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ロシアのデジタル版「鉄のカーテン」、抜け道も続々と

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ロシア西部サンクトペテルブルクで観光ガイドとして忙しく働いていたガブリロフさんは、ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、「信頼できる」ニュースソースを見つけようと努力している。写真はイメージ。2017年10月、メキシコのシウダー・フアレスのパソコン販売店で撮影(2022年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

[23日 トムソン・ロイター財団] - ロシア西部サンクトペテルブルクで観光ガイドとして忙しく働いていた頃、フセボロド・ガブリロフさん(37)は毎日の主要ニュースにはさほど関心を払わず、もっぱら交流サイト(SNS)で旅行分野のインフルエンサーによる投稿をチェックし、メッセージングアプリ「テレグラム」で友人とやり取りしていた。 だが、2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、ガブリロフさんは「信頼できる」ニュースソースを見つけようと努力している。ロシアがフェイスブックやインスタグラム、ツイッターといったソーシャルメディアだけでなく、国際・国内問わず多くのニュースサイトをブロックする動きに出ているためだ。

「大半のニュースソースはブロックされているし、ブロックされていないものは信用できそうにない。テレグラムのチャンネルは、情報を見つけるための数少ない手段の1つになっている」とガブリロフさんは語る。フォローするのは、ロシア系、ウクライナ系、そして独立系のニュースチャンネルだ。

ロシア当局者は、西側諸国がロシアのウクライナ侵攻についての虚偽の情報を拡散していると非難する。モスクワの裁判所は今週、フェイスブックとインスタグラムの親会社であるメタを「過激派組織」と認定した。

ロシア政府は今回の紛争について、ウクライナを非武装化し、危険なナショナリストを排除するための「特別軍事作戦」と称し、この紛争についての言論を統制しようと試みているが、ロシアの一般市民の一部は、テクノロジーを利用して規制を回避している。

「1週間前には、VPNとは何かも知らなかった」とガブリロフさんは言う。VPNとは、データを暗号化し、ユーザーがどこにいるかを隠す「仮想プライベートネットワーク」である。

ロシアでは、これまでもサイバー攻撃の増加への対応としてVPNの利用は増えていたが、昨今の需要急増を反映するように、ガブリロフさんも携帯電話に3種類のVPNアプリを入れている。VPNでさえ「すでにブロックされつつあるから」だという。

ロシアの人々は、VPNの他にも、暗号化メッセージングアプリ、電子メール、無線通信を利用して、互いに連絡を取り、ブロックされたウェブサイトにアクセスし、情報を入手している。

西側のテクノロジー専門家は、ロシアの措置は中国の「グレート・ファイアウォール」と似た「デジタル版鉄のカーテン」と呼ぶべきもので、インターネットが地政学的な境界に沿って分断され、一部の国では住民がデジタル的に孤立してしまうリスクが高まっているという。

米国を拠点とする啓発団体インターネット・ソサエティーのアンドリュー・サリバン代表は今月、「(インターネットは)そもそも国境を尊重するように設計されてはいない」と語った。

「そんな方針を採れば、短期間のうちに『ネットワークのネットワーク』は消滅してしまう」

■威力を発揮する制限措置

ロシアは昨年、インターネットの自由を損なうと批判されている活動の一環として、いくつかのVPNを禁止した。もっとも、VPNの完全なブロックには成功していない。

だがここに来て、当局による検閲と、決済プラットフォームの利用制限を含む西側諸国の制裁により、ロシア市民によるアプリの新規インストールや利用料金の支払いは困難になっている。

グローバルなVPN運営企業に対してロシア向けに無料アクセスを提供するよう求める請願は、約3万5千筆の署名を集めた。

人権活動家は、暗号化されていない通信は、特に独立系のロシア人ジャーナリストや、侵攻を批判する人々にとって、逮捕や脅迫につながると指摘している。

そこで、メッセージの自動削除を設定する、あるいは定期的にメッセージやボイスメモを削除している人もいる。

もっとも、モナッシュ大学先端技術研究所のジェイサン・サドウスキー上級研究員によれば、VPNその他の迂回(うかい)ツールを使っても完全にファイアウォールを無効化することはできないし、常に信頼できるわけでもないという。

