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コロナで来日できない、それでも技能実習生の面接を続ける事情

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WEB面接で選ばれたベトナム人の男性たち。日本に行ける日を心待ちにしている(DIA事業協同組合提供)

日本は新型コロナの水際対策を2月から順次強化。一部で緩和の動きはあるが、12日現在も146カ国・地域からの外国人の入国を原則として拒否している。ところが、DIA事業協同組合が窓口となる企業は、4~5月にWEB面接でベトナム人の技能実習生を約30人受け入れ 。8月も4社の面接が入っているという。

その理由を、寸田さんは「入国ができるようになってから、すぐに働いてもらうためです」と説明する。「採用を決めてから、実際に働いてもらうまでに7~8カ月かかるので、企業にとっても、実習生にとっても、事前に採用を決めておくことにはメリットがあります」

インターネット電話を使ったWEB面接を受けるベトナム人の希望者たち(DIA事業協同組合提供)

背景には、建設業などでの深刻な人材不足がある。「とび職や鉄筋工などは、けがと隣り合わせで、日本の若い方でこういう仕事に就きたい人は本当にいない。中小の建設会社では、2年半ぐらい前から応募ゼロで、面接すらしたことのない企業が多いんです」と話す。農業や漁業など人手不足に悩む他の産業でも、もはや外国人の実習生がいなくては仕事が成り立たないといった悲鳴が出ている。

WEB面接の難しさも、それほど感じていないという。「もちろん現地で直接面接する方がいいのですが、いまはベトナムとの往来ができません。代わりにビデオで実技の能力を確認し、インターネット電話のスカイプを使って面接をすることで、適切な人材を選ぶことができると考えています」と自信を示す。

■実習生の姿勢が、日本人同僚の意識を変える

外国人技能実習制度をめぐっては、監理団体による所得隠しや、実習生へのセクハラや暴力、実習生の失踪などの問題も起こっている。実習の名の下に、人件費が安い労働力として使っているとの批判もある。制度の建前は外国人に日本の技術を学んでもらうことだが、「単純労働の外国人は受け入れない」という時代の中でつくられ、労働力を補ってきた実態がある。この建前と実態の矛盾が、これらの問題の根底にあるとも指摘されている。

ただ、寸田さんは大半の監理団体や企業、実習生は良好な関係にあり、低賃金だけが理由で雇っているわけではないと主張する。「実習生の給料は(法律で定められた)最低賃金の水準で、京都なら月15万~16万円ぐらい。そこから所得税や住民税、社会保険料、住居費、水道光熱費、通信費、食費などを引けば、月8万円の仕送りも厳しい。せいぜい5万~6万円です。解雇されなくても、いまは勤務日が週3日になることもあり、本当に生活は大変です」

このような環境でも、大半の実習生が懸命に働いているという。「もちろん人件費が安くなっている面はありますが、それだけではありません。日本人はすぐ辞めちゃうことがありますが、彼らは辞めないんです。80万円の借金をして、3年間働く権利を買っている。辞めさせられたら借金を返済できないから必死でがんばります。『残業させてください』『夜勤もやります』『僕、ちゃんと仕事できていますか?』と日々、言ってきます」

「建設業の場合、受注をもらってから現場に入るまで3カ月から半年ぐらいのタイムラグがあります。日本人はいつ辞めるか分からないから、仕事があっても全部は受けられません。でも、実習生なら辞めないので、めいっぱい仕事が取れる。だから拡大できる」

WEB面接で外国人技能実習生の採用が決まったベトナム人の女性。モニターには雇用主の取締役(右)と施設長(左)の姿が映る(DIA事業協同組合提供)

借金返済やお金をためるのが目的とは言え、そんな実習生の働く姿勢は、日本人従業員の意識を変えることもあるという。「ある人が言っていたのは、内装工事は雨の日はあまり仕事をしないが、納期が近づいたため、『雨でも行くぞ』と言ったことがあった。日本人は『雨なのに行くのか?』という反応だったのに対し、実習生は『ラッキー』と喜んだという。月給じゃなくて時給だからだが、このような彼らの働き方を見た日本人も仕事への姿勢が変わったそうです。それまでは日本人がよく辞めて、負担が増えた社員がつぶれることがありましたが、実習生を採用したおかげで、日本人社員に定期的に休みを取らせることが容易になり、社員が定着するようにもなりました」

寸田さんは、採用企業と実習生との良好な関係をつくるため、必ず社長らと一緒に実習生の実家を訪れている。「企業の社長と実習生のご家族の方にコミュニケーションをとってもらえれば、企業さんの暴力はなくなります。親御さんの応援があれば、ちょっと厳しく怒鳴られたとしても、(それぐらいの理由なら)実習生は失踪しなくなります。 LINEを交換したり、互いに、お米やお菓子を送ってあげたり、とかもあります」

■制度を改善し、実習生の支援を

採用が決まり、実習生の実家を訪問した寸田さん(右上)ら。パソコンで会社の説明をしている(DIA事業協同組合提供)

ただ、コロナの影響で企業の業績が悪化して解雇されたり、就労期間が終わってもベトナムに戻れなくなったりする実習生もいる。

寸田さんも「僕のところのお客さんでも、景気が悪くなったから、解約したいと言ってきたが、解約されると実習生がどんなに大変な状況になるのかを説明し、政府の雇用調整助成金などでなんとか対応するようお願いをしています。そうして雇用を継続していただいた企業さんもあります」という。一方で、「就労期間が終わっても、仕事がある企業なら、いまは特例措置で、働き続けることができますが、仕事がない企業なら満期で仕事を失い、寮からも追い出されます。帰れなくなったベトナム人がSNSで連絡を取り合い、一緒に野宿している話も聞きました」と懸念もしている。

