英国のブリストル大学に通うアレッサンドロ・フォード(21)は2014年8月から4カ月半、平壌の金日成総合大学に留学した。「冒険と興奮」を探していた。父が欧州議会議員で訪朝経験があり、つながりがあったことで実現した。冷戦時代の東西の別でいえば、初の「西側の自由世界」から来た学生だった。
100人ほどいた寮のルームメートは北朝鮮の学生。驚いたのは男女関係だ。「セックスは全く見聞きしなかった」。ある学生は女性と付き合って半年だったが、キスはなし。周りに尋ねてみた。「私たちは愛情をそんなふうに表さない。手をつなぐか抱きしめるだけだ」
フォードはルームメートと米国のスパイもののドラマを見たことがある。中国人留学生がパソコンに入れて持ち込んだ。この中で、あるスパイが仲間を裏切る。スパイは若いころから命令を受けていた残忍なボスに操られていた。
ルームメートは「スパイは臆病。ボスに立ち向かう勇気を持たなければ」と言う。フォードは「ボスに洗脳されている。背くことができただろうか」と答えた。彼はフォードの目をまっすぐ見て、「じゃあ、スパイはどうするべきなのか?」と言った。とても小さな声だった。フォードは、彼が「スパイは」ではなく「我々は」と言いかけたように感じた。
オランダのコンサルタント、ポール・チアは1990年代から北朝鮮の経済団体や企業と接触を始めた。最初は自分の専門のIT分野で。「北朝鮮のIT人材はとても優秀。インドや中国よりコストも安い。そこに欧州企業からの外注の可能性を見いだした」と彼は語る。
06年から10回、北朝鮮を訪れた。経済団体は欧州企業との取引にとても熱心で、統計がないため全体像はつかめないが、欧州企業と北朝鮮の間では回転ドアから農業設備、食品に至るまで幅広い取引が行われているという。
「欧州企業は政治でなく、まずビジネスの機会を考える。制裁は考慮するべきだが、貿易は許されている。これがビジネスのリアル。雇用や賃金上昇を肯定的に感じれば、変化もありえるのでは」
北朝鮮での滞在が計100日を超えるシンガポールの写真家、アラム・パン(41)は、北朝鮮の女性に「理想のタイプ」を尋ねたことが何度かある。「ほとんどが『まず顔!』と答えます」とパン。「誰も笑えない冗談を言う人もいるし、子供の教育や将来の心配も。私たちと変わらない人生を送っている」
北朝鮮に詳しいフランスのジャーナリスト、ドリアン・マロビック(58)は、北朝鮮を見る場合、自国の「レンズ」を通して見ていると自覚することが大事だと語る。「あの国は大きなパズル。小さなピースを一つだけ持っていても全体は分からない」