「楽しく」というのは、イラストレーターの本田亮さん自身の想いでもある。環境汚染や貧困といった重たいテーマでも、知ることを「楽しい」と感じることができれば、「周りの人にも知ってほしい」「問題解決のために自分にもできることはあるだろうか?」という考えが働くものだからだ。
作品制作において本田さんが意識しているのは、明るい色調やユーモアのエッセンス。風刺をこめたヒトコマ漫画の中には、環境破壊や奪い合いの結果、動物たちまで苦しめられている一枚もあれば、空腹で力が出ない人間に動物たちが「おすそわけ」している一枚も。イヌやネコが大好きな人ならきっと、「動物たちにこんな辛い思いをさせてはいけない」と思うに違いない。
本原画展は昨年から各地で開催されているが、今回は3点の新作も公開。「すべての人に健康と福祉を」の項目をテーマにした作品「サバンナの診療所」には、ドクターの診察を待つ列に並び、「うちの子も診てちょうだい」の表情を浮かべているライオンがなんともかわいらしい。
「貧困をなくそう」をテーマにした「今夜のごちそう」には、ニワトリをくわえたネコを羨ましそうに見つめる空腹の人間たちが描かれている。
「ジェンダー平等を実現しよう」をテーマにした「今こそ、レディ、GO!」は、政治家の女性差別発言が話題となったことも記憶に新しい今、注目を集める一枚となりそうだ。
過去の原画展開催時には、来場した中学生から「こんなにわかりやすいSDGsは初めて」と声を掛けられたことがあるという本田さん。その後、子どもたちに促されて会場に足を運んだ同校校長や教頭から、「うちの学校でSDGsについて講義してほしい」との依頼を受けたことを明かす。もちろんオファーは快諾。美術の時間を使っておこなった講義では、アイディアの発想法にいたるまでのトークを繰り広げ、子どもたちはみんな楽しく学ぶことができたという。
そこで、今回の展示作品の一枚を例に、アイデア発想の経緯をお伺いしたいとお願いしたところ、選んでくれたのは「陸の豊かさも守ろう」をテーマにした「ジグソーアマゾン」(写真上)。森林伐採によってピースが抜け落ちた森を前に困惑するカピバラたちが描かれているが、本田さんご自身がアマゾンを訪れた際、同じように困惑させられた経験があるという。
「旅の途中、アマゾン原住民の酋長から『このジャングルを買ってくれないか?』と打診された」と本田さん。1ヘクタール1ドルで売りたいと交渉され、あまりの安さに驚いたというが、実際にその値段でジャングルを買い取り、牧場を作ってハンバーガー用の牛を育てている企業が世界には存在する。「アマゾンの問題は自分とはまったく関係ないと思っていたけど、実際はわたしたちの生活と密着している問題だと気づいたんです」
原画展を訪れてくれる人も同様に、作品を通して自分たちの生活を改めて見つめ直してもらえたらうれしいという本田さん。「一人ひとりが毎日の行動を少し変えることで、SDGsの達成に一歩近づけたらいいですよね」と想いを語ってくれた。
今回のユーモアイラスト展は認定NPO法人国連WFP協会が主催。支援している国連唯一の食料支援機関、国連世界食糧計画(WFP)は昨年のノーベル平和賞を受賞した。同協会は「SDGsのすべての課題は根底でつながっている。今回の原画展でもひとりでも多くの人にSDGsについて楽しく学んでもらいたい」と話している。
(文と会場写真:松本玲子、イラストは本田亮さん提供)
「本田亮SDGsユーモアイラスト展」は4月18日(日)までMC FORESTで開かれている。また東京・八王子市の村内ファニチャーアクセス八王子本店・OKAY八王子店で4月10日(土)~5月9日(日)、横浜高島屋で6月2日(水)~6月15日(火)、大阪・池田市のカップヌードルミュージアム大阪池田で6月2日(水)~8月30日(日)に開催予定。