寸田さんが提案するのがセーフティネットの拡充だ。「実習生の面倒をみられるのは監理団体しかありませんが、うちのように寮のような施設をもっている監理団体の事業組合は少ないんです。なぜなら事業組合はそれほど多くの黒字を出すことができません。赤字も出せないので、今回のような緊急事態になっても実習生を助けられない構造的な問題があります」

実習生が企業を移ることも簡単ではない。「コロナで経営が悪化した企業が増えたため、いまは実習生が別の企業に転籍することが可能になりました。だけど、外国人技能実習機構に提出する書類を最初からつくり直す必要があり、それに2カ月ぐらいかかるんです。新規の場合と同じです。なんで簡素化して、2週間とかでできないのかなと思います。様々な点で、制度を改善する必要があるのではないでしょうか」

■来日前に、「巨額」の借金

清水寺の観光を通して、日本の文化を学ぶ外国人技能実習生(DIA事業協同組合提供)

採用が進む一方で、昨年以降に採用が決まりながら、コロナの影響でベトナムに足止めされている実習生もいる。

寸田さんも「我々のところでは100人以上が来日できる日を待っています。昨年夏に面接し、3月末に入ってくる予定だった人は、入国用のチケットまでとっていたのに、入れなくなりました。すでに面接から12カ月経ちますが、まだ、いつ入れるかも分からない。ベトナム全土では、日本に行きたい人は約1万3000人になると言われていて、来日が可能になっても、様子を見ながら順番に入国するので、まだ時間がかかります」と心配している。

来日が遅れて問題となるのが、実習生が抱える借金だ。「採用が決まると1週間以内に、人にもよりますが、80万円程度のお金を用意しないといけません。送り出し機関に払う紹介料が3600ドル(約40万円)で、あとは日本語学校の受講費や寮費、食費が約30万円、さらに妻や子どもら家族の生活費に約10万円が必要となります」。ベトナム政府の融資制度もあるが、多くの人が親や親戚の家を担保に入れて銀行から借りている。返済は翌月から始まり、日本語学校の研修期間も返済することになるという。

ベトナムでも実習生として来るのは、給与の高い仕事が少ない地方から。日本に行かず、働いて返済するのは非常に難しい。「いまの実習生は、首都ハノイや大都市ホーチミンでなく地方の出身者。ハノイなら若者の月収は3万円前後ありますが、地方なら多くても2万円。自給自足の生活で、月収がゼロの人もいます。そんな方々にとって80万円という金額は、日本の感覚なら『1600万円』ぐらい。とても借金を返済する余裕なんかありません」

■「子どもに食べさせるために日本へ」

それでも面接を受ける人がいるのはなぜなのか。寸田さんは「日本で働くしか生活を変えられない、生きていけない人が本当にいるんです」と訴える。

「例えば、いまベトナムで待っている女の子は3歳ぐらいの子どもがいます。採用が決まったときは2歳でした。こんな小さな子どもを置いて、お母さんが日本に行くなんてどうなのか、って日本人なら思うでしょう。でも、夫が交通事故で亡くなり、お父さんは農業といっても自給自足で、月に10日ぐらい韓国系の工場で働いて約1万円を稼いでいるだけ。お母さんは病気で入院中です。だから、彼女は『子どもができたから、日本に行くんです』と言うんです。子どもにご飯を与え、生きさせるために行くんですね」

それだけに実習生になるための競争も激しく、すべての希望者が採用されるわけではない。「技能実習生になろうと思ったら、まずはハノイやホーチミンにある送り出し機関の職業訓練校に入ります。最長4カ月の在籍の間に、計算やIQ、技能のテスト、そして面接を受けます。従業員30人以下の企業なら最初は一度に実習生を3人採用できますが、その場合、面接には9人まで入ってもらいます。ただ、その前段階の希望者まで含めると、製造業なら40人、50人ぐらいは集まるので、ものすごく高い競争率です。採用が決まると、思わず涙を流して、喜ぶ人も珍しくありません。採用されなければ、そのまま地元に帰ることになります」

「採用決定後、6カ月間、日本語学校に通って日本語や職業の勉強を続けるので、合わせると訓練期間は10カ月ぐらいになります。さらに来日後、我々のもとで1カ月間の国内講習を受けて、ようやく企業で働けることになるんです」

■実習生を締め出していいのか

いま日本はベトナムなどとビジネス関係者の入国について協議しており、徐々に緩和も進んでいる。企業側の期待も高まっているという。「大半の社長さんは実習生をとても可愛がっています。最近、在日ベトナム大使館から誓約書が送られてきました。入国が再開されたとき、実習生が入管に提示するもので、PCR検査を受けることや、公共交通機関を使わないこと、2週間は研修所にいることなどを守ることになっています。『景気が悪いから、実習生の到着が遅れる方がいい』と言っていた企業さんでも、誓約書をもっていくと、すぐに判子を押して返してきて、その後も、『どうなった?』と頻繁に聞いてきます。みなさん、うれしいんですね」

寸田さんは実習生の姿を、高度経済成長期の勤勉な日本人像に重ねる。「僕らの親は昭和一桁世代なんですけど、ベトナム人の技能実習生は、そこから、昭和20年代に生まれた団塊の世代ぐらいまでの働き方の雰囲気を持っているように感じます。親父を見ているような懐かしさで、よき時代の雰囲気です」

「企業に評価されるのは、やっぱり技能実習生がすごく努力してくれたからだと思います。ここ何年間、実習生の協力が、日本経済を成り立たせてきた。その国が、コロナだけを理由に簡単にシャットアウトして、彼らに苦しみを与える状況なんです。だから、一人でも多くの実習生が日本で早く働けるようになってほしいと思います」