「こうしたサービスの効果はまちまちだし、かなり不安定になる場合もある。つまり、インターネットの制限にはやはり効果がある」と、サドウスキー氏はトムソン・ロイター財団に語った。

ロシアの動きによって、相互に接続できない、あるいは互換性のないテクノロジーを用いる国内・地域内のネットワークが多数存在する状態、いわゆる「スプリンターネット」が生じる懸念が高まっている。だがサドウスキー氏によれば、ロシアはすでに起こりつつあった変化を加速しているだけだという。

「この動きは、以前から『インターネットのバルカン化』とも呼ばれているが、インターネットのデジタル構造と物理的インフラの形成という点で、地政学がいかに重要な要因になっているかを露呈している」とサドウスキー氏。

「『スプリンターネット』はすでに多くの形で存在している。それをどのように経験するかは誰がどこにいるかによって変わってくるが」

■規制回避のさまざまな手段

世界各国の政府はテクノロジー企業の統制を試みており、数多くの規制やファイアウォール、インターネット封鎖、ソーシャルメディアへの接続遮断によって、ニュースの流れに制限を設けようとしている。

中国やイラン、ロシアは長年にわたり、当局の統制能力を強める方向で民間の分散化されたネットワークに介入してきた。

エチオピア、ベネズエラ、イラク、インド、ミャンマーなどでは、ソーシャルメディアの遮断・機能停止が日常茶飯事であり、カンボジアは中国のような国家規模のゲートウェイ導入を予定している。

BBCや、ドイチェ・ヴェレなどグローバル規模の報道機関は、ロシア国民向けに、「トーア(Tor)」を使ってブロックされたウェブサイトにアクセスする方法を紹介するガイドラインを公表した。「トーア」は、複数のサーバーによるネットワークを経由することで接続経路を匿名化するソフトウエアである。

また、これまでとは違うインターネット・アドレス上でコンテンツを複製するミラーサイトや、テレグラム上のチャンネルを開設する報道機関も複数現れている。BBCは、「キエフ、またロシアの一部でクリアに受信可能な」周波数帯を用いた短波放送を再開した。

ラジオ・フリーヨーロッパ/ラジオ・リバティー(RFE/RL)のウェブサイトには、「私たちのアプリは検閲を回避するテクノロジーを搭載している」と表示されている。

第2次世界大戦中に英国空軍内でポーランド出身パイロットにより結成された部隊にちなんで命名された「スクワッド303」と呼ばれる国際的なプログラマー集団は、テキストメッセージやメッセージアプリ「ワッツアップ」、電子メールによって、誰でも反プーチンのメッセージをロシア国内の携帯電話に送信することを可能にしている。

RFE/RLのトーマス・ケント元社長は、他にも手段はあると言う。「音声データを添付したメール、知名度の低いソーシャルネットワークを利用したクローズドなメッセージンググループ、フラッシュメモリの密輸、無線や電話回線を使ったデジタルデータの送信」などだ。

サンクトペテルブルクで年金生活を送るマリナさん(71)は、ラジオを聴くことを習慣にしていたが、いくつかの局は停波に追い込まれてしまった。インターネットを使うのは苦手で、さまざまなニュースソースへのアクセスが難しくなってしまった。

子どもたちは「ワッツアップ」経由でニュースや動画を送ってくる。マリナさん自身は、ロシアや世界各国の時事問題も扱っているビジネス向けFM局に耳を傾ける。

姓を伏せることを希望しているマリナさんは、「この局は出来事をバランス良く報道していて、(国の)公式見解が少ない」と語る。「テレビはまだ観ているけれど、最近は公式ニュースをあまり信用していない」

(Rina Chandran記者、Angelina Davydova記者、翻訳:エァクレーレン)

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