんなで撮る。誰かがスマホを構えれば、周りにさっと集まる。一眼レフは持たない。「良い写真を撮って」との周りの期待が重いから。

2年前、「インスタグラム」を始めた。写真をネット上に投稿して「シェア(共有)」するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。2010年に始まって以来、共有された写真は400億枚を超え、1日に35億回もの「いいね」が交わされる。スマホに加工アプリを入れ、撮った写真の加工もできる。雑誌の写真みたいになる。すぐにハマった。

ツイッターやフェイスブックなど、SNSはそれまでも使ってきた。でも「長々と文章書くのは、なんかダサイ」。インスタグラムは写真が中心。サイトにはオシャレな投稿写真があふれている。「みんなリア充(充実した実生活)してるな」。負けずに映画や旅行に行き、イベントに参加して「リア充」な場面をパシャリ。撮り忘れると激しく後悔。「なんのために行ったんだとすら思う」。投稿した写真に「いいね」がつくと嬉しいし、あまりつかないとへこむ。「リア充度合いの数値化かも」

インスタで自分をブランド化

インターン先のPR会社、ブルーカレント・ジャパンの先輩、酒井千絢(22)も同じくインスタグラムにハマる一人。5年前、留学先の米国で使ったのが最初だ。帰国後も日記感覚で投稿した。日本ではあまり使われておらず、海外の友人との交流に使っていた。

最近、様子が違ってきた。友人との会話には「これ、インスタで見るね」という言葉がよく出る。流行をインスタグラムで知るようになった。

酒井千絢さん=鬼室黎撮影


インスタグラムで写真映えすることを「インスタジェニック」と言う。酒井は最近、何を見ても「写真映え」を考えてしまう。仕事の合間に入ったカフェで、コーヒーを買う際に「マグカップにしますか、紙コップにしますか?」と聞かれた。本当は持ち出せる紙コップがいい。「でも、インスタに載せるしな」。結局、見栄えのいいマグカップにした。

「カメラと一緒に生活している」と酒井は言う。なぜ数あるSNSの中で、カメラなしでは成立しないインスタグラムを選ぶのか。「フェイスブックは連絡網、ツイッターは独り言。インスタはビジュアルで自分をブランド化する感覚かな」。写真には気持ちを前向きにさせる力があるのかもしれない。「まだ残業中」と文字で伝えると残念な印象になるが、働いている自分の写真を投稿すると、「頑張ってるね」という反応が返ってくる。「ネガティブな部分がインスタではポジティブに変わる」と中沢は分析してみせた。

国内のインスタグラム利用者はこの1年で810万人に倍増した。日本の広報担当の日高久美子(36)は、成長の理由を「ビジュアルを通じて世界観や情報を分かち合い、周囲の人や世界を理解できる場になり得たから」と説明する。

浪費される写真

日常の1コマをカメラで切り取り、SNSに投稿するのは世界的潮流だ。観光名所でも、最近は「撮ってくれませんか」と周りに頼む旅行者は減り、多くが「自撮り棒」の先のスマホに笑顔を向ける。

自撮りが記念撮影を変える4
自撮りが記念撮影を変える2

こうした動きは観光誘致のあり方も変え始めた。香川県が今年作成した中国向けの観光パンフレットは、県内の名所で自撮りした若い女性らのモデル写真を前面に押し出した。助言したのは高松出身で北京で美容業を営む朝倉禅(38)。「美しい瀬戸内海やうまそうな讃岐うどんの写真をただ並べてもダメ。『瀬戸内海を背に立つ私』『讃岐うどんをほおばる僕』などの自撮り写真のイメージを見せるのが、中国の若者には一番良い動機づけになる」と朝倉は言う。

58万人のフォロワーを持ち、「インスタの女王」の異名をとる山崎佳(32)は数日に一度、朝食の写真を投稿する。「カメラは日々の中で欠かせないもの」。ただ、気軽に写真を撮るようになる一方で、フィルムの頃に比べて撮った写真を忘れやすくなったともいう。SNSには、始めると日に何度もチェックしてしまう中毒性も感じる。「自分にとってちょうどいい使い方が大切です」

