1. HOME
  2. World Now
  3. 外国人労働者受け入れ、台湾に学ぶ 都会生活に満足、スキルアップも

外国人労働者受け入れ、台湾に学ぶ 都会生活に満足、スキルアップも

World Now 更新日: 公開日:
日曜の台北駅は同胞の友人たちと会うために集まる外国人労働者でいっぱいになる

日本でも外国人労働者が増え続けているが、東アジアでいち早く彼らを受け入れてきたのが台湾だ。労働環境などさまざまな問題は報じられているものの、現地を取材して印象的だったのは、それなりに台湾生活を楽しんでいる姿だった。外国人労働者の受け入れで、台湾に学ぶこともありそうだ。(GLOBE記者 浅倉拓也)

過去最多の日本より高い割合

厚生労働省が1月に発表した統計によると、日本国内で雇用されている外国人労働者は昨年10月末現在で約128万人。前年から18%増え、過去最多を更新した。これには、日本人の配偶者や日系人ら(約36%)や、アルバイトの留学生など(約20%)も含まれる。

一方、台湾が受け入れている外国人労働者は同時期で約67万人。結婚などで来た人や専門職の外国人などは含まれていない。総人口が日本の5分の1以下であることを考えると、日本よりかなり高い割合で外国人労働者が働いていることになる。

この67万人の労働者のうち3分の1以上は介護労働者で、そのほとんどは台湾人家庭に住み込みで働いている。このため台北市内では、高齢者の車いすを押したり、散歩に付き添ったりする外国人の姿をよく見かけた。休日には台北駅など主要駅には、介護や工場で働く外国人たちがおおぜい集まり、床に座り込んで談笑するのもおなじみの風景だ。これなら、お金をかけず、人数や時間も気にせず集まれる。世話をしている車椅子のお年寄りと一緒に、駅に来ていた介護ワーカーたちも見かけた。

日本の都市部でも、コンビニや飲食店で外国人店員と接することは当たり前になった。ただ、彼らの多くは留学生で、本来は労働者ではない。台湾の外国人労働者に近いのは、「外国人技能実習生」だが、彼らの職場の多くは郊外や地方の工場、農業、漁業の現場などで、日本人との接点も限られている。

台北市内で声をかけた外国人労働者たちに台湾生活について聞くと、「電車で簡単に移動できるのがいい」「同じ国の友人と集まれるから寂しくない」といった声が聞かれた。都会生活をそれなりに楽しんでいる様子がうかがわれた。

NGOがビジネス講座も

台湾生活を楽しんでもらうだけでなく、より有意義なものにしてもらおうと取り組むNGOもある。陳凱翔(28)と呉致寧(25)の若い2人が3年前に立ち上げた「One-Forty」だ。団体名は「台湾の40人に1人は外国人労働者」にちなむ(現在は「35人に1人」になっている)。

外国人労働者を支援するNGO「One-forty」のメンバーは若くて明るい

台湾人の若者と外国人労働者が、ピクニックや小旅行、料理などを一緒に楽しむ「オープン・サンデー」のイベントだけでなく、中国語や英語、経理やビジネスなど外国人労働者向けのさまざまな講座を開いている。「出稼ぎ労働者の多くは、母国に帰った後、専門的なスキルを身につけていないので仕事がなく、再び出稼ぎに出ることになる。出稼ぎ期間が長ければ長いほど(帰国後の就職が)難しくなる」と陳。大学ではビジネスマネジメントを学び、コンサルティング会社で働いた経験もある。

日曜に休めなかったり、遠方に住んでいたりする労働者のために、講座はインターネットでも配信し、ビデオは100本以上制作した。これまでに講座を教室で受講したのは約400人だが、オンラインでの参加者を加えるとさらに多くなるという。

民間からの寄付や、講座への政府補助金などが主な財源で、専従スタッフは5人。写真やデザインを専門とするメンバーもいるので、ウェブサイト(https://one-forty.org/)や活動を紹介する印刷物などは、見た目も洗練されている。

NGO「One-forty」が外国人労働者や一般の台湾人に配布しているリーフレットなどはデザインも優れている

「『すべての出稼ぎ労働者の旅を、有意義で刺激的なものに』が私たちのモットーです」と陳は言う。さらに、「労働者たちが、台湾への良い印象を母国に持ち帰り、広めてくれれば、民間外交にもなります。(東南アジアとの関係を重視した)政権の『新南方政策』にも沿っている。お金をかけて台湾をPRするより良いでしょう」と話した。

政治家「包括的な支援を」


民間だけでなく政治も、外国人労働者や、結婚で中国大陸や東南アジアから来た「新住民」のための政策を打ち出している。野党国民党の立法委員(国会議員)林麗蟬(40)は「外国人労働者が、例えばパソコンを学ぶ機会を持つなど、台湾でより高い技術を身につけられるよう法的な支援をしたい。外国人労働者が能力を向上できるような政策は、海外から良い人材をひきつけることにもつながる」と言う。

国際移民デーのイベントでスピーチをする立法委員(国会議員)林麗蟬

カンボジア出身で「新住民」初の立法委員になった林は「台湾の移民政策は完全ではない。これまで何か問題が起きると、そのつど対応していたが、台湾に来た移民を包括的にサポートする『新住民基本法』が必要だ」と訴える。「台湾はもともと多元文化の地域。オランダや日本に統治されていた時代から、多様な文化を受け入れてきた」と林が言うように、台湾は移民の受け入れについてポジティブな考え方が強いようだ。

日本でも昨年秋に、技能実習制度で介護人材を受け入れることが解禁された。アジアでも台湾やシンガポールなど、すでにこの分野を外国人労働者に頼っている国々と競わなければならない。

アジアから日本に「出稼ぎ」に来る外国人を取材していると、彼らの多くは、賃金だけでなく、日本での暮らしや将来役に立つ技術を身につけることに、より高い期待を持つようになっていると感じる。外国人労働者の受け入れをめぐる議論では、人権侵害や不当な搾取を防ぐことは当然だが、こうした期待にどう応えていくかも必要な視点だ。(敬称略)