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お茶代は会社負担、オランダのテレワーク事情

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自宅で仕事をする女性、オランダのサッセンハイムで撮影(2020年 ロイター/Eva Plevier)

支給額は、1営業日当たり平均2.40ユーロ(298.80円)。

この金額に含まれるのはコーヒーやお茶、トイレットペーパー代だけではない。ガス、電気、水道料金、さらにはデスクや椅子の減価償却費まで算入されており、これらはオフィス勤務であれば自己負担など考えもつかない、仕事に必須の経費すべてだ。

オランダの家計研究機関、NIBUDのガブリエル・ブトンビル氏は「私たちは文字通り、平均的な家庭にあるティースプーンの本数に至るまで計算し尽くした。そこからコストを算出するのはさほど難しいことではない」と話す。NIBUDは主に政府が出資している機関で、在宅勤務による追加的出費を研究した。

100年に一度とも言われるパンデミックが世界を襲った当初、こうした経費は取るに足らないように考えられていた。しかし、オフィス勤務の激減がコロナ禍による恒久的遺産となりそうな今では、重要な問題だ。

オランダ当局は既に、NIBUDの研究結果を具体的に適用し始めている。自宅勤務の官僚に今年1年間で363ユーロの「コロナボーナス」を支給する。同国がロックダウンを始めた3月以降の経費だ。

もちろん、1日当たり2ユーロというのは平均的な労働者の平均的な経費であり、家の暖房・水道代、邪魔の入らない勤務環境をどの程度確保するか、などに応じて修正が可能だ。

この金額には、新たな家具やコンピューター、電話機その他設備の購入費は入っていない。NIBUDは、こうした設備が仕事に必要な場合には、雇用主が労働者に提供すべきだとしている。

■スペインから英国まで

「新しい現実」に合わせ、制度を修正し始めた国々は他にもある。多くの労働者にはコロナ禍が過ぎても、フル出勤に戻る気が薄いことに気付いているからだ。

スペインは、雇用主に対し「ホームオフィス」(自宅の仕事部屋)の維持費と設備費の支払いを義務付けた。ドイツでは在宅勤務者の権利を明記する法案を審議中。フランスは在宅勤務者を、勤務時間外の電子メールから守る法律を可決した。英国はコロナ禍中に購入した仕事関連の設備について、税控除規則を緩和する可能性を示している。

しかし、オランダほど詳細な制度を検討した国は少ない。

同国最大、オランダ労働組合連盟(FNV)のヨゼ・ケーガー氏は「わが国では政府が良い手本を示してくれた」と語る。FNVは全ての在宅勤務者がNIBUDの指針に沿った経費を支給されることを望んでいる。

FNVに加盟する労働者の中には、塗料大手・アクゾノーベルの工場やビール大手・ハイネケンの醸造所勤務者など、出勤が欠かせない人々も多い。しかし、銀行や保険、コールセンターその他の従業員は、ほとんどが3月以降、自宅で勤務している。

銀行大手・ABNアムロはホームオフィス用の設備を用意する経費は支給しているが、毎日発生するような固定費の問題は、まだ解決していない。広報担当者は、従業員が週3日以上出勤するようになるとは考えていないと話した。

■カプチーノマシンは

もちろん、物事には必ず表と裏があるものだ。企業側としては、コロナ禍が経済に打撃を及ぼしている今、追加の支出など考えにくいと訴える。

オランダの雇用主団体AWVNの広報、ヤネス・ファンデルベルデン氏は、NIBUDの計算には在宅勤務者が享受する恩恵が反映し尽くされていないと主張。出勤時間が無くなったことで「労働者は代わりに自由時間をたっぷり得ている」と話す。

同氏はまた、労働者はホームオフィスの経費を支給されるべきだが、通勤用の自動車のリースその他、移動関連手当ての削減によって相殺されることになると指摘。「人々が給与に加え、特別な『ボーナス』を得るという話にはならない。景気後退時にあり得ないことだ」と語った。

そしてもちろん、限度というものがある。生産性向上のため、企業が従業員にカプチーノマシンを提供するのは、全く理にかなっている、だろうか。

オランダ内務省の官僚は「いいえ。当然のことながら、(経費支給は)仕事の遂行に不可欠なものに限られる」と述べた。

(Toby Sterling記者)

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