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多様化する難民、私たちにできることは?NGOに聞く変わる支援のかたち

Sponsored by ジャパン・プラットフォーム 公開日:
ジャパン・プラットフォーム緊急対応部長の柴田裕子さん(右)と関根和弘・GLOBE+編集長

関根和弘(以下、関根):私は2011年から2014年まで、ロシア・モスクワ支局にいました。当時、ウクライナの首都キーウで大規模な反政権デモが続いて、ロシア寄りの大統領がロシアに逃亡し、その後、クリミアがロシアに一方的に併合されるという一連の流れを現場で取材していました。

今年、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった当初は、東部のハルキウに住んでいた友人とSNSを使って、空襲下でもやり取りしていました。彼女はいったん西部のリビウに、家族の一部はポーランドに逃げています。

国際協力NGOジャパン・プラットフォーム緊急対応部長の柴田裕子さんは、ウクライナの難民支援も行っているということですので、このあたりを伺えたらと思います。

柴田裕子さん(以下、柴田):私は2003年にアフガニスタンに駐在して以来、NGOの仕事を約20年しています。2012年からジャパン・プラットフォームで仕事をしています。ジャパン・プラットフォームは、日本のNGOが国内外で災害支援、難民支援などを実施するために設立され、「プラットフォーム」と呼ばれる「支援の場」で、日本のNGOが、国内での自然災害支援や海外の難民支援を行うために、資金や情報などを集めることでNGOの活動をサポートしています。

2022年11月27日現在、44の日本のNGOがジャパン・プラットフォームに参加していまして、それぞれの経験や専門性を生かして活動しています。

日本のNGOは一つひとつの団体は大変小さいですが、ジャパン・プラットフォームという場を使うことで、政府や一般の方から寄付を集めたり、国連機関や大学などと一緒に協力や連携をして支援できるような仕組みを作っています。

関根:今日のテーマは「多様化する難民」です。「難民って多様化してるの?」という感じもあるんですが、説明していただければと思います。

柴田:昨年末時点で世界の難民は8930万人、今年に入って1億人を超えたとの報告がありますが、この数字には狭い意味での難民と広い意味での難民が含まれています。

狭い意味では、国境を越えて逃れ、国際的な保護を必要とする人を難民と呼んでいます。

また、広義には、国境を越えないけれども、国内で避難生活を送る方を国内避難民と呼んでいます。最近は、国境を越えなくても支援が必要な国内避難民の数が非常に増えています。

ウクライナのケースでは、1500万人が難民として国を逃れていますが、国内には600万人以上の方が国内避難民となり、支援を必要としているという状況があります。

また、難民として逃れた1500万人のうち、半分ぐらいがウクライナに戻っています。一方、一度国内に戻っても、戦闘が起こると、またどこかに逃れるなど、移動を繰り返す人が非常に多いです。一概に難民支援と言っても、どこで誰が支援を必要としているのかが分かりづらい状況があります。

もうひとつ、気候変動の影響があります。難民というと、戦争や暴力によって逃れた方を想像されると思います。難民キャンプで難民生活を送るイメージが思い浮かぶかもしれませんが、気候変動による影響で、家を追われる方も非常に増えています。実は、難民の約90%は、気候変動の影響を非常に強く受けている国の出身です。

関根:私の友人は東部のハルキウから西部のリビウに入り、またハルキウに戻ってるんですけども、国内避難民ということになるのでしょうか?

柴田:その通りです。

尊厳を守るために必要な支援とは

関根:国外に出た方も、国内で避難された方も支援が必要ですが、NGOはどういう形の支援をしているのでしょうか?

柴田:まず、支援は様々で、支援のあり方も多様化しているというお話をしたいと思います。難民キャンプであれば、そこで住居や食事が提供されますが、ウクライナでは難民キャンプが設置されておらず、避難する人々にテントや食料をパッケージで渡しても、それらを持って移動できませんので、物ではなく現金を提供する支援が主流になっています。

最初は温かい食事、当面の衣料品、生活支援が必要ですが、その後、避難民がどこに行くか分かりません。

また、難民の方たちは、自分たちで住む家を借りないといけないので、家賃補助や、自分たちが生活する家の生活環境を整える支援が必要になります。そのための現金、あるいは物資を提供するなど、ケース・バイ・ケースでニーズにあった細かい支援を行うことが必要になっています。

関根:「支援をしよう」となった時に、現金ではなく、物や衣料品を送ることを考えがちですが、現場のニーズとマッチしていなくて倉庫に山積みになっているという状況もあるのでしょうか?

