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ミシェル・オバマが新しい著書 宣伝ツアーはマドンナばり

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2018年11月13日に発売されるミシェル・オバマの回想録「Becoming(原題)」の表紙=Crown via The New York Times/c2018 The New York Times。前ファーストレディーは、マドンナばりの本のプロモーションツアーで公の場に戻ってくる

前から5列目の席は1256ドル。本人と直接会える最前列なら、最高で3千ドル。後方の車イス用の席は400ドル。上の階は29ドル50セント――会場は、ニューヨーク・ブルックリンの屋内競技場兼多目的ホールのバークレイズ・センター(1万9千席)。

U2かビヨンセの一大ショー?

残念でした。正解は、前ファーストレディー、ミシェル・オバマの講演会。2018年11月13日に発売される回想録「Becoming(原題)」のプロモーションツアーの一つとして開かれる。

ホワイトハウスを去って(訳注=2017年1月)、ミシェルはあまり目立ったことはしてこなかった。それが、一気に公の場に戻ってくる。

これまでの本の売り出しなら、違う手順を踏んだだろう。著者がポッドキャストでインタビューに応じる。さらに、ニューヨークの文化的な催し物の会場として有名な92ストリートYに登場する。米オレゴン州ポートランドのパウエルズブックス(訳注=独立した一つの書店としては世界最大規模)にも。

ところが、ミシェルは全米10都市のツアーをいきなり始める。企画するのは米社ライブ・ネイション。マイリー・サイラス、ビヨンセ、U2ら約500人ものアーティストを抱える世界最大のコンサートプロモーターだ。

ミシェルのツアーは、出身地のシカゴから始まる。バスケットボールのシカゴ・ブルズの本拠ユナイテッド・センター(2万3500席)が会場になる。さらに、カリフォルニア州イングルウッド、首都ワシントン、ボストン、フィラデルフィア、デトロイト、デンバー、カリフォルニア州サンノゼ、ダラスと続き、最後が冒頭のバークレイズ・センターになる。

ライブ・ネイションのサイトによると、ミシェルの講演会は、回想録に出てくる「さまざまな極めて私的なできごと」をめぐる各会場の司会者との親密で正直なやりとりが中心になる。一般販売に先立つ18年9月20日までの先行予約は、人気があまりに高く、ワシントンとブルックリンの会場で追加講演が行われることになったほどだ。

他にも、コンサートツアーに似た本のセールス企画はあった。例えば、(訳注=米作家、シェフ、番組司会者の)アンソニー・ボーディン。16年の著書「Appetites(原題)」の紹介で15の都市をかけめぐった。会場となったのは、コネティカット州マシャンタケットのフォックスウッズ(訳注=大型娯楽施設)にあるグランドシアター(約2千席)や、サンフランシスコの戦争記念オペラハウス(約3千席)などだ。ただ、今回は、規模が違う。

ミシェルの回想録の売り出し企画は、ヒラリー・クリントンの17年の著書「What Happened(邦題:WHAT HAPPENED 何が起きたのか?)」で展開されたスケールをも上回る。ヒラリーは、シカゴのルーズベルト大学の劇場ホール(3875席)やワシントンのワーナー・シアター(1875席)などに登場。VIPパッケージを購入すると、席の選択肢があり、一緒に自撮りもできるようになっていたが、値段は2千ドル超にとどまっていた。

ライブ・ネイション社の広報責任者エミリー・ベンダーによると、ミシェルの講演会ではチケットの売り上げの10%は、開催地の慈善事業や学校、地域団体に寄付される。

それにしても、この業界の内部からも驚きの声があがる。米人気作家デビッド・セダリスらの本の大がかりな発売ツアーを企画したことがある書籍販売業者スティーブン・バークレー。チケット売り出し大手チケットマスターのランディングページを見て、文字通り開いた口がふさがらなかった。「これって、マドンナのツアーじゃないの」

現代の慈善事業について批判的な作家アナンド・ギリダラダスも、「今回の企画の規模については、驚きを禁じ得ない」とし、「オバマ夫妻は、自分たちの前任者をはじめ、公的な地位にあった人たちが得た以上の報酬を受け取るべきではない」と話す。

「黒人初の大統領とファーストレディーだった者として、他の人なら許されることでも、あえて自重すべきだ――そんな論議にならないよう、十分に気を付けた方がよい」とギリダラダスは助言する。「講演会場となる競技場には、階段状に座席が並ぶ。その光景は、自分たちが壊したいことの象徴のように見える」と言うのだ。「すべてを現金化する金もうけ主義。それが、無意識のうちにわれわれの共通の文化になってしまい、そんな水の中でみんなが泳いでいるように私には思える」

そして、オバマ夫妻は、その最も深いところに飛び込んだようだ。

夫妻は、それぞれ個別に回想録を出す。これについては、17年に米クラウン・パブリッシング・グループとの間で合意が成立した。世界最大手の出版社ペンギン・ランダムハウスの子会社で、契約金の額についてはコメントを避けている。

出版契約に加えて夫妻は18年5月、ネットフリックス社と複数年にわたる契約を交わした。テレビのショー番組などストリーミングサービス向けのコンテンツを提供する内容で、夫妻が立ち上げたプロダクション会社ハイヤー・グラウンドを介しての事業になる。契約金などは明らかにされていないが、類似の事例から数千万ドル(数十億円)規模になると見られている。

さらに、複数の消息筋によると、ミシェルとクラウン・パブリッシング・グループは、米出版社ハーストマガジンズと「Becoming」の販売を促進する取り決めを結んだ。出版物やサイトに回想録のコンテンツをちりばめるというもので、前ファーストレディーというよりは芸能スターのプロモーションに特有の手法と言った方がよいかもしれない。双方の間に入ったのは、米3大テレビネットワークのCBSの関係者らで、ミシェルはファッション誌ELLEの12月号の表紙を飾ることになっている。

肝心の回想録の中身は、極秘にされている。とはいえ、ミシェルは18年6月に、ヒントになりそうな点をいくつか明かしている。ニューオーリンズであった米国図書館協会の催しの一つとして、友人の連邦議会図書館司書カーラ・ヘイデンのインタビューを受けて答えたものだ。

好きな作家は誰か(絵本作家のドクター・スースから英作家ゼイディー・スミスまで)。ミシェルの母マリアン・シールズ・ロビンソンが人生で果たしてくれた役割。自分のキャリアと母親と大統領夫人という3役をこなす難しさ――そんなことを軽やかに語りながら、弁護士としての自分のキャリアを中断したことにも触れた。「夫の政治的な地位がどんどん上がり、それにつれて周辺も騒がしくなった」からだ。それでも、母親であることが終始、自尊心の支えになったと言う。

「自分が大変価値のある存在だと他人に語るのは気が引けるもの」とミシェルは話した。「とくに、女性にとっては。自分にはどれだけ価値があるかを示し、これに金銭的な数字まで付け加えることは、なかなか難しいことよ」(抄訳)

Jacob Bernstein©2018 The New York Times

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