国際線の多くが欠航し、静まりかえった関西空港の到着ロビーで3月9日、マスク姿のカップルを見つけた。フィリピン人の歯科医師、アン・テノリオ(27)とレイモンド・アルボルテ(34)だ。大阪に向かう電車の中で2人に理由を聞くと、「憧れの日本旅行。やめる選択はなかった」と口をそろえた。
年に2回は外国を旅行し、異文化体験を楽しんできた。日本に行きたいと思ったのは、過去に3度も日本旅行をしているテノリオの母に勧められたから。航空券やホテルは昨年夏に予約。日本食を楽しみに、テノリオは2キロの減量もした。感染拡大の最中での旅行には、反対する友人もいたという。だが、スーツケースに大量のマスクとアルコール消毒液を詰め込み、「対策すれば大丈夫だと思う」と話していた。ただ、その直後に向かい側の席で女性がせきをすると、2人は心配そうに顔を見合わせ、慌てて手を消毒した。
帰国前日の同月13日に大阪市内の喫茶店で再会すると、「日本の食事を楽しんだ」と笑顔を見せた。大阪・ミナミで焼き肉やラーメンを味わい、牛カツの店には2回も行った。「フィリピンにはこんな食べ物はない」と感動した様子だった。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや大阪城天守閣は休業になってしまったが、京都では金閣寺や伏見稲荷大社をめぐって写真を撮影。奈良公園は観光客が少なく、「腹をすかせたシカに襲われて驚いた」とアルボルテは笑った。
もっとも、滞在中に日本での感染が拡大し、不安も日増しに強くなったようだ。神戸観光から大阪に戻る時に満員電車に乗ると、周囲にせきをする人がいて、とても恐ろしかったという。翌日、大阪から京都に向かう際は、人混みを避けて午前5時の始発電車に乗った。この日もテノリオは1分おきに消毒液を手やスマートフォンに吹きかけた。それでも出会った日本人はみな親切で、嫌な思いはしなかったという。「行きたい場所には行けた。食べ物も人も素晴らしかった」と満足した様子だった。
一方、「旅は仕事や生活から解放されリラックスする機会」と話したのは、英国人の高校教師、ケビン・フェカナン(25)。「旅のない人生は考えられない」という。
関空で出会ったのは同月6日。スマホ用のSIMカードを受け取ったり、券売機で切符を買ったりした後、念入りにアルコール消毒液で手を除菌する姿が印象的だった。「普段からサンドイッチを食べる時に除菌することはあるけど、ここまで頻繁にはしないよ」と笑った。
海外旅行が一番の趣味で、2カ月に1度は旅に出る。昨年11月にもチェコ、今年1月にはヨルダンを訪れていた。
今回の旅では韓国にも行く予定だったが、飛行機が欠航したため断念した。香港に住む友人と大阪で合流する計画も、香港からの便が欠航となって実現せず、一人で大阪の四天王寺や京都の金閣寺などをめぐることに。それでも、「今はとにかく日本に来られて幸せ」と日本での旅に期待していた。
オーストラリアからは北海道のニセコや長野県の白馬などでスキーやスノーボードを楽しむ人が少なくなかった。ライリー・グレイ(21)とルーク・サイモンズ(21)は友人らと2月下旬に初めて来日。白馬のゲレンデでスノーボードを満喫した。「雪はオーストラリアより格段によくて最高だった」
日本で印象に残ったのが、親切な人々とおいしい食事だという。「僕らはまったく日本語が話せない。それなのに英語が話せない人でも一生懸命に話を聞き、道案内をしてくれた。本当に助けられた」と感謝する。気に入った料理を挙げてもらうと、寿司の次がラーメンだった。「温かくておいしかった。がんばって箸を使うと手が痛くなったけど、かなりうまく食べられるようになったよ」と自慢げだ。さらに「グレートだったのはローソンのチキン。オーストラリアではあんなお値打ちな価格はあり得ないから、毎日のように食べたよ」と笑った。
手をよく洗うなど新型コロナ対策に気をつける必要もあったが、「本当にエンジョイした。次は絶対にニセコに行くよ」と誓っていた。
一方、シドニーに住むエミリー・メイ・ペリー(18)は、オーストラリア政府が自国民も含めたすべての入国者に14日間の自主隔離を求め始めた3月16日、日本へと旅立った。日本のアニメを見て自然と日本語を覚えたという日本好き。日本の文化を体験したいと、高校卒業から大学入学までの間を利用した念願の旅だった。「私には今年がチャンス。帰国後の自主隔離も覚悟している」