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「蜜月は終わった」、環境団体がバイデン氏に早くも圧力

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2019年6月、ニューハンプシャー州の太陽光発電施設を訪問するバイデン氏(2020年 ロイター/Brian Snyder)

この動きは、環境問題を軽視し、米国の化石燃料産業の利益を最大化する政策を推進してきたトランプ政権の下で蚊帳の外に置かれていた環境団体が、再び政治的影響力を行使できる状態になったことを物語る。

実際、バイデン氏が化石燃料産業と関係のある人物を政権の主要ポストに起用すると表明するや否や、一部の環境団体が早速かみついた。バイデン氏は迅速な環境政策の実施を求める圧力に今後も常にさらされそうで、その重圧はオバマ前政権時代よりも大きくなる可能性がある。

国際環境NGO、350オルグ傘下で化石燃料産業に反対するフォッシル・フリー・メディアのディレクター、ジェイミー・ヘン氏は「当ネットワークがバイデン氏を次期大統領と宣言した段階で、ハネムーンは終わった。(環境政策実行を促す)圧力を味方にするか、敵にするかはバイデン氏次第だ」と強調した。

バイデン氏も政権移行準備を進める中で、そうした環境団体の役回りは承知している。先週のCNNテレビでは、環境団体からの要望は日増しに強まっているとした上で「それが彼らの仕事だ」と語った。

ただ、環境保護NGO、エンバイロメンタル・ディフェンス・アクション・ファンドの幹部でかつてオバマ前大統領の経済顧問を務めたナット・コヘイン氏は、環境団体が次期大統領に向ける視線は、環境問題で対応が遅いと批判され続けたオバマ氏の時代より、さらに厳しくなる恐れがあると警告する。

コヘイン氏によると、その理由は森林火災や巨大ハリケーンといった近年の気候変動に起因するとみられる災害多発を受け、より攻撃的な新世代の環境活動家が相次いで誕生しているからだ。「オバマ前政権当時の米国の環境運動に現在ほど幅広い声は存在せず、政策課題として気候変動の優先順位は、ここまで高くなかった」という。

それでもオバマ前政権は定期的に環境団体の代表と面会し、彼らの意見を踏まえて新たな政策や規制を導入した。この慣例は2017年、トランプ氏が大統領に就任したとたんに姿を消す。ロイターがトランプ政権1年目の環境保護局(EPA)の公式日程を確認したところでは、EPA長官と産業界代表との会談回数が環境団体の25倍に達していた。

■具体的な要求

米連邦政府のデータを見ると、リーグ・オブ・コンサーベーション・ボーターズ(LCV)、シエラクラブ、EDFアクション、サンライズPACなど環境団体が組織した各政治資金団体は、今年の連邦選挙で計150万ドル強を支出し、その大半がバイデン氏や民主党議員のために投じられたことが分かる。

その直接的な見返りというわけでもないだろうが、バイデン氏が政権移行を進めている今の段階で既に、各団体は「約束」は果たしてもらうと明言している。約束とは、バイデン氏が気候変動に関して強力な行政措置を講じ、あらゆる政策で対応すると表明したことだ。

例えば、若者が中心のサンライズ・ムーブメントは、バイデン氏が大統領上級顧問にセドリック・リッチモンド下院議員を登用する方針を打ち出したことをやり玉に挙げた。リッチモンド氏が石油業界から献金を受け取っていた点を問題視した上で、この人事を「裏切り行為」だと糾弾した。

ニューヨークではサンライズの活動家が先週、資産運用大手・ブラックロックの本社周辺に集まり、オバマ前政権で環境問題などの大統領上級顧問を務めたブライアン・ディース氏を国家経済会議(NEC)委員長に充てるとしたバイデン氏の人事に抗議した。

ディース氏が過去数年間、ブラックロックで持続可能社会問題の責任者だったためだ。ブラックロックは一部の石炭産業向け投資を引き揚げているものの、なお化石燃料産業全体への投資規模は大きい。

サンライズ共同創設者の1人であるバルシニ・プラカシュ氏は「われわれの役目は、バイデン陣営の公約は素晴らしいと言うことだけでなく、政権発足初日からそれに基づいて行動しなければならないと訴えることにある」と主張。バイデン氏が若い世代の支持者への責任を全うしてくれるように、ロビー活動から抗議行動、ネット経由の運動まであらゆる手段を行使していくと語り、手始めに閣僚人事、次に政策行動の監視に力を入れると説明した。

より「老舗」のグリーンピースは先週、EPA本庁舎の壁にプロジェクションマッピングで「バイデンさん、化石燃料ゼロの未来をつくってね」とのメッセージを投影するとともに、オバマ前政権のエネルギー長官だったアーニー・モニズ氏を新長官にしないでと呼び掛けた。モニズ氏が天然ガスや原子力の利用を支持していることや、公益企業、サザン・カンパニーの役員に名を連ねた経歴のためだ。

グリーンピースで気候変動問題を担当するチャーリー・ジャン氏は、バイデン氏が就任初日に気候変動の緊急事態を宣言するよう働き掛けるほか、1)連邦所有地の化石燃料産業向けリース中止、2)キーストーンXLなど大規模石油パイプラインの稼働阻止、3)環境関連投資の4割を、環境問題で不利益を被る地域の格差解消に振り向けること――といった公約の実行を強く求める考えを示した。

シエラクラブも、バイデン氏に特に環境破壊で直接影響を被る地域の支援を最優先するという約束を果たしてもらうとしている。

一方で過去4年間、トランプ政権による環境規制後退に異議を唱える法廷闘争を展開してきたアースジャスティスは、バイデン氏に圧力をかけるのではなく、これまでの経験を踏まえ、今後導入される環境規制に対して石油・ガス産業が訴訟を起こした場合に次期政権を援護していく構えだと述べた。

幹部のサム・サンカー氏は「われわれは公共メディアを通じた挑発的な運動はしない」と断りつつも、規制面でバイデン氏が持つことになる大統領権限を積極的に活用してもらいたいと強く要請していくと付け加えた。

(Valerie Volcovici記者) 

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