国境を越えた協力をこれからも
公益財団法人 イオンワンパーセントクラブ 理事長 森 美樹
日本をはじめ世界の多くの国では、賞味期限切れの、あるいは食べようと思えば食べられるはずの食品が日々大量に捨てられています。私たちイオングループは、この問題に以前から真剣に取り組んできました。見た目の悪い青果をカット野菜やジュースとして販売する、需要予測の精度を上げ過剰在庫を抑えるといったことがその一例ですが、まだ十分とは言いがたく、課題は少なくありません。
「アジアユースリーダーズ2021(AYL)」では、8カ国72人の高校生のみなさんに食の廃棄やロスをなくすためのアイデアを話し合ってもらいました。生産から販売、家庭での利用に至るまで、彼らの検討範囲は食のライフサイクル全体に及び、大人では思い付かないユニークな提言も聞かれました。もちろん、すぐには実現できないアイデアもありましたが、彼らがここで学んだことを持ち帰り周囲の人に伝えてくれるなら、それだけでも大きな意義があったと思います。何よりうれしいのは、わずかな時間の中で参加者が互いの国について学び、友情を深めてくれたことです。ぜひこの絆を今後も大切にしてほしいと思います。
最終日のプレゼンテーションで多くのチームが指摘したように、社会課題の解決は個人の意識と行動が変わることから始まります。イオンワンパーセントクラブはこれからも青少年の健全な育成、国際交流の促進、地域社会の持続的発展という三つを柱に、社会と連携しながら明るい未来のために活動していきたいと考えています。(談)
今日からできること、自分の手で
捨てられる大量の食べ物が地球環境と暮らしを壊す
AYLの初日と2日目は、主に知識のインプットとチーム内でのディスカッションに充てられた。賞味期限の切れた食品を家庭で捨てたことも、レストランで注文しすぎて食べ残したこともあるが、それがどれほど大きな問題かはあまり考えたことがない。そう語る多くの参加者が学んだのは、この問題がどれほど深刻で波及する範囲が広いかという事実だ。
FAO(国連食糧農業機関)の統計では、世界で1年間に廃棄される食品は約13億トンに上り、各国が多額の税と大量のエネルギーをそのために費やしている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、世界で排出される温室効果ガスの8〜10%が食品廃棄に起因し、その量は自動車の排出量に匹敵する。もちろん生産、輸送、加工、貯蔵、販売の過程でも多くの水やエネルギーが使われ、食品を廃棄することはそれらを捨てていることにもなる。その一方で、今も世界で約8億人が飢餓に苦しんでいる。
過剰生産や過剰在庫、食べ残しなどを減らすために消費者の買いすぎをいかになくすか。そして必要とする人たちにいかに食品を届けるか。72人の高校生が、地球と自分たちの未来を本気で考える3日間が始まった。
農業の現場から学校まで私たちにできることは多い
コロナ禍の中、参加者同士のディスカッションはすべてオンラインで行われたが、互いの熱い思いはモニター越しでも十分に伝わる。最終日のプレゼンテーションは、全10チームが自作のスライドや動画を交えながら練り上げたアイデアを紹介していった。
食の提供者と消費者のコミュニケーション不足に着目したチームが提案したのは、レストランとゲストが料理の適正な提供量を共有するためのアプリ。その他にも、消費者に食品廃棄を減らす行動を促す情報提供ツール、生産者が市場に出しにくい野菜などを直販するマーケットプレイス、クリックひとつで慈善団体などに食品を提供できる寄付のプラットフォームなど、様々なアプリの活用アイデアが紹介された。
新たな法制やインフラ整備など行政の積極的な関与を求めるチーム、農業のあり方を見直し、適正な生産で農家が十分な対価を得られる方策を考えたチームもある。スーパーなどの小売店こそがキープレーヤーと考えたチームからは、需要予測に合わせて価格を細かく調整するシステムや、古いものが売れるまで棚の食品を補充しないオペレーションなどが提案された。さらに多くのチームが指摘したのが、教育や啓発活動の大切さ。生産者、輸送業者、小売業者、そして消費者に至るまで、一人ひとりがこの問題を自分ごととして捉え、行動を変えない限りは何も始まらない。そう考え、すでに学校でポスターキャンペーンなどを始めたチームもある。
プレゼン終了後のリラックスした雰囲気の中、参加者の多くが司会者に促されるまでもなく、これからの目標や決意を自発的に語った。そこで多く聞かれたのは、「今日から始める」「まず自分が行動する」という強い決意だ。食品廃棄・ロスをなくすという地球規模の課題に向けて、これからアジアの若きリーダーたちが大いに活躍してくれることを期待したい。