自撮りが記念撮影を変える3
自撮りが記念撮影を変える1

SNSを使った企業マーケティングに詳しいエイベック研究所ベルリン支局長の武邑光裕は言う。「いまは所有欲が希薄で、共有が尊ばれる時代。みんながカメラを持つことで大量生産されるようになった写真は、記録としてアルバムになるより、日々のコミュニケーションの一瞬一瞬で共有され、浪費される対象になったのだろう」

(鬼室黎、和気真也)

だれもがカメラを携帯する時代

世界のカメラ産業は、カメラ機をつくり、ロールフィルムを発明し、小型化と軽量化を重ねてきた。戦後は電子技術にも優れた日本のメーカーが主役となり、夜でも明るく撮れる機能や手ぶれ補正、連写機能などが磨かれて、シャッターを押しさえすれば被写体がきれいに写るよう、扱いやすさが追求された。「誰もが自由に撮れることを目的に、カメラは進化してきた」と日本カメラ博物館の学芸員、井口芳夫は言う。

現時点で技術の粋が行き着いた先が、小さなレンズでカメラ機能を搭載したスマートフォンだ。市場調査会社ガートナーによると、2014年のスマートフォンの世界販売台数は約12億4500万台。3年前の2.6倍で、15年には14億台を超える見通しだ。

スマホは写真と通信を結びつけ、写真の新たな利用価値を生み出した。記録に重点が置かれてきたカメラはいま、写真を人と送り合うことで価値を共有する道具となり、人々の「見せたい」という欲求までかなえるようになった。

一方で、いま街中には監視カメラがあふれ、自動車や家電にも小型カメラが搭載されて、「見たい」という欲求もさらに追求されている。技術の進化によって普及を遂げたカメラで、私たちは何を撮ろうとするのだろうか。

(和気真也)

映される街 減る死角

photo:Wake Shinya

都内にオープンしたコンビニエンスストア。入り口に立つと、頭上にある4台の監視カメラが目に入った。店内にはさらに11台。レジの上、三つの通路、ATM、トイレの出入り口、雑誌コーナー……。死角のないよう、くまなく捉えている。

駅や商業施設、マンションなど、防犯目的の監視カメラはいま、世界中で増えている。矢野経済研究所の市場調査では、2010年に1700万台だった年間出荷台数が、今年は2845万台まで伸びる見通しだ。街から死角が減り、カメラに映らずに生活するのは難しくなっている。

その性能競争も近年、熱を帯びている。10月に千葉・幕張メッセであった家電・IT見本市シーテックジャパン。三菱電機のブースには缶ジュースが入ったランドセル大の箱が置かれていた。中をのぞき込んでも、暗くて何も見えない。だが、監視カメラで映すと缶の色や銘柄がわかる。説明資料には「人物の顔やお札、商品名まで確認できます」とある。「犯罪発生を想定し、暗闇を逃げる人物の特徴を正確につかめます」と担当者は話す。最近の事件捜査では、警察が発生現場周辺の監視カメラ映像を回収し、解析するのが定石だ。

プライバシー守れるか

監視カメラの普及と進化は、一方で悩ましいケースも生んでいる。

名古屋大学の図書館は4年前、それまで館内に6台あった監視カメラを40台に拡大した。きっかけは相次いだ荷物の盗難事件。再発防止のため、カメラの増設案が出た。だが、教職員からは懸念の声もあがった。

カメラの性能や設置角度によっては、利用者が手に取る本の題名までわかる可能性がある。「どんな本を読んでいるかなどは、個人の思想信条と結びつくデリケートな情報。自由な活動を守るためには、注意が必要だ」

名古屋大学はカメラの有用性を生かしつつ、利用者に居心地の悪さを感じさせない設置方法を模索した。本が特定できないように角度を工夫したり、カメラがあることを利用者に説明したりする体制を整えた。

運用チェックできる仕組みも

カメラとプライバシー侵害をめぐる議論は尽きない。グーグルが開発したメガネ型端末「グーグルグラス」の試作版は、盗撮リスクがあるとして欧米メディアの批判にさらされた。今後、自動運転カーやロボットが増えれば、さらにカメラの数は増える。考慮すべき有用性と懸念の数も同時に増えている。