柴田:ウクライナのニュースを見て、「自分たちも何かしなきゃ」「物を送りたい」という方がたくさんいらっしゃったと思います。ジャパン・プラットフォームもありがたいことにたくさんの支援のお問い合わせをいただきました。

ただ、今日子どもの服が足りなくても、明日も同じように子どもの服が足りないかは分かりません。送られた物資が使われずに倉庫に積まれているというケースもあります。

海外に限らず、日本の災害支援の現場でも同じで、「水が足りない」という情報が発信されると、水だけがたくさん届けられ、大量に倉庫に残ってしまうということがあります。水は汎用(はんよう)性がありますが、たとえば子どもの服は、子どもの年齢や好みもあり、ニーズに合うものを届けるのは難しいです。

物資支援が必要な時もあり、大変ありがたいんですけれども、ニーズに合った支援のためには、現金もしくは商品券のような汎用性がある物の提供が求められています。

また、難民の方が自分で選んで物を買うことができるというのが、尊厳を守るという意味でも非常に重要で、他の国でも、現金の給付が支援の主流になってきています。

関根:押しつけにならず、尊厳を守る支援が望まれますが、「支援したい」と思っても、自分だとそこまで思いが至らないところもあります。NGOが入ることで、ある種の交通整理がされるのではと思います。具体的にジャパン・プラットフォームはどういう形で支援をされているのでしょうか?

柴田:ジャパン・プラットフォームは日本政府、一般の方、企業から寄付をいただいて、NGOに資金を提供するという形で支援をしています。

44の加盟団体は、それぞれ異なる専門性、強みと経験があります。それぞれの団体がそれぞれの強みを生かす事業ができるよう支援していて、支援内容は本当に様々になります。

関根:ひとつの団体だけでは多様な支援をカバーできない。ですから、色々な団体が加盟しているジャパン・プラットフォームだからこそできる形があるということですね。政府とも連携していますが、どういう協力を得ているのでしょうか?

柴田:主に資金面での協力です。ウクライナ危機に対して日本政府が緊急支援を発表した際には、NGOの重要性を認識いただいて、NGOとしては初めて資金を提供いただき、2度にわたり、合計で約32億円の提供を受けました。

そのほかにも企業や一般の方からの資金をいただいていますので、すべて合わせて資金を活用できるのが我々の強みだと思っています。

関根:個人が支援したいと思った場合、どういう支援の仕方があるのか気になるところだと思います。個人で何か行動したいと思った場合はどうしたらよいでしょうか?

柴田:個人でできることはたくさんあります。すぐにできるのは、情報を見て知っていただくことです。ジャパン・プラットフォームのホームページでも、ウクライナやレバノンでのシリア難民の事例などを見ていただくことができます。それをSNSで拡散していただくのも次のステップかと思います。

44団体が色々な活動をしているので、自分のお気に入り、興味のある団体を見つけて、発信する、寄付をする、会員になる、メーリングリストに登録するなどができます。

JPFではどのように資金が使われたかもホームページに掲載しています。色々なNGOもそれぞれに報告をしているので、「ここなら自分が信頼できる」と納得できるまで見ていただくとよいかと思います。

関根:企業はどのような支援ができますか?

柴田:難民の数も増えており、NGO、国連だけでは対応できないことが明らかです。企業は技術も体力もあるので、寄付という形だけでなく、本業を生かした形で支援にもかかわってもらえればと思います。ジャパン・プラットフォームでも相談を受け付けていますし、会員として情報を得ていただくこともできます。

気候変動の影響も 「自分ごと」として関心を

関根:難民支援への思いをぜひ伺いたいです。

柴田:私は仕事で人道支援をしていますが、みんなが仕事で人道支援に関われるわけではないと思います。ただ、誰もが「困った人を助けたい」という思いがあるのではないかと思います。

ただ、どうしたらいいか分からないことがあると思います。ぜひ「知る」ということを続けていただくことが重要だと思います。

たとえば、ウクライナについても、来年には皆さんの関心がなくなってしまうのではないかと、我々はとても懸念していますので、ぜひ関心を持ち続けていただきたいです。

また、今はウクライナばかりがニュースに取り上げられますが、アフガニスタンもミャンマーも人道危機が終わったわけではありません。ぜひ他の世界の危機も知っていただきたいと思います。

先ほど、気候変動の話をしましたが、日本も気候変動の影響を受けているという実感が皆さんにもあると思います。「自分ごと」として世界の難民のことも興味を持っていただきたいなと思います。

関根:ジャパン・プラットフォームは、自然災害の支援もしていますが、日本国内でも活動していますよね?

柴田:もともとは海外で活動する団体として設立されましたが、2011年の東日本大震災以降は国内の災害にも対応しています。ここ3~4年は、国内で毎年のように大きな災害が発生しており、継続的に支援をしています。

関根:短い時間でしたが、現場の話を聞く貴重な機会だったと思います。皆さんも個人で何ができるかをまず考えて、ご自身で情報を集めていただき、ウクライナだけではなく、他の困っている人たちのことも含めて支援を考えていただければと思います。