1. HOME
  2. World Now
  3. アングル:コロナ禍で「不安のラマダン」、イスラム社会に激震

アングル:コロナ禍で「不安のラマダン」、イスラム社会に激震

World Now 更新日: 公開日:
聖なる断食月「ラマダン」の開始を数日後に控え、イスラム世界は新型コロナウィルスのパンデミックがもたらした、タイミングの悪い難問に頭を悩ませている。連帯を深めることが尊ばれる時期なのに、他者との距離を取らざるをえないからだ。写真は3月、イスタンブールのモスクを消毒する人(2020年 ロイター/Kemal Aslan)

イスラム暦において最も神聖な月であるラマダンには、家族や連帯感が重視される。共同体を自覚し、思索を深め、慈善を広げ、そして祈りを捧げる月なのだ。

だが、セネガルから東南アジアに至るまで、感染防止への外出禁止令が出され、各地のモスクが閉鎖されている。大人数による礼拝集会が禁止される中で、約18億人のムスリムたちは、今月23日前後に始まる次のラマダンにかつてない不安を抱いている。

■誰もがおびえている

アルジェに暮らすヤミネ・ヘルマシュさんは、例年であれば、日の出から日没までの飲食が禁じられるラマダンの期間中、親戚や隣人を自宅に招いてお茶や冷たい飲み物を提供する。だが、今年は状況が変わりそうだ、とヤミネさんは気を揉んでいる。

彼女は涙を流しながら、「こちらから向こうを訪問することもできず、彼らも来てくれないだろう」と言う。「大事なお客さまも含めて、誰もがおびえている」

アルジェリアではモスクが閉鎖されており、その中での礼拝はできない。夫のモハメド・ジェムディさんは「タラウィーのないラマダンなど考えられない」と言う。「タラウィー」とは、夜になり、断食を解いて「イフタール」と呼ばれる夕食をとった後にモスクで行われる特別礼拝だ。

感染者は湾岸地域でも増加しており、サウジアラビアはイスラム教徒に対し、礼拝のために集まったり、他人と交流しないよう求めた。

「みんなで1つのボートに乗っている。ともに頑張れば安全に岸に着く」。タウフィック・アル・ラビア保健相は20日、テレビでそう演説した。「ラマダンの期間中、これまで多くの社会活動をしてきたが、今年は違う。社会的距離を保つよう、お願いする」。

ヨルダンでは、政府が近隣のアラブ諸国と連携して、ラマダンの儀式のうち何が容認されるのかを示すファトワ(宗教見解)を出す見通しだ。しかし、国内数百万人のムスリムは、すでに例年とはひどく違う感触を抱いている。

■これまでで最悪の年

人口2300万人を抱えるエジプトの首都カイロ。ふだんなら露天市場から街路に至るまで、24時間、人々の動きが絶えることはない。だが新型コロナウィルスは、ここでも甚大な被害をもたらしている。

歴史のあるモスク「アル=サエダ・ザイナブ」の近くで屋台を営むサミル・エル・ハティブさんは、「人々が買い物をしたがらない。コロナに脅えている。これまでで最悪の年だ」と語る。「昨年に比べたら、売り上げは4分の1にもならない」

ラマダンの期間中、カイロの露天商たちは、断食が解かれる夜に向けて、テーブルにナツメヤシやアンズ、甘味のある果実を山積みにする。市中の壁には、竿にかけられた「ファワニー」と呼ばれる伝統的な灯籠が飾られる。

だが今年は、当局が夜間外出禁止令を出し、地域単位での礼拝集会などの活動を禁じているため、灯籠の購入を気にする人はあまり多くない。

あえて外出していた少数の人たちの1人、証券市場でマネジャーを務めているナセル・アブデルカデルさんは「今年はラマダンのムードはまったくない」と言う。「いつもなら市場に来ると、ラマダンの始まりとともに人々が音楽を演奏し、そのあたりに座り込む。ほとんど街路で暮らしているような感じになる」

■あらゆる連帯が失われている

新型コロナ禍は、ラマダンのなかで断食と並んで義務と見なされている慈善活動にも悪影響を及ぼしている。

アルジェリアでは、レストランのオーナーたちが頭を抱えている。店を閉めてしまったら、困窮者にどうやってイフタールを提供すればいいのか。南アジア系の低所得労働者にイフタールを提供していたアブダビの慈善団体も、モスクが閉鎖されている今、何をなすべきか手探り状態だ。

アラブ首長国連邦(UAE)はこのほど、集団感染が発生した地域で、食品を詰めたパックや食事1000万食分を提供し始めた。

インドから働きに来ているエンジニアのモハメド・アスラムさんは、アブダビの商業地区にある3ベッドルームの集合住宅に、14人の仲間と共に寝起きしているが、新型コロナウィルスのために失業してしまった。彼が入居している棟は、住民の1人が陽性の診断を受けたために隔離されており、食糧は慈善団体に頼っている。

セネガルでは、やり方は限定しつつも慈善活動を継続する計画だ。海辺の首都ダカールでは、「ンドグ」と呼ばれるチョコレートクリームをたっぷりと塗ったバゲット、ケーキ、ナツメヤシ、砂糖、牛乳を困窮者に提供することで知られる慈善団体が、街路ではなく、宗教系の学校で配布することにしている。

一方、ムスリムが多数派を占める国として最も人口の多いインドネシアでは、今年、愛する家族とオンラインで再会する人も出てきそうだ。

プラボウォさんは、飛行機で家族のもとに帰る代わりに、オンライン会議用アプリ「Zoom」経由で、ラマダン明けの祝祭「イド・アル=フィトル」を祝う予定だ。

「新型コロナが心配だ」と彼は言う。「それにしても、あらゆる種類の連帯が失われている。一緒にイフタールを食べることもなく、モスクでの集団礼拝もなく、友人とのおしゃべりもない」

(翻訳:エァクレーレン)

Copyright Reuters 2020 記事の無断転用を禁じます