慶応大教授(法理学)の大屋雄裕は「社会が必要だという認識を共有しているなら、有用性と懸念を理解し、運用でバランスをとることが大事だ」と話す。例えば、映像の閲覧権限を定める、一定期間が過ぎたら記録を消すといった丁寧なルール作りだ。「公権力が管理する映像には、市民が運用をチェックできる仕組みも必要です」
(和気真也)

犯罪捜査もカメラと共に

米国・ミズーリ州で昨年、白人警官が丸腰の黒人青年を射殺する事件がきっかけとなり、暴動に発展した。この時、関係者の証言が食い違ったため、事件を契機に警官が小型カメラを装着する動きが全米で進んでいる。ロサンゼルス市警は今年から導入を開始。最終的に約7000人の警官が装着する計画だという。

同じカリフォルニア州のアラメダ郡保安官事務所では4年ほど前、全米に先駆け、400人以上いる保安官に小型カメラの着用を指示した。胸に着けた縦10センチ、横3センチほどのカメラは、交通違反の車を止めたり、暴力事件の容疑者を捜査したりする際、スイッチ一つで録画を始める。刑務所内でもけんかや暴力沙汰に備えて使われる。

身につけて操作を変える=鬼室黎撮影

保安官代理のケビン・ディロン(29)は、管轄地域の一つ、サンレアンドロで武装パトロールカーに乗り込んだ。胸には台湾製のカメラ「VIEVU」が着いている。酒酔い運転やドラッグ所持、家庭内暴力(DV)の現場では必ず録画するという。

郡庁があるオークランドは全米で指折りの犯罪都市だ。郡が管轄する21の地域では年間約5万人の受刑者が刑務所に収容されるという。巡査部長のジェームス・ネルソン(51)は「カメラは警察の仕事の正当性を守ることができる。市民にもおおむね好評だ」と言う。

一方で、私生活を撮影されることへの市民の批判もある。ネルソンも「プライバシーへの関心は高い」と認めた上で、「録画するかどうかはその時々の判断だ。DVの現場で容疑者に顔の骨を折られた保安官もいたが、すべてカメラに映っていた」と話す。「人種間の問題解決にも、カメラは役に立つんじゃないかと思う」
(鬼室黎)
(文中敬称略)

(撮影:鬼室黎)

見えてきた難民のすがた

10月初旬のドイツ・ミュンヘン中央駅。深夜の列車で駅に降り立ったシリア人のアフマドは、妻と幼い子ども2人を連れて、待合室に駆け込んだ。コンセントにスマートフォンの充電器を差し込み、1時間ほどスマホの通信アプリで知り合いと連絡を取った。一息ついたところでスマホのカメラを立ち上げパシャリ。少し疲れた自分の顔を撮った。

アフマドはシリアから逃れてきた難民だ。内戦が激化する中東やアフリカ諸国から欧州へ逃れる難民もまた、道すがら「自撮り写真」をSNSに投稿し、欧米メディアの注目を集めている。

矢木隆晴・朝日新聞記者が取材したシリア難民たち=矢木隆晴撮影

先に避難した人や避難先の仲間からSNSに寄せられる情報を頼りに、難民たちは身の安全を確保するという。アフマドもその後、巡回中の警察官に保護され、駅構内の一時保安所に落ち着いた。アラビア語を話すボランティアから飲み物を渡され、ようやく笑顔を見せた。

保安所の広報担当コリン・ターナー(35)は「難民たちにとってコミュニケーションは、食事や衣類と同じくらい大切だ。写真で自らの安全を母国の親族や友人に伝えたい思いもあるのではないか」と話す。

「難民には衣食と同じくらい大事」コリン・ターナー(保安署の広報担当)=和気真也撮影

難民の実態は、昔なら報道や支援団体を通じてしか知るすべはなかった。最近はスマホカメラを使って自ら発信する難民が増え、その姿はより具体的に世界に伝わるようになった。難民支援を行う国際移住機関(IOM)駐日事務所の後藤裕子は「当事者の姿と声が訴える力は強い。多くの人が難民の実情を知ることで、個人や政府の支援行動につながってほしい」と話す。

(和気真也)
(文中敬称略)